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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
セレナ編⑨あの国

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カリオペの魔法

森はすでに夜の帳に覆われ、赤い月の残滓が木々の間に斑模様を落としていた。

その静寂を切り裂くように、一人の影が荒々しく地面へと叩きつけられる。


ソールだった。


先ほどまで分身の形を保ち、遠隔から事態を操ろうとしていたが、限界に達し、本体へと引き戻されたのだ。

肩で息をしながら、ソールは額に手を当てる。


「くそっ……! 作戦は……失敗だ……」


苦渋に満ちた吐息が、森の夜気に溶けていく。

彼は己の胸に突き刺さる敗北の重みを感じながらも、なお冷静さを取り戻そうと必死だった。

失敗を認めた瞬間、報告すべき相手の顔が脳裏に浮かぶ。――雇い主。

その冷たい瞳と、命令を違えた者への苛烈な処罰の数々。


「まだ……間に合う。逃げ切って……次の策を……」


そう呟き、立ち上がろうとしたその時だった。


――気配。


森の奥から、無数の視線がこちらに注がれている。

その重さは、獣の捕食本能に晒された小動物のように背筋を凍らせる。

ソールは反射的に身を翻した。


そこに現れたのは――慈悲派。


ずらり、と。


影のように並ぶ彼女たちの輪郭が、月光に照らされる。

一人ひとりが只者ではない気配を放ち、ソールの喉は無意識に詰まった。

そしてその中央、悠然と歩み出てきた女性がいた。


「……カリオペ、様……?」


ソールの声は震えた。

目の前に立つその人物は、慈悲派の中核。誰よりも静かに、だが誰よりも確実に物事を見抜く存在。


カリオペは、緩やかに首を傾けた。

その仕草は一見柔らかに見えながら、眼差しには一片の甘さもない。


「……何が作戦かしら?」


淡々と放たれた言葉に、ソールの背中を冷や汗が伝った。


「……っ!」


驚きに目を見開く。慈悲派が勢揃いしているなど、想像すらしていなかった。

ここは森の奥、人目につかぬはずの場所。それを彼女たちは迷いなく突き止め、なおかつ包囲している。


「な、なぜ……カリオペ様がここに……? どうして……」


掠れる声を絞り出すが、答えはすでに決まっていた。


カリオペは微笑すら浮かべず、ただ告げる。


「あの戦いを見ていたんだ。……すべてを、ね」


ソールの胸が締めつけられる。

彼が分断を図り、裏から糸を引いていたことまでも――知られている。


「……っ!」


逃げ場を探して視線を走らせた。

だが、すでに四方を囲まれている。

慈悲派の魔女たちは一歩も動かず、ただそこに立っているだけ。

それだけで、ソールは全身を鉛のように重く感じた。


「分断をしていたのは……お前だったか」


カリオペの声が低く響く。

その声音には怒気も激情もなく、ただ事実を確認する冷淡さがあった。

しかし、その静けさこそがソールの心をえぐった。


「ひ……っ」


膝が笑い、足がもつれそうになる。

それでもソールは必死に言葉を絞る。


「……私は……ただ……雇われただけで……!」


だが、その弁明を許すつもりはなかった。


カリオペは一歩、前に出る。

森の闇が揺らめき、彼女の足元から淡い光が広がった。


「雇い主に言うんだな。……失敗したと」


その瞳は氷より冷たく、刃より鋭い。


「……帰ればの話だが」


最後に、わずかに口角を吊り上げて言い放つ。


瞬間――空気が震えた。


「エンジェルリカバリー」


その言葉と共に、カリオペの周囲に白き光輪が幾重にも重なり、夜の森を浄化するように輝いた。

天から差し伸べられるような純白の光が、すべてを包み込む。


ソールの視界が一瞬で白に染まる。


「や、やめ……っ! 待って……! まだ……私は――」


必死の叫びも、光に呑み込まれて消えた。

その肉体も魂も、根源ごと削ぎ落とされるかのように。


最後に残ったのは、ただ一言。


「……作戦は……失敗……申し訳……」


声が掻き消え、ソールの存在はこの世から完全に消滅した。


静寂が戻る。


白光は徐々に薄れ、森には再び夜の闇が満ちる。

その場に残されたのは、慈悲派の魔女たちと、その中心に立つカリオペのみ。


「……やはり、あの国か」


カリオペは低く呟いた。

敵の影、雇い主の正体。薄々察していたものが確信へと変わりつつある。


彼女は振り返り、仲間たちに告げる。


「帰るぞ」


その背に従い、慈悲派は森を後にした。

残されたのは、ソールが消えた跡に漂う、冷たい夜風のみであった。

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