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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
セレナ編⑧決戦

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セレナVSリズリィ ― 赤き月の決戦

リズリィが口元に薄笑いを浮かべる。


「セレナ。お前では勝てない。感情に支配されているからな」


「……確かに」


セレナは拳を握った。

 胸を締め付ける怒りと悲しみ。冷静さを失う要因に過ぎない。けれど、その感情こそが彼女をここまで導いた。


「だが――今回は勝つ!」


 リズリィが片手を掲げる。赤黒い魔力が渦を巻き、空に広がっていく。


「赤き月よ、降り注げ……レッドムーンスター!」


 夜空に浮かぶ月が血のように赤く染まり、そこから無数の赤い星が降り注いだ。星々は炎のように燃え、地面を穿ち、空気を灼き、破壊の光となってセレナを襲う。


「くっ……!」


セレナは咄嗟に詠唱する。


「――ムーンプロテクト!」

 

青白い月光の盾が広がり、降り注ぐ星々を受け止めた。だが、圧倒的な威力が防御を突き破り、セレナの身体を灼く。


「ぐあっ……!」


 衝撃で膝をつく。肩口から血が流れ、視界が霞む。


 リズリィは高らかに笑った。


「はははっ! 年季が違うのだよ。その程度の魔法で私に抗えると思ったのか!」



 焼け付く痛みに耐えながら、セレナは必死に立ち上がった。


「まだ……終わらない……!」


 その瞬間、空が震えた。

 赤い月――だが、リズリィの魔法のそれとは違う、眩い輝きを帯びたもう一つの赤い月が出現したのだ。


 リズリィが目を見開く。


「な、何だ……? これは……私の魔法ではない……!」


 セレナは両手を掲げ、声を震わせながら叫んだ。


「――ムーンパワー! 月の魔法を……吸収する!」


 赤い月が強烈な光を放ち、リズリィのレッドムーンスターの力を逆流させていく。赤い星々は軌道を変え、セレナの周囲に吸い込まれるように消えていった。


 月光の奔流がセレナを包み込み、彼女の瞳が深紅に輝く。



 リズリィの身体が震えた。

 ――赤い月。

 それは彼女にとって勝利の象徴であると同時に、心の奥底に封じていたトラウマでもあった。幼き日に目にした惨劇。家族を失い、血と悲鳴に染まった夜。


「やめろ……それは……!」

 

リズリィが後退する。


 セレナは一歩ずつ進んだ。


「これは……姉を傷つけたお前に返す力だ!」


 月光が炸裂する。赤い奔流がリズリィを飲み込み、空気を震わせる。リズリィは悲鳴をあげ、膝をついた。


 リズリィの魔力が崩れ落ち、赤い星々が霧散していく。


「ま……待て……私は……負けない……!」

 

必死に立ち上がろうとするが、その身体は震え、足は地に縫い付けられたかのように動かない。


 セレナは最後の詠唱を告げた。


「――ムーンパワー・ブレイク!」


 眩い月光が炸裂し、リズリィを完全に打ち倒した。


 沈黙が訪れる。


 リズリィは地に倒れ、動けなくなっていた。恐怖に染まった瞳でセレナを見上げる。


「赤い月……やめろ……あれは……」

 

言葉は途切れ、意識が闇に沈んだ。


 セレナは荒い息を吐きながら、剣を突き立てて立ち続けた。


「……勝った……」


 その言葉に、周囲の魔女たちがざわめく。

 カテリーナが微笑んだ。


「よくやったわ、セレナ」


 健司が駆け寄り、彼女の肩を支えた。


「大丈夫か?」


 セレナは小さく頷き、血に濡れた唇で微笑んだ。


「ええ……これで、少しは姉さんに報告できる……」


 夜空にはまだ赤い月が輝いていたが、それはもはやリズリィの支配するものではなかった。

 セレナ自身の力――彼女の誓いと想いが生み出した勝利の象徴だった。

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