表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
リーネ編④救出に向けて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/192

カリオペの妹レディア

白亜の塔は、夜の闇の中でも淡く光を放っていた。

まるでそこだけが月に照らされているかのように、塔の壁面は冷たく輝き、近づく者の心を圧する。塔の内部はさらに異様だった。荘厳な大理石の廊下、無数の封印の紋様が刻まれた扉、そして空気に満ちる魔力の圧迫感。そこは牢獄であり、祭壇であり、実験場でもあった。


領主ブラッジは最上階に立ち、巨大な窓から外を見下ろしていた。

重厚な赤黒の外套が夜風に揺れる。彼の眼差しは冷徹で、しかしその奥に熱狂めいた炎を宿していた。


「……もうすぐだ。」


その声に、部屋の中央で鎖につながれた女性が顔を上げた。

金色の髪が乱れ、額には汗が滲んでいる。けれどその瞳は決して濁らず、清らかな光を宿していた。彼女こそ、聖光魔法を継ぐ者、レディア。カリオペの妹であり、かつて「聖なる盾」と呼ばれた女だ。


「お姉さまが……来るのですか?」


か細い声でありながらも、その言葉は真っすぐだった。

ブラッジはゆっくりと振り返り、薄い笑みを浮かべる。


「そうだ。お前の愛する姉がここにやってくる。そして──彼女の隣には、あの男がいる。」


「……あの男?」


「名は健司。お前も耳にしただろう。アスフォルデの環を倒し、さらにアナスタシアをも屈服させた存在だ。」


レディアの瞳が揺れる。

彼女は囚われて久しく、外の情報は断片的にしか入っていない。それでも「アスフォルデの環」や「アナスタシア」という名は知っていた。いずれもこの世界を震撼させた強大な魔女。その二人を……?


「……信じられません。」


「信じる必要はない。」


ブラッジは嗤った。


「だが事実だ。あの男は魔女を倒し、従わせ、そして惹きつける。魔女どもは彼を慕い、共に歩む道を選び始めている。」


「それが……何になるというのです?」


「何になる?」


ブラッジは歩み寄り、囚われの少女の顎を指で持ち上げた。冷たい笑みが間近に迫る。


「すべては我らホワイトヴェルのためだ。この地こそが秩序の中心。魔女どもが好き勝手に国を築き、街を奪い、民を惑わすなど許されん。健司の力を利用すれば、奴らを容易く支配できる。」


「利用……?」


「そうだ。」


ブラッジの瞳は狂気じみていた。


「健司は魔女の希望。ならばその希望ごと奪えばいい。魔女どもは逆らえなくなる。彼を“象徴”として担ぎ上げ、我らが支配を盤石にするのだ。」


レディアは胸の奥で怒りを燃やした。

姉が信じた者を、利用するだと? だが鎖は重く、魔力を封じられた身体では抗えない。ただその清浄な瞳で睨み返すことしかできなかった。


「お姉さまは……そんなことを許さない。」


「許すさ。」


ブラッジは吐き捨てるように言った。


「妹を人質に取られてはな。お前がここで囚われている限り、カリオペは抗えない。」


レディアの頬を冷や汗が伝った。

──姉を縛るために、自分が利用されている。わかっていた。だがそれを突きつけられると、胸の奥が締めつけられた。


「……あなたは間違っています。」


震える声で、それでも毅然と告げる。


「人を縛り、支配しようとしても、決して心までは縛れません。姉は必ず来る。健司という方も……きっと、あなたの思うようにはならない。」


ブラッジの笑みが消える。

代わりに冷たい怒気が漂った。


「ほう。囚われの身でありながら、まだ信じるか。愚かしい。」


「愚かではありません。」


レディアは瞳を逸らさず言い切った。


「信じることこそ、力です。」


しばしの沈黙。

やがてブラッジは背を向け、窓の外を見上げた。白い塔を包む夜空に、幾筋もの流星が走る。


「……ならば、その信念ごとへし折ってやろう。」


低い声で呟く。


「カリオペも、健司も。お前が絶望するその瞬間に。」


塔の外では、黒い翼を持つ魔獣たちが低く唸り、群れを成して旋回していた。

白い塔は戦の前夜を告げる鐘楼のように、不気味に輝きを増していった。


レディアは目を閉じ、心の中で祈った。

──お姉さま。どうか……健司さんと共に、私を、そしてこの絶望を打ち砕いてください。


その祈りは、まだ遠く離れた地を進む一団の心に、確かに響こうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ