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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編③ホワイトヴェル

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133/157

ホワイトヴェル

大陸の中央に位置する白い塔の国――ホワイトヴェル。

 西の諸国と東の大地を結ぶ唯一の国であり、交易の要衝として栄えていた。巨大な白亜の塔は国の象徴であり、同時に東西をつなぐ関所の役割も果たしている。


 この国に王は存在せず、領主ブラッジが実質的な支配者として君臨していた。

 彼は戦士というよりも調停者であり、力よりも交渉によって国をまとめ上げる手腕に長けていた。だが近頃、その安定に不穏な影が差していた。


「……ソールからの連絡が途絶えているのか」

 

白き塔の最上階、執務室にてブラッジは側近の報告を受けた。


「はい。三日前に定期の伝令があるはずでしたが、まったく音沙汰がなく……」


 ソール。東方の拠点を預かる彼は、ブラッジの腹心の一人だ。冷静沈着な彼が連絡を怠るなど、本来なら考えられない。


「嫌な気配がする……」


 ブラッジが窓から遠く西の地平を見やったその時、階下から慌ただしい足音が響いた。


「領主様、大変です!」


 扉を乱暴に開け放ち、伝令兵が駆け込んでくる。


「孤高の魔女が、関所に現れました! 『通らせろ』と……」


「孤高の魔女……?」


 ブラッジの目が細まった。


 彼女の名は知れ渡っている。大陸に幾多もいる魔女の中でも、とりわけ群れることを嫌い、ただ一人で各地を渡り歩く存在。目的も思想も不明。だが、出会った者の多くが口を揃えて「底知れぬ強さ」と「恐るべき眼差し」を語る。


「……よかろう。すぐに私が出向く」




 白い塔の前にはすでに兵士たちが集まっていた。彼らの前に立つのは、一人の女。

 漆黒の外套を纏い、銀色の髪を肩まで垂らした冷たい印象の魔女――孤高の魔女。


 彼女は剣でも杖でもなく、ただ己の存在そのものを武器として放つように堂々と立っていた。


「孤高の魔女よ……この国を通る理由を聞かせてもらおう」

 

ブラッジが歩み出る。


「理由? お前に説明する必要があるのか?」

 

魔女は薄い唇に笑みを浮かべた。


 その目に宿るのは挑発か、あるいはただの退屈しのぎか。


「……いや、必要はあるだろう」

 

ブラッジは視線を逸らさず応える。


「ここは東西を結ぶ唯一の国。無秩序に通すことは、戦火を呼び込む」


「ふふ……」

 

孤高の魔女は手を掲げると、淡い光を生み出した。


 ――月光。

 冷たく青白い光が広がり、兵士たちは思わずたじろぐ。


「これは……セレナが使っていた月魔法……!」

 

ブラッジの背後で誰かが声を上げた。


 さらに孤高の魔女は、地面を軽く踏みしめる。途端に足元の石畳が歪み、重力に引き裂かれるように沈み込んだ。


「ラグナの重力魔法……!」


 そして、空にかざした手からは、まばゆい陽光が溢れ落ちる。

 白昼の空をさらに照らし、兵士たちは目を細めた。


「太陽の魔法……ソレイユの……!」


 次々と繰り出される魔法の数々に、周囲は騒然となった。

 それらはすべて――健司と共にある魔女たちが操る力。


「ぐ……なぜ、お前がその魔法を……!」

 

ブラッジが低く唸る。


 孤高の魔女はにやりと笑った。


「やはり知っていたか。お前が彼らを注視していることも、そして恐れていることも」


「……」


「もうすぐ、彼らはここに来る。西から、確かに」

 

孤高の魔女は背を向け、ひらりと外套を翻す。


「それじゃあな」


 そう言い残し、彼女は迷いなく西へ歩み去っていった。




 兵士たちがざわつく中、ブラッジはただ黙して彼女の背を見送った。


「領主様……どういたしましょう?」


 側近が不安げに問う。


「……奴らがここに来るということは、準備が整ったということだ。」

 

ブラッジは低く答える。


「だが、それは悪いことばかりではない。強き者を知り、試すのもまた国の役目だ」


 彼の目に一瞬、獰猛な光が宿る。


「安心せよ。我らには切り札がある」


「切り札……?」


「カリオペの妹を、我らは捕らえている」


 その名を聞いた瞬間、側近の表情が強張った。


 カリオペ――大陸でも名高い魔女の一人。カリストの王である彼女の名は、誰もが知っていた。そして、その妹を人質にしていることは、ごく一部の者しか知らぬ秘密。


「奴らとて無謀に挑むことはできまい。我らの手にある限りはな……」


 ブラッジの声は低く、しかし自信に満ちていた。

 だが、彼の内心には重い影が差していた。



 孤高の魔女が見せたあの力は、ただの模倣に過ぎぬのか、それとも……。


 答えは、遠からずやってくる。


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