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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
セレナ編⑦愛

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カリストにないもの


 ヴェリシア、リセル、リーネ――戦いの最前線を担った三人は、健司の癒しに包まれ、すでに傷一つない状態へと戻っている。

 その奇跡の光景を目にしたヴァルディアとノイエル、そして保護されたラグリナとノエルは、言葉を失っていた。


 だが、健司はそこで終わらなかった。


 彼はゆっくりと視線を巡らせ、捕らわれの身であるヴァルディアとノイエル、さらにその背後に立つ雷の魔女、土の魔女――カリストの審問官二人の魔女へと歩み寄った。


 その足取りには威圧感がなく、戦場で見せた鋭さとも異なる。

 ただ、相手の存在そのものを否定しない、穏やかで確かな歩みだった。


 健司は四人の前に立つと、何も問わず、ただ両の手を差し出した。

 掌から溢れた光は、先ほどと同じ柔らかな金色に、淡く溶け合う蒼色が混じる。

 その粒子は風に乗って舞い、触れた瞬間、四人の体を包み込んだ。


 ヴァルディアは反射的に身を引こうとしたが、次の瞬間、その温もりに膝が少し緩んだ。

 ノイエルは息を呑み、雷の魔女は瞳を瞬かせ、土の魔女はそっと自分の胸に手を当てた。


 裂けた衣服が縫い合わされ、火傷や切り傷、打撲が一瞬で消えていく。

 しかし――それ以上に、彼女たちは「痛みが消える」以上の何かを感じていた。



 ヴァルディアは内心で叫んでいた。

 これは……魔法なのか?

 癒しの術式に見えるが、あまりにも違う。

 温度を持つ光、心にまで届く感触――それは彼女が知るどんな魔法よりも「人の温もり」に近かった。


 ノイエルは呟く。


「……温かい……これは……愛なのか?」


 雷の魔女は涙をこらえながら笑った。


「こんなもの……カリストには……なかった」


 土の魔女は黙っていたが、その瞳は確かに揺れていた。



 癒しを終えた健司は、少しだけ口元を緩めた。


「……ノイエルさん、ヴァルディアさん……それに君たちも」


 彼の視線は雷の魔女、土の魔女にも向けられる。


「一緒に、共にしないか?」


 その言葉は軽くなかった。

 戦場で命を賭けて刃を交えた相手に向けるには、あまりにも真っ直ぐすぎる提案だった。


 四人は驚き、思わず口を開く。


「……私たちは……敵だったのに?」


 その問いに、健司はためらわず答えた。


「関係ないよ」


 ヴァルディアが目を見開き、ノイエルは無意識に一歩前へ出た。


「なぜ……?」


「僕たちは、わかり合えるから」

 

健司はそう言って、彼女たちの瞳を真っ直ぐに見つめる。


「だって、君たちは涙を流した。あの瞬間、僕たちは同じ景色を見たはずだ」



 その言葉が、四人の胸の奥に沈んだ氷を少しずつ溶かしていく。

 ヴァルディアは目を逸らしながらも、耳の奥で健司の声が響き続けていた。

 ノイエルは拳を握りしめ、雷の魔女は小さく嗤いながらも視線を落とした。

 土の魔女は、静かに頷きかけて――そして何も言わずに黙り込んだ。


 もし、あの輪の中に入ったら……

 そんな想像を、彼女たちは否応なくしてしまっていた。



 健司の背後では、ヴェリシア、リセル、リーネ、カテリーナ、クロエ、アウレリアたちが静かに見守っていた。

 敵に手を差し伸べる健司を誰も止めない。

 それは、この仲間たちにとって当たり前のことだったからだ。


 健司が選ぶ道は、いつだって「力で押し潰す」ではなく「共に歩く」だった。



 高原の風が吹き抜け、広場の旗を揺らす。

 四人の心の奥に、小さな火が灯った。

 それはまだ弱く、揺れやすい火だ。

 しかし――その火を灯したのは、確かに健司の言葉と温もりだった。


 ヴァルディアは小さく呟いた。


「……本当に……関係ないのか……」


 健司はただ、微笑んだ。

 その微笑みが答えだった。



「……今は……まだ決められない。」


しばらくの沈黙の後、ノイエルはそう答えた。

だがその声は、拒絶ではなく、未来を見つめている。


「……でも、未来は……明るい気がする。」


健司は、柔らかく頷いた。


「ありがとう。」


ノイエルは、ふと思い出したように言葉を継ぐ。


「ラグナ様は……慎重な方だ。今は動かない。

勝つ時が来たら……必ず動くはずだ。」


その言葉に、別の声が重なる。


「彼女らしいね。」


周囲が振り返ると、そこに立っていたのはアナスタシアだった。

深い緑の外套が風に揺れ、銀の髪が陽光を反射する。


「アナスタシアさん……どうしてここに?」


「精霊が教えてくれたの。ノエルとラグリナがいるって。」


名を呼ばれた二人――ノエルとラグリナが、駆け寄るようにアナスタシアの前に立つ。


「アナスタシア様……ただいま戻りました。」


アナスタシアは、ふっと微笑んだ。


「お帰り。」


たったそれだけの言葉が、二人の胸を満たす。

張り詰めていた心が一気に解け、ラグリナの目から涙が零れ落ちた。


「……奇跡って……あるんですね。」


「そうね。」


アナスタシアは彼女の肩に手を置き、健司を見た。


「健司がいたからこそ……」


その瞬間、夕陽が街を包み込み、全員の影を長く伸ばした。

それはまるで、未来へと続く一本の道のようだった。


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