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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
リーネ編①カリスト

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宣戦布告

王の間は、夜でも炎の光に満ちていた。高くそびえる黒曜石の柱には、魔法の紋様が刻まれており、静かに揺らめく紫の光が宮殿の空気を不気味に照らしている。ここは純血主義国家カリスト、その頂点に立つ王――魔女カリオペが座する玉座の間だ。


側近のひとり、魔女グルバルが深々と頭を垂れ、報告を始めた。


「カリオペ様。報告いたします。ラグナと審問官達は……どうやらリヴィエールに滞在していることが判明しました」


カリオペの鋭い瞳がわずかに動いた。椅子の肘掛けを指先で軽く叩く。その仕草ひとつで、空気が緊張に張りつめた。


「……そうか。わかった。ならば今は静観しておこう」


「よろしいのですか?」


とグルバルが目を細める。


「ええ。あの者たちは健司という男に敗北した。誇り高き審問官でさえ打ち砕かれた以上、今さらカリストへ戻る面目はないだろう。しばらくは身を潜めるはずだ」


言葉は冷徹だが、そこには見えぬ余裕があった。カリオペの判断は常に冷静で、彼女の言葉は臣下にとって絶対だった。


「問題は……」


カリオペは片眉をわずかに上げ、低く言葉を続けた。


「ソールの件だ」


その名を聞いた瞬間、王の間の温度が下がったように感じられた。グルバルでさえわずかに顔をしかめる。

ソール――かつてカリストに仕え、影の工作をし、審問官達を欺いたスパイ。その動向は長らく不明とされてきたが、最近になって不穏な噂が流れていた。


「まったく厄介なものですな……」


とグルバルが口を開いた時、別の扉が軋む音を立てて開いた。


入ってきたのは、まだ若いがその才を買われて側近の座を得た魔女ハートウェルだった。彼女は細身の体に似合わぬほど重そうな木箱を抱え、膝をついて恭しく頭を下げる。


「カリオペ様、荷物が届きました」


「荷物?」


玉座から声が落ちた。


「誰からだ」


「不明です。ただ……奇妙な封印が施されておりました」


カリオペは立ち上がり、自らの手で箱に触れた。箱を覆う赤黒い封蝋は魔法の力を帯び、ただの文ではないことを示していた。指先で軽く弾くと、封印は一瞬のうちに砕け散る。


中には一通の手紙と、小さな銀の指輪が収められていた。


カリオペの目が見開かれた。空気が一変する。彼女の纏う威圧感は、王の間にいる者たちの喉を締め上げるかのように濃くなった。


「……どうしましたか?」


ハートウェルが恐る恐る問う。


カリオペは深く息を吐き、しかし表情は氷のように冷たかった。


「宣戦布告だ」


「な、なんと……!」


「しかも……あの“白い塔”のある国からだ」


その言葉に、グルバルの顔色が変わった。


「白い塔……大陸中央の要塞国家……」


「そうだ」


カリオペは指輪を掲げた。細かな宝石が埋め込まれたそれは、間違いなく見覚えのあるものだった。


「妹の指輪と共にな」


「妹君……!」


グルバルが呻く。


カリオペにはひとりの妹がいた。しかし数年前、謎の失踪を遂げ、消息は途絶えていた。カリスト中を探しても痕跡すら見つからなかったのだ。


「妹は……捕らえられている」


その声には怒りではなく、冷えきった決意がこもっていた。


カリオペは手紙を広げ、目を通す。文面には明確な要求が記されていた。


――期日までに、健司という者と共に来い。

――さもなくば、妹の命はない。


「……ソールの雇い主か」


低く吐き捨てるような声。


「奴らは、我々を侮辱している。妹を人質に取り、我を縛ろうとしているのだ」


「しかし……なぜ健司という者まで……?」


ハートウェルが震える声で尋ねた。


カリオペの瞳は鋭く光った。


「それが、あの国の狙いだ。白い塔の国は、既に健司の存在を知っている。審問官たちを退けた異邦人……大陸を揺るがす新たな力。奴らは、彼を抱き込むか、潰すかを選ぼうとしているのだ」


グルバルは唇を噛んだ。


「つまり……期日までに“共に来い”というのは……」


「健司を誘き出すための餌だ。妹と、我を同時に縛るためのな」


王の間に重苦しい沈黙が落ちる。


カリオペは立ち上がり、玉座の階段を一歩一歩降りた。その歩みのたびに、彼女の黒衣が音もなく揺れる。


「いいだろう。挑戦を受けて立つ。妹を救うためにも、あの国の思惑を暴くためにも」


「しかし……」


グルバルが口を開きかけたが、カリオペは彼を遮った。


「静観はここまでだ。動く時が来た」


ハートウェルは不安げに目を伏せながらも、その姿に圧倒されていた。


「……カリオペ様」


「安心せよ。妹は必ず取り戻す。そして、あの塔の国に思い知らせてやろう。我らカリストの力をな」


その言葉は、冷たい炎のように燃え盛る決意だった。


王の間に響くその声を、誰ひとりとして疑う者はいなかった。


――こうして、カリストと白い塔の国の間に新たな火種が生まれた。

そして、その渦中にまたしても「健司」という名が巻き込まれていくのだった。

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