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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
セレナ編⑧決戦

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魔女が安心する町


「……ほう、怯まぬか。アナスタシアを退けたと聞いていたが、なるほど――目の光が違う」


互いに言葉を交わした瞬間、空気がさらに張り詰めた。

その沈黙を破ったのは、別の足音だった。


「ラグナ様、ただいま参りました」


複数の影が霧の中から現れる。クラリーチェ、リズリィ、そして数人の審問官の魔女たち。その配置は、まるで健司たちを包囲するようだった。


「……っ」


セレナの瞳が、リズリィを捉えた瞬間、殺気が迸った。

空気が震えるほどの憎悪が解き放たれる。


「リズリィ……っ!」


かすれた声に、血のような怒りが混じる。彼女の手は剣に伸びかけていた。


「セレナ……」


リズリィは一瞬、眉をひそめた。しかし、すぐに冷ややかな笑みに変わる。


「せっかく拾った命を無駄にする気?」


「黙れっ!」


セレナが前に出ようとした時、健司が彼女の腕を掴んだ。


「セレナ……落ち着いて」


「でも……っ!」


健司は強く首を振る。その瞳は真っ直ぐに彼女を見ていた。


「君の想いは分かる。でも今は……違う」


その声に、セレナは歯を食いしばりながらも一歩引いた。

しかし殺気は消えない。


健司は改めてラグナに視線を向ける。


「ラグナさん……僕は戦いに来たわけじゃありません」


「……何だと?」


「僕は……魔女が安心して暮らせる町を作りたい。それだけなんです」


森の中に沈黙が広がる。

審問官たちがざわめきを見せた。クラリーチェの眉がわずかに動き、リズリィですら目を細めて健司を見た。


「……戯言を」


ラグナの声が低く響いた。


「お前が何を知る? 我らがどれほど血に縛られ、力に縛られてきたか……」


健司は首を振る。


「分かりますよ」


その言葉に、審問官たちの視線が一斉に健司に向けられる。


「クラリーチェさん……あなたは血統じゃないでしょう?」


クラリーチェの顔がわずかに揺らいだ。無表情を装おうとしたが、その目に一瞬の驚愕が浮かんだ。


「リズリィさんも……違うはずです」


リズリィが息を呑んだ。その唇が僅かに震えたのを、セレナは見逃さなかった。


審問官たちの顔がざわめきに満ちていく。

誰もが思ってはいても、決して口にできなかった事実を、異邦の青年が告げたのだ。


そして、健司はラグナに向き直る。


「ラグナさん……あなたは血統の魔女かもしれません。でも――審問官の人たちが安心して暮らせる場所を作ったのは、血統だからじゃない。彼女たち自身の力と心があったからです」


その瞬間、ラグナの雰囲気が変わった。

炎のような威圧感が揺らぎ、代わりに静かな怒気が漂う。


「……小僧」


低く唸るような声が、森に響いた。


「お前……何を見てきた……」


「僕は見ました。アナスタシアも、アウレリアも、クロエも……血統や力じゃなくて、自分の意思で生きようとしている姿を」


ラグナの目が鋭く細められる。

そして、ふっと鼻で笑った。


「なるほど……確かにアナスタシアが負けるわけだ」


その場にいた審問官たちがざわめいた。ラグナが他者を認めるような言葉を口にするなど、ほとんどありえないことだった。


「だが――」


ラグナの瞳が再び鋭く光った。


「だからといって、我が引き下がるわけにはいかぬ」


一瞬にして空気が変わる。大地が軋み、森の木々が揺れる。

ラグナの力が解き放たれようとしていた。


クロエが健司の横に立ち、静かに囁いた。


「健司……覚悟して」


健司は頷いた。

だが彼の瞳に宿るのは恐怖ではなかった。

――信じる心。

それが、仲間と共に未来を切り開くための唯一の力だった。


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