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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編①カリスト

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話し合い

 やがて、街の門を開き、迎え撃つように健司たちが並び立つ。

 先頭に立って進んできたのは、漆黒の外套をまとい、金色の髪を風になびかせる一人の女性。


「……カリオペ」


 アナスタシアが低く呟いた。

 その名を聞いて、周囲の魔女たちもざわめく。


 彼女こそ、カリストの頂点に近い地位を持つ魔女。冷徹な審問官を束ね、純血を掲げる国を率いる存在のひとりだった。


 だが、彼女の表情には、意外にも敵意の色は薄かった。

 視線は鋭いが、剣を抜くでもなく、歩みを止めて健司たちを見渡す。


「……話がある」


 カリオペが静かに口を開いた。


「話?」


健司は眉をひそめる。


「そうだ。ここに戦を仕掛けに来たわけではない。むしろ、その逆だ」


「……逆?」


 カリオペは一拍置いてから言葉を続ける。


「ソールの雇い主が、我らに宣戦布告してきた」


 その言葉に、空気が凍りついた。

 宣戦布告――。


「ソール……あの審問官の背後にいた者ですか?」


カテリーナが低く問う。


「そうだ。奴の背後にいる勢力が、ついに表に出た。私の妹を人質にとり、こちらに要求を突きつけてきた」


 淡々とした口調だったが、その瞳にはわずかな怒りが宿っていた。


「要求?」


クロエが目を細める。


「――健司と私を差し出せ、とな」


 どよめきが広がる。


「は?」


クロエは思わず声を荒げた。


「なんで健司なのよ?あんたならまだしも……」


 カリオペは苦笑することなく答える。


「魔女と仲良くしている人間が気に食わぬのだろう。魔女と人間の垣根を揺るがす存在は、彼らにとって最大の脅威だ。だからこそ、私と共に健司を所望した」


 クロエは言葉を失い、健司の隣で唇を噛みしめた。



「……だから何だ?」


ラグナが低く問う。

 その声には鋼の響きがあった。


「だから、だ」


カリオペは視線を巡らす。


「審問官としての軋轢を、ここで水に流してはもらえぬか。共に立ち向かうために」


 アナスタシアの眉がぴくりと動いた。

 彼女は長く審問官と戦ってきた。仲間を奪われ、追われ、憎しみを積み重ねてきた。その彼女にとって、いきなりの和解の提案は容易に飲めるものではない。


 健司は一歩前に出る。


「……水に流すのは、簡単なことじゃない」


 彼ははっきりと言った。


「だけど……血統にこだわらないのなら、話は聞けると思います」


 その言葉に、カリオペの瞳がかすかに揺れた。


 その瞬間、カリオペの背後にいた二人の魔女が一歩前に出る。

 片や逞しい体躯を持つ女戦士、グルバル。

 片や冷たい美貌を持つ知略家、ハートウェル。


 二人は、カリオペの側近として名を馳せる審問官だ。


「ふざけるな!」


グルバルが怒声を上げた。


「水に流すだと?この者たちは我らの敵だ!血統を汚す者に、屈するなどあり得ぬ!」


「その通りです」


ハートウェルも冷ややかに言葉を重ねる。


「人間ごときと手を結ぶなど、恥辱そのもの。仮に白い塔の国が動いたとしても、我らは誇りを曲げるべきではありません」


 空気が一気に殺気を帯びる。

 アナスタシアもアウレリアも、即座に魔力を込め、応戦の構えを見せた。


「……カリオペ」


健司は静かに問いかける。


「あなたはどう思っているんですか?」


 カリオペは一瞬だけ目を閉じた。そして、再び開いた瞳には揺るぎない光が宿っていた。


「私は……生き延びたい。妹を救い、この国を守り抜きたい。そのためなら、過去の確執を飲み込む覚悟はある」


 その声に、グルバルとハートウェルが同時に顔をしかめた。


「カリオペ様!」


「そのような軟弱な考え……!」


 緊張は頂点に達し、いつ剣が交わされてもおかしくない空気になった。


 その場に、ミリィが震える声を上げた。


「や、やめてよ……!今、戦ってる場合じゃないでしょう……!?」


 彼女の必死の声に、リーネも頷いた。


「そうです。敵は別にいる……。白い塔の国が動いたのなら、私たちが争えば、すべて向こうの思うつぼです」


 ラグナも腕を組んで低く言った。


「……確かに理はある。だが、血統の呪縛を捨てられぬのなら、共闘などあり得ぬ」


 カリオペは深く息を吐き、二人の側近を振り返る。


「グルバル、ハートウェル。私は決めた。――彼らと手を組む」


 二人の顔が、驚愕と怒りで歪んだ。


「カリオペ様……!」


 カリオペは毅然と前を向く。


「敵は外にある。誇りを守るために滅ぶのでは意味がない。私は、妹を救い、未来を選ぶ」


 健司はその横顔を見つめながら、小さく呟いた。


「……あなたの覚悟、確かに受け取りました」


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