四天王
高原を越え、岩山の隙間を抜けた先に広がるのは、純血主義国家と呼ばれたカリストの大地だった。
規律と秩序を感じさせる拠点があった。そこが今やカリオペの拠る根拠地である。
健司たちが到着すると、広場に整然と並ぶ魔女たちが出迎えた。その姿は、まるで一つの国家のようだった。
「相変わらず……」
クロエが小声でつぶやく。
「やっぱりカリオペの統率力は尋常じゃないわ。まるで国を率いる女王みたい。」
健司も頷いた。彼の目にも、カリオペの軍勢は単なる寄せ集めではなく、信念によって結ばれた集団に見えた。
やがて広場の奥から、白銀の髪をなびかせたカリオペが現れた。背筋を伸ばし、鋭い眼差しで一同を見渡すその姿は、凛然として美しい。
「よく来てくれた。」
その声には、不思議な威厳と温かさが同居していた。
「健司、そしてアスフォルデの環の者たち。今こそ手を携える時だ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
健司は一歩進み出て頭を下げた。
「では……」
カリオペは静かに言葉を区切る。
「いよいよ、ホワイトヴェルに向かう。」
その言葉に、広場がざわめいた。
ホワイトヴェル──白い塔を中心とした聖域にして要塞。数多の魔女や勇士が挑み、誰一人として成果を挙げられなかった場所。そこに足を踏み入れるというのだ。
「ですが……その前に。」
カリオペは健司を見据えた。
「あなたに伝えておかねばならぬことがある。」
「……何でしょうか?」
「ホワイトヴェルの戦力だ。」
その瞬間、場の空気が緊張で張り詰めた。
カリオペは手を組み、ゆっくりと告げる。
「なぜ我らがこれまで手を出せなかったのか。その理由の一つが──四天王の存在だ。」
「四天王……?」
リセルが息をのむ。
クロエも険しい表情になる。
カリオペは頷いた。
「四天王は、ホワイトヴェルの領主ブラッジが配下とした四人の守護者。実力で言えば、私の側近──グルバルやハートウェルに匹敵する。」
「なるほど……。」
健司は腕を組み、考え込んだ。
「そうなると、一筋縄ではいきませんね。」
「そうだ。」
カリオペの声は低く、だが揺るぎなかった。
「彼らはただの戦士ではない。ホワイトヴェルの根幹を支える柱だ。それぞれが一国の軍勢に等しい。だが──それを突破せねば、塔に囚われた者たちを救えぬ。」
「囚われた者……」
健司の脳裏に、昨夜聞いた名がよぎった。レディア。カリオペの妹であり、聖光魔法を継ぐ存在。
「だからこそ協力が必要なのだ。」
カリオペは健司の瞳を覗き込む。
「あなたの力が。」
健司は少しだけ視線を逸らし、仲間たちを見回した。クロエ、リセル、カテリーナ、エルネア、そしてソレイユ。彼らは皆、期待と不安の入り混じった目でこちらを見ている。
「……わかりました。」
健司は小さく息を吐き、頷いた。
「僕にできることがあるなら、全力でやります。」
「ありがとう。」
カリオペの表情が一瞬だけやわらぐ。
だがすぐに、その目は再び戦う者のものに戻った。
***
その夜、健司たちはカリストの本拠地の宿に泊まった。。
電気の光の下で、仲間たちはそれぞれの思いを語り合う。
「四天王か……」
リセルが火を見つめながら呟く。
「私たちだけで勝てる相手なの?」
「勝つしかないんだよ。」
クロエが真剣な表情で言い切った。
「健司は一人じゃない。私たちもいる。」
「でも……」
カテリーナが腕を組んでそっぽを向いた。
「やっぱり健司ばかり頼られるの、面白くないわ。」
「ふふ、素直じゃないんだから。」
エルネアが苦笑する。
「でも、私も同じ気持ちよ。健司が無茶をして倒れるのは嫌。」
健司はそのやりとりを聞きながら、胸の奥に温かさを感じていた。仲間の声が、自分を支えてくれる。だから戦える。
しかし同時に、胸の奥でひっそりと疼く不安があった。
──四天王。
──そしてブラッジ。
──さらなる「真実」とは何なのか。
フクロウの鳴き声が、夜空に小さく響いた。
そのフクロウの鳴き声が消えゆくと同時に、健司の胸の奥にも不穏な影が広がっていった。
***
翌朝。
隊はついにホワイトヴェルへ向けて進発した。白い塔の姿はまだ見えない。だが空気が冷たく、どこか張り詰めている。草木さえ息を潜めているようだった。
「これからが本番だ。」
カリオペが馬上から声を放つ。
「皆の力を合わせねば、必ず打ち砕かれる。だが、共に行けば必ず道は開ける!」
魔女たちが声をあげた。その響きは山々に反響し、一つの意思を形作っていく。
健司もまた心に誓った。
──僕はこの道を歩む。仲間と共に。
しかしその先に待つのは、ただの戦いではなかった。
ホワイトヴェルの白い塔には、四天王だけでなく──健司達に関わる隠された真実が眠っている。
そしてそれが明かされた時、健司たちの信じてきたものさえ揺らぐことになるのだった。




