表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
リーネ編①カリスト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/178

健司について

カリオペの宮殿は、重苦しい沈黙に包まれていた。

窓の外には高原の乾いた風が吹き荒れ、遠くには閉ざされた城壁と、訓練を繰り返す兵たちの姿が見える。


玉座に腰掛けるカリオペは、長い髪を指で弄びながら、眼下の二人を見下ろしていた。

グルバル――。

ハートウェル――。


「……健司。いったい、どんな考えをしているのか」


カリオペの声音は低く、だが明らかに苛立ちを帯びていた。


「アスフォルデの環の主、カテリーナを従え……さらにリヴィエールの主、アナスタシアまでも。審問官をも退けたと聞く。ラグナの名すら出ている……これは、ただの偶然ではない」


グルバルが腕を組み、唸るように言葉を吐いた。


「となると、やつは魔女の弟子だったのではないか? 常人がそこまで影響を持てるはずがない。ましてやカテリーナやアナスタシアが頭を下げるなど……」


「だが」


ハートウェルが口を挟む。


「従っている魔女達を見れば、異常な者ばかりです。アスフォルデの残党、アナスタシア派、そして審問官崩れ。まともな集団ではない。求心力というより、狂気の磁場に近い」


カリオペはゆっくりと瞼を閉じた。

その言葉を否定しなかった。だが、内心では別の可能性を考えている。


――もしも健司が、本当にただの「人」だったなら?

――それでも魔女たちを惹きつけ、従わせているのなら?


「……恐ろしいわね」


カリオペは自嘲気味に笑った。


「魔女たちが恐れていたのは、かつての“英雄”だけ。だが、いまや一人の青年が、歴史を揺るがすほどの影響を持ち始めている。国を、宗派を、信念を超えて……」


重苦しい空気が広間を支配する。


「カリオペ様」


ハートウェルが声を低めた。


「もしも本当に彼が脅威となるのなら……早々に芽を摘むべきかと」


グルバルが鋭く頷いた。


「兵を集め、力でねじ伏せるべきだ。魔女も兵士も全てを使い潰してでも、だ」


しかし、カリオペは玉座から立ち上がり、ゆるやかに歩み出た。

床を打つ靴音が、冷たい石造りの広間に響く。


「……力でねじ伏せられるなら、すでに誰かがやっているわ」


彼女の声は、嘲りすら含んでいた。


「ラグナは敗北し、クラリーチェも退いた。リズリィは……惨めな結末を迎えた。彼女たちは弱くはない。むしろ、我が国が誇る最高の戦力。だが、それでも退けられたのよ」


沈黙が走る。


「カリオペ様、それでは……」


ハートウェルが顔を上げる。


「ええ」


カリオペはその視線を受け止め、静かに告げた。


「全兵力を連れて、会いに行くわ」


「……!」


グルバルが思わず息を呑み、ハートウェルは椅子から立ち上がった。


「本気なのですか!? それでは我が国の全てを危険に晒すことになります!」


「危険を冒さなければ、得られるものもない」


カリオペは冷たく言い放った。


「わたしは健司を“試す”つもり。もし本当にただの人間なら、圧倒的な力の前に屈するでしょう。だが――もし彼がそれを超える存在ならば」


彼女は唇を歪め、不敵な笑みを浮かべた。


「その時は、我らの国すら飲み込んでしまうでしょうね。ならば、その瞬間を見極めなければならない。敵としてか、あるいは……新たな時代を導く者としてか」


広間の空気は、張り詰めた緊張に覆われていた。


グルバルが低く唸る。


「ならば、戦の準備を進めましょう。魔女も、全てを」


ハートウェルはなおも顔をしかめたが、反論の言葉を呑み込んだ。

カリオペの決意が、もはや揺らぐことはないと悟ったからだ。


カリオペは玉座に戻り、背筋を伸ばす。


「健司……あなたは、何者なのか。わたしは必ず見極める。たとえ、この国の命運を賭けることになろうとも」


窓の外で、冷たい風が再び荒れ狂った。

それはまるで、近づきつつある嵐の前触れのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ