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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編②孤高の魔女

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同盟

森の奥は、まだ昨夜の煙と血の匂いを残していた。

大樹の根元に身を寄せるカリオペたち三人の魔女は、疲れ切った表情で短い休息を取っていた。


「……やっと静かになったわね」


蒼白な顔をしたハートウェルがため息をつく。肩には裂傷があり、魔力の消耗で治癒もままならない。


「静かすぎるくらいよ」


カリオペは背後の闇を睨みながら答えた。戦闘の余韻が消えた夜ほど、危険なものはない。油断すればすぐに命を奪われる。それがカリストと周辺の魔女たちの世界だった。


だがその緊張を破るように、枯葉を踏む音が森に響いた。

――誰かが来る。


「ッ!」


カリオペは即座に杖を構え、仲間二人も立ち上がる。


やがて木々の間から現れたのは、見慣れぬ青年と……その背後に見覚えのある強者たちだった。


「健司……!」


カリオペは眉をひそめる。その隣に立っていたのは、カリストが誇る最強――ラグナ。そして、かつて敵として名を馳せたアナスタシア。


「……何のつもり?」


森の空気が一気に張り詰め、臨戦の構えを取る。


健司は両手を広げ、落ち着いた声で言った。


「戦うつもりはありません。ただ……昨日、知り合いの魔女の気配を感じたんです。確かめに来ました」


「知り合い……?」


グルバルが険しい表情で問い返す。


そのとき、ラグナが口を開いた。


「……孤高の魔女のことか」


森の空気が凍りついた。


「孤高?」


健司は小さく首を傾げた。


「……ああ。確かに、彼女はいつも一人でした」


カリオペの目が大きく見開かれる。


「あなた……孤高の魔女を知っているの?」


健司は小さく息を吐き、真摯にうなずいた。


「ええ。助けてもらったことがあります」


三人の魔女は互いに視線を交わした。孤高の魔女――その名を知る者は少なく、知っていたとしても近づこうとはしない。彼女は群れることを拒み、力を示すことも求めず、ただ一人で在り続ける。孤独を選び、孤独に徹する。だからこそ「孤高」と呼ばれてきた。


そんな存在に「助けられた」と言える者など、まずいない。


カリオペはしばし沈黙したのち、杖を下ろした。


「……信じられない話ね。でも、孤高の魔女があなたを認めたというのなら……私たちも信じよう」


「カリオペ!」


グルバルが声を上げる。


「軽々しく信用していいのですか!?」


「軽々しくじゃないわ」


カリオペの瞳は真剣だった。


「孤高の魔女が人を助けるなんて聞いたことがない。それをしたのが健司なら……彼は特別よ」


健司は一歩進み、頭を下げた。


「ありがとうございます。……改めて、よろしくお願いします」


その誠実な仕草に、場の空気が少し和らぐ。


だが、別の場所で見守っていたカテリーナが、息を呑んでいた。


「……嘘でしょう。あの孤高の魔女すら……知り合いだなんて」


彼女は唇を噛んだ。健司が出会い、心を通わせてきた魔女たちは、どれも常識を覆す存在だった。アナスタシアすら彼に敗北を認め、今は並んで歩いている。そして今度は、孤高の魔女――誰も近づけなかった伝説の存在さえも。


「健司……あなたはいったい、どこまで……」


カテリーナの胸は驚きと、わずかな嫉妬にも似た感情で揺れていた。


ラグナが低く笑う。


「面白いな。孤高の魔女が認めた人間か……ますます興味が湧いた」


アナスタシアは横目で健司を見やり、静かに微笑んだ。


「やはり、あなたはただの人間じゃない」


その場の魔女たち全員が、改めて健司という存在の異質さを思い知らされる。

彼は戦いを好まず、ただ誠実に向き合う。それだけなのに――人と人、人と魔女、魔女と魔女を繋いでしまう。


森の風が通り抜ける。

緊張と安堵の狭間で、カリオペたちはようやく腰を下ろした。


その夜、焚き火を囲みながら語り合う彼らの姿は、昨日の激しい戦いが嘘のように穏やかだった。


――だが、これが嵐の前の静けさにすぎないことを、誰もまだ知らなかった。

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