表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
アスフォルデの環①ヴェリシアとローザ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/157

魔女の名とかつての仲間

風は静かだった。

さっきまでの戦いがまるで幻だったかのように、丘の上には穏やかな時間が戻ってきていた。


クロエは小さな焚き火を囲みながら、火に当たっていた。

その隣に、ルナが座り、ミイナも少し離れた岩の上に腰掛けている。健司は、クロエの向かいにいた。


言葉は、誰も口にしなかった。

だが、やがてその沈黙を破ったのは、健司だった。


「……さっきの人たち、クロエのことを知っていたみたいだった」


クロエは火の揺らめきを見つめたまま、目を伏せてうなずいた。


「うん。ヴェリシアと、ローザ。ふたりとも、私の“昔の仲間”よ」


「仲間……?」


ミイナがゆっくりと視線を向けてくる。

ルナもまた、唇をかすかに引き結んで、クロエの言葉を待っていた。


「……そうね、話す時が来たかもしれないわ」


クロエは深く息をついた。

炎が揺れ、その赤い光が彼女の表情を照らし出す。


「私はね、かつて“アスフォデルの環”という、魔女の組織にいたの。正確には、魔女たちが集まる小さな共同体……自分たちで守りあいながら、人間から距離をとって生きる場所だった」


健司は、クロエの目がわずかに寂しげに揺れたのを見た。


「そこには、いろんな魔女がいた。夜を恐れる子もいれば、声を失った子もいた。みんな、力と心に“傷”を抱えていて……それをどうにかして生き抜こうとしていたのよ」


「……ヴェリシアとローザも、そこにいたの?」


ルナが問いかけると、クロエは静かにうなずいた。


「ええ。ヴェリシアは、規律と誇りを大切にする子だった。正義感が強くて、自分の信じる道をまっすぐに歩こうとしていた。一方、ローザは……とても優しい子だった。あんなふうに攻撃的だったなんて、信じられないくらい」


「じゃあ、どうして……」


健司が小さく呟く。


クロエはしばらく沈黙し、そして口を開いた。


「ローザの村が、襲われたのよ。人間たちに。“魔女の呪い”があるって理由で。実際には、病気だったの。ただの、自然に広がる病」


ミイナが唇を噛んだ。

その言葉には、彼女の過去にも重なる何かがあったのだろう。


「ローザはそれを止めようとした。力を使っても、話し合いを求めても、何も変わらなかった。むしろ恐れられて……燃やされたの。家も、家族も、すべて」


「そんな……」


「ヴェリシアは、その時も冷静だった。復讐ではなく、組織として力を蓄えることが必要だと言って、アスフォデルの環を拡大させていった。でも私は……」


クロエは、炎から視線を外した。


「私は、信じたかったの。人間にも、変われる人がいるって。世界はすぐには変わらなくても、歩み寄れる日が来るって。でも……それは、組織では許されなかった。『理想論者』って呼ばれて、やがて孤立して……私は、出ていったの」


風が、ふと吹き抜けた。誰も言葉を挟まなかった。

それは、クロエの痛みの記憶に、誰もが敬意を払っていたからだ。


「でも、君は戻らなかったんだね」


健司がやさしく言った。


「ええ。私には、まだ諦められなかったから。そして、あなたに出会って……少しずつ、希望が現実に変わっていくのを見てる。だからこそ、きっとヴェリシアやローザも、変われる。そう信じてるの」


ルナが、そっと手を重ねた。


「私も、変われたよ。あの時、健司に“歌っていい”って言ってもらえたから」


ミイナも静かにうなずいた。


「私も……夜が怖くて仕方なかったけど。健司と一緒にいて、少しずつ光を受け入れられるようになった。クロエが信じる道、私も歩いてみたい」


クロエは微笑んだ。


「ありがとう。ほんとに、ありがとう。ふたりがいてくれて、私は……怖くない」


健司は立ち上がり、手を差し出した。


「クロエ。これからも一緒に歩こう。どんなに遠回りでも、きっと“信じられる未来”がある。僕はそれを見たい。君たちと一緒に」


クロエはゆっくりと立ち上がり、健司の手を取った。


「ええ、もちろん。私も一緒に歩くわ、健司」


夜空には、星がひとつ、またひとつと浮かび始めていた。

風があたたかくなった気がしたのは、焚き火のせいだけではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ