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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
セレナ編⑧決戦

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対話

スラリーの朝は、しっとりとした冷気と、草花の香りに満ちていた。

旅人たちの出立でにぎわう街道沿いの宿屋。その一室に、健司は仲間たちを呼び集めていた。


木造の梁が低く、机の上にはまだ湯気の立つ茶器が置かれている。

だが部屋に集った顔ぶれの緊張感は、朝の穏やかさを吹き飛ばしていた。


アウレリア、アナスタシア、クロエ、リセル、そして――

カリスト審問官であるノイエルとヴァルディアまでもが座している。


「……さて」


健司は手を膝の上で組み、視線を巡らせてから、静かに口を開いた。


「そろそろ、審問官とのいざこざを終わりにしようと思う」


「終わりに?」


最初に声を上げたのはアナスタシアだった。青い瞳が真剣に細められる。


「健司、あなた何を考えているの?」


「そのままの意味だよ」


健司は淡々とした口調で答える。


「僕たちは本来、戦うはずじゃなかった。お互いに信じているものがあって、歩んできた道が違っただけだ」


彼の言葉に、ノイエルが驚いたように眉をひそめた。


「……信じるものが違えば、衝突は避けられない。少なくともカリストでは、それが当然と教えられてきた」


「でも」


健司は真っ直ぐに彼女を見る。


「わかり合わなくてもいいんだよ。無理に同じ考えを押しつけ合う必要はない。昨日、涙を流したよね。それだけで、僕は十分に理解できる」


ノイエルの唇が震えた。横で座っていたヴァルディアも、無言のまま拳を握りしめている。

彼女たちにとって、審問官として生きてきた道は絶対だった。けれど健司の言葉は、その絶対を揺るがしてしまう。


アウレリアがそっと口を添える。


「健司は、無理やり敵をねじ伏せたいわけじゃないの。彼のやり方は、私たち魔女にとっても不思議に思えるくらい……優しいの」


「だが――」


アナスタシアが机を叩いた。


「ラグナは違う! 重力の魔女、審問官の中でも最強と謳われる存在よ。話し合いで済む相手じゃない!」


彼女の強い言葉に、場の空気がさらに張り詰めた。


「……だからこそ、僕が行く」


健司は静かに言った。


全員の視線が集中する。


「ラグナさんと、直接話をつける」


「正気か!」


今度はクロエが声を荒げた。


「ラグナといえば、審問官の象徴のような存在。倒せるはずがないどころか、近づくことすら危険なんだぞ!」


「倒すつもりはない」


健司は首を振った。


「僕が望むのは、終わらせること。ただ、それだけだよ」


沈黙が落ちた。


ノイエルが小さく呟いた。


「……あなた、本当に理解できない人ね。昨日もそう。私たちの傷を癒しただけでなく、心の奥の痛みまで……」


「健司」


ヴァルディアも低い声で続けた。


「ラグナはおそらく、我ら以上に“揺るがぬもの”を背負っている。あなたの言葉が届くとは思えない」


健司は微笑んだ。


「届くかどうかは、会ってみないとわからないよ」


その笑みを見て、アナスタシアは頭を抱えた。


「本当に……あなたは危なっかしい……」


けれど否定しきれない。

彼女自身、健司に救われたからだ。

あの時も、不可能と思われた“理解”が実現してしまった。


アウレリアが健司に向けて、真剣な声で言う。


「もし、あなたが行くというのなら、私も同行するわ。ラグナは恐ろしいけど、あなた一人には任せられない」


「僕もだ」


アナスタシアが続ける。


「正直言って、気が気じゃないの。あなたは強い。でもだからこそ、危うい。守るために力を貸すわ」


クロエとリセルも顔を見合わせ、頷いた。


「健司、私たちも共に行きます」


「そうです。危険だからこそ、皆で支えるべきです」


ノイエルとヴァルディアは複雑な顔をしていた。

立場上、ラグナと敵対することはあり得ない。けれど今ここにいる自分たちの心は、既に揺らいでいる。


「……審問官としては、止めるべきなのでしょうね」


ノイエルが呟く。


「ですが、もし……もしあなたの言葉がラグナに届くのなら……それは私たちにとっても救いになる」


ヴァルディアも低く頷いた。


「我らも、同行しよう。たとえ敵と見なされても、最後まで見届けたい」


健司は深く息をついた。


「ありがとう。じゃあ、行こう」



部屋の外に出ると、朝の光が差し込んできた。

仲間たちはそれぞれの武器や装備を整え、決戦の地へ向かう覚悟を固めている。


アナスタシアが肩を並べて言った。


「健司……これで最後にしてよ」


「うん」


健司は前を見つめた。


「これで最後にする。必ずね」


遠く、西の空には黒い雲が渦巻いていた。

重力を司るラグナが待つ場所。

その影は、まるで世界そのものを引きずり込むかのように不気味に揺れていた。


健司たちは、ゆっくりとそこへ向かって歩み出した。


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