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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編⑤四天王

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一番槍

白い塔の大広間。天井は高く、白亜の柱が規則正しく並び、戦場であることを拒むかのように静謐な美しさを放っていた。だが、その中央に立つ男がすべてを壊していた。


重厚な鎧に身を包み、背よりも高い槍を片手に構える。

四天王の一角、異名「一番槍」――その姿はまさに軍勢を貫く矛であり、圧倒的な威圧感が空間を支配していた。


彼が開口一番に吐き捨てた言葉は冷酷だった。


「……ああ、無駄なことを。魔女達が幸せになることなど、ありえはしない」


その言葉は剣より鋭く、矢よりも速く、健司たちの胸を突き刺した。


異様な空気が広がり、リセルもクロエも思わず互いを見た。

だが次の瞬間、彼女たちはさらに驚愕する。

――その異様さの源は、目の前の四天王ではなかった。健司だった。


彼の瞳には怒りでも恐怖でもない。まるで底のない光を秘め、静かに燃え立つような輝き。

リセルは小さく息を呑む。


「……健司?」


今まで一度も見たことのない気配だった。


健司は一歩前へ進み、静かに告げた。


「あなたみたいな人には分からない。……先入観でしか見ていないから」


槍の男が嘲笑した。


「ふん、魔女に騙されている愚か者が何をほざく?」


その挑発に応じるように、一歩前へ出たのはリーネだった。


「……黙れ」


低く押し殺した声。普段の彼女を知る仲間たちでさえ、背筋を凍らせる冷たい響き。

一番槍の瞳がわずかに細まる。


「ほう……リーネか。薬で実験された村の生き残り……」


その言葉は彼女の心の奥底に隠したはずの記憶を抉り出した。

リーネの全身を黒い怒りが駆け抜ける。震える肩を押さえられず、彼女の瞳は深い紅を灯す。


「……忘れるわけがない。あの日のことを。泣き叫ぶ声も、血の匂いも……全部」


「お前たちの正義とやらのために、いくつの命が消えたと思ってる!」


炎のように吐き出された叫びに、一番槍は眉一つ動かさない。


「無駄だ。弱きは淘汰される。それだけだ」


その瞬間、リーネの足元から黒い魔力が爆ぜた。

同時に、ローザが彼女の隣に歩み出る。


「リーネ……一人で背負うな。私も一緒に戦う」


リーネは彼女を一瞥し、わずかに震える声で頷く。


「……ありがとう、ローザ」


こうして、二人と四天王・一番槍との戦いの幕が切って落とされた。


「行くぞ」


一番槍の体が霞のように消え、次の瞬間、リーネの目の前に槍があった。


「ッ!」


咄嗟に魔法を展開するが、穂先はそれを容易く貫き、肩を裂いた。


血が散る。リーネの顔が苦痛に歪む。


「リーネ!」


ローザが剣で横から斬り込む。だが、その軌道さえも予測済みのように、槍が回転し、衝撃波で弾き飛ばされた。


「甘いな。魔女の攻撃は、すべて見慣れている」


リーネは歯を食いしばりながら詠唱する。


「アンチリジェクト!」


逆転の魔法が槍へ放たれる。


だが、男は嘲笑した。


「その程度で俺の槍を拒めるものか!」


魔法を弾き返し、逆にリーネを吹き飛ばした。


「くっ……!」


壁に叩きつけられた衝撃で息が詰まる。


「リーネ!」


ローザが支えるが、彼女自身もすでに腕に深い傷を負っていた。

男の槍技――それは「スピア」と呼ばれる一撃必殺の連撃。

槍の穂先が放つ衝撃波が、避けても避けても追いかけてくる。


「これが……一番槍……!」


ローザが悔しげに吐き捨てる。


「白い塔を越えられると思ったか? ここまで来た魔女たちは、皆この槍に沈んだ」


男は、冷酷に言い放った。




血を流しながら、リーネは床に膝をついた。

ローザも立ち上がるが、剣を握る手が震えている。


「ダークナイフ!」


彼女は影を刃と化し、無数の暗黒の短剣を放った。


黒い刃が雨のように降り注ぐ。

だが、一番槍は一歩も動かず、槍を回転させるだけで弾き払った。


「……戯れだな」


その余裕に、ローザの心が折れかける。


だが――リーネの瞳が燃えていた。


「……まだよ。まだ……終わっていない」


「リーネ?」


「禁忌に触れる魔法……アンチリカバリー……」


リーネの体が黒紫に輝き始める。

その魔法は、彼女自身の負った傷を、そっくりそのまま敵に返すというもの。

だが同時に――彼女自身も痛みを受け続ける、命を削る魔法。


「なに……これは?」


一番槍が眉をひそめる。

彼の脇腹が裂け、肩口から血が噴き出した。


「俺の体が……勝手に……ッ!」


リーネは血を吐きながらも叫ぶ。


「これが……あなた達が与えてきた痛み! 返してあげる!」




「リーネ!」


ローザは叫びながら駆け出す。


「お前ごと貫く!」


一番槍が最後の力を振り絞り、リーネに槍を突き立てた。


だがその瞬間――ローザがその背後に回り込む。

影が伸び、闇の刃が無数に浮かび上がる。


「これで……終わりだ! ダークナイフ!」


影の短剣が一斉に槍の隙間を突き、鎧を貫いた。

男の瞳が見開かれる。


「馬鹿な……俺が……魔女ごときに……!」


次の瞬間、全身が崩れ落ちた。

白い塔の床に重い音を立てて倒れ込む。

槍が砕け散り、血が広がった。




「……リーネ!」


ローザが駆け寄ると、リーネは血だらけの顔で笑っていた。


「……勝ったの……?」


「ええ、勝ったわ。あなたのおかげで」


リーネは目を閉じ、息を整えながら呟いた。


「……あの日の痛みを……返せた……」


その背後で、健司たちが駆け寄ってきた。


「二人とも……よくやった!」


リーネはわずかに笑い、ローザは剣を収めた。

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