白い塔へ
荒れ果てた平原の向こうに、雪のように白い塔がそびえ立っていた。
それは天空を突き破るかのごとく高く、どこまでも澄み渡る空を切り裂いていた。塔の周囲には城壁が幾重にも築かれ、まるで大陸そのものを支配する意志の象徴のようだった。
「──ここがホワイトヴェルだ。」
馬上のカリオペが低く告げた。その瞳には迷いはなかった。
健司たちは息を呑み、その塔を見上げる。圧倒されるような存在感に、胸の奥がざわめいた。
と、その時。
塔の根元から、一人の男が姿を現した。
深紅の外套をまとい、鋭い双眸を輝かせる。
領主──ブラッジ。ホワイトヴェルを治める男である。
「ようこそ、カリストの者たちよ。」
声は不気味なほど穏やかで、しかしどこか人を見下す響きがあった。
「そして……噂に聞く健司。アスフォルデの環を倒し、アナスタシアすら屈服させたという。なるほど、確かにただ者ではない。」
ブラッジの視線が健司を射抜いた。
その目に映るのは好奇か、それとも敵意か。
健司は自然と身構えた。
「返事を聞かせてもらおう。」
ブラッジの言葉は挑発そのものだった。
「我らと共に歩むか。それとも──敵として滅びるか。」
カリオペが一歩前に出る。
その声は凛として響き渡った。
「ノーだ。我々は妹を迎えに来ただけだ。戦うために来たのではない。」
一瞬の沈黙。
しかしブラッジは口角を吊り上げ、冷たく笑った。
「残念だ。」
その声には容赦の欠片もなかった。
「ならば──今ここが戦場となる。」
次の瞬間、白い塔の城門が開き、ホワイトヴェルの兵士たちが一斉に雪崩れ出た。
鋼鉄の甲冑をまとい、槍と剣を掲げ、戦鼓を鳴らして突撃してくる。その数は圧倒的で、地響きと共に大地を揺るがす。
「全軍、構えよ!」
カリオペの声が響く。
カリストの魔女たちが陣を張り、結界を展開した。青白い光が空を覆い、迫り来る兵の槍をはじく。だが敵は止まらない。幾千という兵士の波が、雪崩のように押し寄せてくる。
「健司!」
カリオペが叫ぶ。
「ブラッジを追え! 妹は塔の中にいる! 我らがここで兵を食い止める!」
「……わかりました!」
健司は頷き、仲間たちに振り返った。
「みんな、行くぞ!」
クロエが剣を構え、リセルが弓を引き絞る。
カテリーナは炎の魔法を纏い、エルネアが未来予測の光を周囲に放つ。ソレイユは静かに短剣を抜き、瞳に決意を宿した。
そして彼らと共に、リーネ、クラリーチェ、ノイエル、ヴァルディアら、かつて敵対した魔女たちも立ち上がる。
「過去を断ち切るために……!」
リズリィが叫び、月光の刃を振り抜いた。
その一閃が、突進してきた兵士の槍を粉砕する。
健司たちはその隙を突いて前へと駆け出した。
背後では轟音と怒号が渦巻き、火花と血飛沫が乱舞する。だが彼らの目はただ一点──白い塔の入口を見据えていた。
***
城門を抜け、塔の影に飛び込むと、冷たい風が肌を刺した。
塔の内部は異様な静けさに包まれている。外の激戦が嘘のようだった。
「この中に……」
健司は息を整えながら呟いた。
「カリオペさんの妹がいるんだな。」
「ええ。」
クロエが頷く。
「でも気をつけて。ブラッジが簡単に通すはずがない。」
その言葉通り、塔の奥から重々しい気配が迫ってきた。
やがて現れたのは──黒鎧に身を包んだ巨躯の戦士。
その背には巨大な戦斧が背負われていた。
「……四天王の一人だな。」
リセルが息を呑んだ。
男は名を告げず、ただ無言で槍を振り下ろした。
轟音と共に床石が砕け、破片が四散する。
健司はすんでのところで仲間を引き寄せた。
「来るぞ──!」
塔の中に、再び凄絶な戦いの火蓋が切って落とされた。
外ではカリオペとカリスト軍が血戦を繰り広げ、内では健司たちが四天王との死闘に挑む。
そして、その奥深くには──未だ知られざる真実が眠っている。
それを知る時、彼らの運命はさらに大きく揺れ動くのだった。




