セレナVSリズリィ ― 赤き月の決戦
リズリィが口元に薄笑いを浮かべる。
「セレナ。お前では勝てない。感情に支配されているからな」
「……確かに」
セレナは拳を握った。
胸を締め付ける怒りと悲しみ。冷静さを失う要因に過ぎない。けれど、その感情こそが彼女をここまで導いた。
「だが――今回は勝つ!」
リズリィが片手を掲げる。赤黒い魔力が渦を巻き、空に広がっていく。
「赤き月よ、降り注げ……レッドムーンスター!」
夜空に浮かぶ月が血のように赤く染まり、そこから無数の赤い星が降り注いだ。星々は炎のように燃え、地面を穿ち、空気を灼き、破壊の光となってセレナを襲う。
「くっ……!」
セレナは咄嗟に詠唱する。
「――ムーンプロテクト!」
青白い月光の盾が広がり、降り注ぐ星々を受け止めた。だが、圧倒的な威力が防御を突き破り、セレナの身体を灼く。
「ぐあっ……!」
衝撃で膝をつく。肩口から血が流れ、視界が霞む。
リズリィは高らかに笑った。
「はははっ! 年季が違うのだよ。その程度の魔法で私に抗えると思ったのか!」
焼け付く痛みに耐えながら、セレナは必死に立ち上がった。
「まだ……終わらない……!」
その瞬間、空が震えた。
赤い月――だが、リズリィの魔法のそれとは違う、眩い輝きを帯びたもう一つの赤い月が出現したのだ。
リズリィが目を見開く。
「な、何だ……? これは……私の魔法ではない……!」
セレナは両手を掲げ、声を震わせながら叫んだ。
「――ムーンパワー! 月の魔法を……吸収する!」
赤い月が強烈な光を放ち、リズリィのレッドムーンスターの力を逆流させていく。赤い星々は軌道を変え、セレナの周囲に吸い込まれるように消えていった。
月光の奔流がセレナを包み込み、彼女の瞳が深紅に輝く。
リズリィの身体が震えた。
――赤い月。
それは彼女にとって勝利の象徴であると同時に、心の奥底に封じていたトラウマでもあった。幼き日に目にした惨劇。家族を失い、血と悲鳴に染まった夜。
「やめろ……それは……!」
リズリィが後退する。
セレナは一歩ずつ進んだ。
「これは……姉を傷つけたお前に返す力だ!」
月光が炸裂する。赤い奔流がリズリィを飲み込み、空気を震わせる。リズリィは悲鳴をあげ、膝をついた。
リズリィの魔力が崩れ落ち、赤い星々が霧散していく。
「ま……待て……私は……負けない……!」
必死に立ち上がろうとするが、その身体は震え、足は地に縫い付けられたかのように動かない。
セレナは最後の詠唱を告げた。
「――ムーンパワー・ブレイク!」
眩い月光が炸裂し、リズリィを完全に打ち倒した。
沈黙が訪れる。
リズリィは地に倒れ、動けなくなっていた。恐怖に染まった瞳でセレナを見上げる。
「赤い月……やめろ……あれは……」
言葉は途切れ、意識が闇に沈んだ。
セレナは荒い息を吐きながら、剣を突き立てて立ち続けた。
「……勝った……」
その言葉に、周囲の魔女たちがざわめく。
カテリーナが微笑んだ。
「よくやったわ、セレナ」
健司が駆け寄り、彼女の肩を支えた。
「大丈夫か?」
セレナは小さく頷き、血に濡れた唇で微笑んだ。
「ええ……これで、少しは姉さんに報告できる……」
夜空にはまだ赤い月が輝いていたが、それはもはやリズリィの支配するものではなかった。
セレナ自身の力――彼女の誓いと想いが生み出した勝利の象徴だった。




