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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編③ホワイトヴェル

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幼馴染ミナの存在

リヴィエールの夜は、静かだった。

カリオペと同盟を結んだその日の夜、街は不思議な安堵と緊張が入り混じる空気に包まれていた。魔女たちはそれぞれの居場所に戻り、明日を思いながら眠りにつこうとしていた。


健司は、リヴィエールの一角にある小さな家に身を寄せていた。

その家には、クロエも同じように泊まっている。仲間として、そして「彼を見守る」立場として。


家の灯りは、揺れるランプの炎だけ。

外では小川のせせらぎがかすかに聞こえ、月明かりが窓から射し込んでいた。


クロエはベッドに腰かけ、何か考え込んでいる様子だった。健司は椅子に座り、今日の出来事を振り返っていた。


やがて、クロエがぽつりと口を開いた。


「ねえ、健司。……孤高の魔女って、あなたが昔お世話になった人なの?」


健司は、少し驚いたように顔を上げた。

クロエの声は穏やかだったが、どこか探るような響きを含んでいた。


「そうだよ。あの人は……ずっと一人でいたけど、僕にとっては、素晴らしい人だった。」


「……素晴らしい?」


クロエの瞳が、淡く揺れるランプの光を映す。

彼女は「魔女」という言葉に対して常に慎重で、時に猜疑心を抱くこともあった。だからこそ、健司がそう評するのが不思議でならなかった。


健司は、ゆっくりと思い出をたどるように語った。


「あの人は、魔女がどうのこうのって言わなかった。ただ、一人の人として僕に接してくれたんだ。……それに、ミナがいたしね。」


その名を口にした瞬間、クロエの雰囲気が少し変わった。

彼女は首を傾げ、わずかに声を落とした。


「……ミナ?」


健司は、どこか遠くを見るような目をした。


「幼馴染なんだ。小さいころから一緒にいて……でも、ある日、いなくなってしまった。僕はずっと探してる。旅に出たのも、そのためなんだ。」


クロエは、しばらく黙って健司の横顔を見ていた。

炎の光に照らされたその表情は、懐かしさと寂しさを帯びている。彼の心の奥には、まだ埋まらない穴があるのだと感じた。


「……なるほどね。」


クロエは小さく笑った。


「ホワイトヴェルに、手掛かりがあるかもしれないわ。」


「そうだね。」


健司は頷いた。だが、その声にはどこか自信のなさがにじんでいた。


しばしの沈黙。小川の音とランプの揺らぎだけが、二人の間に流れる。


やがて、クロエは自分でも驚くような言葉を口にした。


「健司、もし……そのミナって人が見つからなかったら、どうするの?」


健司は瞬きをした。想定していなかった問いに、少し言葉を探す。

そして、正直に答えた。


「それでも探すよ。どこにいるか分からなくても、諦めることはできない。……あの人は、僕の大切な人だから。」


クロエの胸が、少しだけざわついた。

彼女は視線を逸らし、窓の外の月を見上げた。


「……大切、ね。」


それは嫉妬に似た感情だったかもしれない。

彼女もまた健司のそばにいる。ともに戦い、傷を負い、支え合ってきた。けれど、彼の心には今も「幼馴染」が住んでいるのだ。


健司は気づかぬまま、クロエに微笑んだ。


「クロエも、ありがと。こうして話を聞いてくれるだけで、僕は少し救われるんだ。」


クロエは頬を染め、唇を噛んだ。

――ずるい人。

そんな言葉が喉元まで出かかったが、彼女は飲み込んだ。


ランプの炎がゆらぎ、夜は深まっていく。


やがて二人は「おやすみ」と言葉を交わし、それぞれの場所で横になった。


しかし、クロエの瞳はしばらく閉じなかった。

健司が「ミナ」と呼んだその存在が、心の中で何度も響き続けたからだ。


――ホワイトヴェル。

彼女は密かに決意を固めた。

健司が望むものを見つけるために。そして、自分の気持ちにけじめをつけるために。


こうして、長い一日がようやく終わりを迎えた。

だが、彼らの旅はまだ続く。

過去を追い、未来を探す――その夜が、静かに更けていった。

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