表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編①カリスト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/161

純血と混血

広間にはまだ張り詰めた緊張が残っていた。

魔女グルバルとハートウェルは、互いに目を合わせ、しかし何も言わずに唇を噛んでいた。リーネが魔法を放ちかけた瞬間の、あの冷たい気配が空気にこびりついて離れない。


「認めない!」


グルバルの声は低く、震えていた。長く積み上げてきた誇りを否定されたかのように。


しかし、その直後、彼女は胸を押さえて膝を折った。吐き気とめまいに襲われ、指先が冷たくなる。魔力の流れが滞り、普段なら即座に術式を完成させられるはずの自分の力が、鉛のように重たく動かなくなった。


「……な、何だ、これは……」


周囲の視線が集まる。その原因はすぐに分かった。

リーネが前に出ていた。彼女の周囲に漂うのは、闇に近い灰色の魔力。いつもの優しさも柔和さも消え失せ、その目には強い怒気が宿っていた。


「これだから純血共は」


吐き捨てるような声。その響きは鋭く、冷ややかで、空気を凍らせた。


ハートウェルは眉を寄せた。


「リーネ、やめろ。今はそんなことを言う場じゃない」


だが、止まらなかったのはエルネアだった。

彼女が一歩前へ出て、リーネとグルバルの間に立った。


「やめろ、リーネ」


その声音には、厳しさと同時にどこか哀しみがあった。


「私たちは仲良くすると決めたはずだ」


リーネの目が一瞬揺れた。だが、すぐに視線を落とすと、小さく頭を垂れた。


「……すみません」


謝罪の言葉が出たのは、エルネアへの敬意からだった。だが、内心は煮えたぎるような思いが渦巻いている。純血主義者がどれほど多くの同胞を傷つけてきたか、リーネは知っている。それを忘れろと言うのは、彼女にとって容易ではなかった。


静寂の中、アナスタシアが立ち上がった。

彼女の長い銀髪が揺れ、冷ややかな視線が場を射抜く。


「純血は関係ない」


その一言が、沈黙を破った。


リーネが顔を上げる。グルバルも、ハートウェルも、誰もが彼女の次の言葉を待った。


「違うかな? カリオペ」


視線が横に送られる。アナスタシアの側に控えていたカリオペが、ゆっくりと立ち上がった。深い紫の瞳が周囲を見渡し、ため息をひとつ。


「その通りだ」


彼女の声は穏やかでありながら、重く場に響く。


「純血も、混血も、思想に過ぎない。ただの枠組みだ。血に意味などない」


その言葉は、信念としての力を持っていた。カリオペ自身が、過去にその思想によって苦しめられたからこそ言える言葉だった。


だが、グルバルは唇を強く結んだ。


「思想だと? お前たちは分かっていない。純血の誇りがあったからこそ、私たちは生き残ってきた。血は力だ。混じりものは、弱い」


その主張は長く続いてきた純血派の論理だった。だが今、その言葉は重みを失いつつあった。実際、健司という人間がアスフォルデの環を打ち破った事実がある。血よりも意志、そして行動が世界を変えている。


リーネが再び言い返そうとしたが、エルネアが小さく首を振った。

アナスタシアは腕を組んで、にやりと笑った。


「弱い? なら問おう、グルバル。お前は今、この場で私に勝てるか?」


沈黙が落ちた。

グルバルは返事をしなかった。否、できなかった。先ほどリーネの魔法によって体調を崩し、魔力の流れを乱された今、彼女は戦える状態ではない。


アナスタシアは、答えを聞く前に続けた。


「勝てない相手が、純血か混血かで決まると思うのなら、滑稽な話だ。力は血に宿るのではない。意志と、歩んできた道に宿る」


ハートウェルは腕を組み、重々しく頷いた。


「……私も、アナスタシアの言葉に同意する」


この場の均衡は、完全に崩れつつあった。


リーネは拳を握りしめたまま、心の中で葛藤していた。彼女にとって純血派は許しがたい存在だ。しかし、エルネアやアナスタシアの言う通り、争いを続けても未来はない。彼女はようやく、自分の怒りを抑え込む理由を見つけようとしていた。


カリオペが、静かに締めくくるように言った。


「血は記号にすぎない。そこに価値を見出すのは、恐怖からだ。変化を恐れる者が、拠り所として純血を持ち出す」


グルバルの目が揺れる。その言葉は図星だった。彼女も本当は分かっている。血がすべてを決めるのではない。だが、過去の誇りと歴史に縋らなければ、自分の存在が揺らいでしまう。


――結局、この日の話し合いは一旦終わりとなった。

表面的には収まったが、心の奥底に残る対立は消えていない。


アナスタシア一派が去っていった後、リーネは小さく息を吐いた。


「私は……間違っていたのでしょうか」


エルネアは優しく微笑んだ。


「間違っていたわけじゃない。あなたの怒りは正しい。でも、それをどう使うかが大事なの」


リーネはその言葉を胸に刻んだ。

純血派との対立は終わっていない。けれど、確かに何かが変わり始めている。


そして、誰もが思った。

――この先、彼女たちがどう生きるのかによって、世界の未来が形作られるのだ、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ