絆
朝日が差し込む山道を、一行は進んでいた。
目的地はカリオペたちとの合流地点――カリスト。
その空気には、出発の時特有の緊張感と、どこか遠足のような浮つきが混ざっていた。
健司の両隣には、クロエとリセルが寄り添うように歩いていた。
クロエは涼しげな顔をしているが、時折ちらちらと健司の横顔を見ている。リセルはといえば、健司に小さな布袋を渡したり、水筒を差し出したりと、甲斐甲斐しく世話を焼いている。
「ねえ、クロエ。もうちょっと詰めすぎじゃない?」
リセルが頬を膨らませる。
「何よ、あなただってさっきから腕を絡ませようとしてるじゃない。……別にいいでしょ?」
クロエがあっさり返す。
「だって健司、疲れてるかもしれないんだもん。」
「それなら私だって同じ理由で隣にいるのよ。」
そんな言い合いを聞きながら、健司は苦笑していた。
「二人とも、仲良くしてね。」
だが、その光景を後ろからじっと見つめる影があった。
「ずるい。わたしだって歩きたいのに!」
カテリーナが両手を腰に当て、ぷんと頬を膨らませる。
「カテリーナ様、落ち着いてください。」
すかさずソレイユがたしなめる。
「落ち着いていられるわけないでしょう! あの二人ばかり特等席なんて。」
「……また始まった。」
エルネアが深いため息をついた。彼女は冷静に見えて、視線は時折健司の背中に向いている。
「カテリーナ、ボスとしての威厳を。」
「何よ、エルネアだって我慢してるくせに!」
カテリーナがずばりと指摘する。
エルネアの顔が一瞬赤く染まる。
「そ、それは……っ。私は仲間全体のことを考えて……!」
「ふふ、図星ね。」
カテリーナがにやりと笑い、ソレイユが
「はあ……」
とまた深いため息を漏らす。
その日の夕方、一行は森の中で一夜を過ごした。
狩ってきた鳥を焼き、パンを分け合い、静かな時間を過ごしていたが――やはり話題は「誰が健司の隣に座るか」になった。
「今日は私が隣よ。」
とカテリーナ。
「それなら昨日は私だったから、今日はクロエでいいんじゃないですか?」
とリセル。
「公平にするなら日替わりにすれば?」
とリーネが口を挟む。
「公平……でも私はボスだから優先されるべきよ!」
「威厳と特等席は別物だと思いますけど。」
「エルネア、あなたは黙ってなさい!」
焚き火を挟んで繰り広げられる軽口に、健司は
「はは……」
と笑うしかなかった。だが、心の奥底では不思議と温かさを感じていた。
争っているようで、皆が自分を大切に思ってくれている。その気持ちが伝わるからこそ、どんな言葉も苦にならない。
翌日、森を抜けたとき、道を塞ぐように巨大な熊が現れた。
全員が戦闘態勢を取るが――
「私がやるわ!」
「待って、ここは私が!」
カテリーナとリセルが同時に前へ出て、魔獣の前で言い合いを始めてしまう。
「ちょっと、今は喧嘩してる場合じゃ――」
と健司が制止する間もなく、魔獣が爪を振り下ろした。
瞬間、クロエの防御魔法が展開し、ソレイユの太陽が閃いた。
「全く……どっちが健司のために戦うか、じゃなくて倒すのが先でしょ!」
クロエの声に、二人ははっと我に返り、息を合わせて攻撃に転じた。
結果、熊はあっさりと倒され、仲間たちは肩を落として苦笑した。
「……ごめん、つい。」
「わ、わたしも……。」
カテリーナとリセルが同時に謝り、健司は優しく微笑んだ。
「二人とも、ありがとう。僕のためにって思ってくれるのは嬉しい。でも無理はしないでくれな。」
その言葉に二人は顔を赤らめ、黙って頷いた。
夜空を仰ぎながら、健司はふと思った。
「……僕は幸せ者だな。」
隣で横になっていたクロエが問い返す。
「どうして?」
「こんなに大勢の仲間に支えられて、守られて……。みんなの気持ちを受け止められるように、強くならないとって思うんだ。」
クロエは少しだけ黙り、そして微笑んだ。
「そうね。……でも、強くなりすぎて私たちを置いていかないで。」
「置いていくわけないよ。」
健司はそう答え、クロエの頭を軽く撫でた。
火の粉がぱちぱちと舞い上がり、仲間たちは次々と眠りについていく。
だが、その胸の奥には、互いへの想いと、これから待ち受ける試練への覚悟がしっかりと宿っていた。
カリストは遠く、まだ見えない。
だが、一行の絆は少しずつ強まり、時に笑い合い、時にぶつかり合いながら、確かに歩みを進めていた。
それぞれの心には、「健司と共にある」という強い願いが芽生えている。
その願いが、次なる戦いに立ち向かう力になることを、まだ誰も知らなかった――。




