表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編②孤高の魔女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/171

リーネの過去

広間での話し合いが終わったあと、健司は深く息を吐いた。

重たい空気がまだ体にまとわりついているようだった。アナスタシアやカリオペの言葉は確かに正しかったが、グルバルやハートウェルの顔に浮かんだ影は消えていない。純血をめぐる対立は、これからも続くだろう。


「……はぁ」


思わず漏れた溜息に、隣で歩いていたリーネがちらりと視線を向けた。彼女の横顔は少し強張っていて、まだ怒りが消えていないように見える。


そのまま健司は足を止めた。


「リーネ、少し話せる?」


彼女は驚いたように瞬きをして、それから小さく頷いた。二人は用意されていた部屋に入る。扉を閉めると、広間のざわめきが遠ざかり、静けさが訪れた。


部屋には小さなランプが灯されていて、柔らかな光が二人の顔を照らしていた。

健司はベッドに腰を下ろし、リーネを見つめる。


「さっきの……魔法を放ったときのリーネ、少し怖かった」


正直に言うと、彼女は目を伏せた。


「ごめん。抑えられなかった」


「いや、謝らなくていいよ。でも……リーネ、昔何かあったの?」


健司の声は優しく、責める響きはなかった。


リーネはしばらく沈黙した。膝の上で両手をぎゅっと握りしめ、唇をかみしめる。そして、ぽつりと口を開いた。


「……村にいた時にね。謎の集団が来たの」


健司は息をのむ。リーネの声は震えていて、その記憶がどれほど深い傷になっているかが伝わってくる。


「彼らは突然現れて、私たちに薬を試したの。強制的に。子どもから大人まで、関係なく……」


リーネの目には、遠い記憶の光景がよみがえっていた。



あの日、青空の下で遊んでいた。村の子どもたちと、木の実を拾ったり、川で水を浴びたり。

だが突然、白い外套をまとった一団が現れた。

彼らの顔は仮面で隠されていて、表情が分からなかった。


「この薬を試してもらう」


それは命令のように告げられた。


大人たちが抵抗しようとしたが、杖の一振りで倒れた。誰も逆らえなかった。子どもたちは泣き叫び、リーネも腕をつかまれて薬を飲まされた。


「……苦しかった。体が焼けるみたいに熱くて、吐き気も止まらなくて。誰も助けてくれなかった」


健司は拳を握りしめる。彼女の言葉に、怒りが胸を突き上げた。


「その集団は、村を出ていくときに言ったの。『有望な結果が出れば、白い塔に連れて行ってやろう』って」


「白い塔……」


健司は思わず繰り返す。アナスタシアやカリオペが言っていた、あの国の名が頭に浮かんだ。


「今思えば、あれは白い塔の国だったかもしれない」


リーネは苦しげに笑った。


「だからね、自分たちが偉いとか、血がどうとか……そういうのを見せつけられると、いらつくの。自分の都合で他人を実験台にした人たちと、重なって見えるのよ」


沈黙が流れる。健司は言葉を探した。

彼女の痛みに、安易な慰めは届かないかもしれない。けれど、黙っているだけでは何も伝わらない。


「……なるほど。確かに、嫌いかもしれないね。血だけで決まるなんて。そんなの間違ってる」


リーネが顔を上げると、健司は穏やかに微笑んでいた。


「でも、リーネの魔法はすごいよ。みんなを守ってきたし、今だって俺たちを助けてくれてる」


その言葉に、リーネの目がわずかに潤んだ。


「……ありがとう」


彼女は小さな声でつぶやいた。心の奥に閉じ込めていた不安や怒りが、少しだけ和らいでいくのを感じた。


「アスフォルデのみんなのことは好き。健司や、仲間たちも。アナスタシアさんや審問官の人たちとも、きっと分かり合えると思う。でも……血統主義の人たちとは、分かり合えないかもしれない」


その告白は、弱さでもあったが、同時に彼女の正直な気持ちだった。


健司は優しく頷いた。


「いいんだよ。無理に分かり合う必要はない。リーネがリーネでいることが大事なんだ」


「……いいの?」


「うん。僕はそう思う。分かり合えなくてもいい。ただ、リーネが自分を責める必要はないよ」


リーネの胸の奥に、じんわりと温かさが広がった。

自分を否定せず、まるごと受け入れてくれる存在がいる。その事実が、どれほど救いになるか。


「健司って、ずるい」


涙をぬぐいながら、リーネは微笑んだ。


「どうして?」


「そんな風に言われたら、もう……泣けちゃうじゃない」


健司は照れくさそうに笑い、彼女の肩にそっと手を置いた。


「泣いていいんだよ。全部出しちゃえばいい」


リーネは、こらえていた涙を流した。村での恐怖、怒り、無力感――それらが涙となって頬を伝う。健司は黙って寄り添い、その背中を優しくさすった。


やがて、涙が落ち着いた頃。リーネは深く息を吐いて、健司を見上げた。


「ありがとう。少し、軽くなった」


「それならよかった」


二人の間には、以前よりも強い信頼が生まれていた。

外の世界ではまだ純血派の思想がはびこり、争いは続いていくだろう。だが、少なくともこの瞬間、リーネは一人ではなかった。


健司は彼女の心に寄り添い、彼女はまた歩き出す力を取り戻した。


――そして、リーネは思う。

自分が怒りを抱えているのは事実だ。だが、その怒りをただぶつけるのではなく、未来を変えるために使わなければならない。


その決意を胸に、彼女は静かにランプの光を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ