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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
セレナ編⑦愛

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109/157

高原の街スラリーは、涼やかな風と澄み切った空気に包まれた場所だった。

 夏の終わりを告げる小さな鈴の音が、街の広場の風見鈴から響く。

 遠くには雪を抱いた山々が連なり、陽光を反射してきらきらと光っている。

 しかし、その平和な光景の片隅に、激しい戦いを終えた者たちが集まっていた。



 ヴェリシア、リセル、リーネ――三人は、激闘の末にヴァルディアとノイエルを捕らえ、この地へ戻ってきた。

 戦いの疲労は深く、衣服には裂け目や焦げ跡、傷跡が残っている。

 しかし、その表情には、使命を果たした安堵があった。


 広場に足を踏み入れた瞬間、彼女たちの視界に、仲間たちの姿が飛び込んでくる。

 真っ先に歩み寄ってきたのは――健司だった。



 健司は静かに、しかし力強く言葉をかけた。


「……よく、頑張ったね」


 その声は、戦場の喧噪の中では決して聞こえない種類の優しさを帯びていた。

 ヴェリシアの瞳が少し揺れ、リセルは表情を引き締めようとしながらも、その声の温もりに緊張が緩んでいく。

 リーネは小さく息を吐き、肩の力を抜いた。


 次の瞬間――健司は三人をそっと抱きしめた。

 戦士としての彼らではなく、友として、大切な仲間として。


 抱きしめた後、健司は彼女たちの傷に手をかざした。

 手のひらから柔らかな光が溢れ出し、淡い金色と蒼色の粒子が混ざり合って舞い上がる。

 まるで春の花びらが風に舞うように、その光は三人の身体を包み込んだ。


 裂けた衣服が縫い合わされ、深い傷跡が瞬く間に消えていく。

 痛みが和らぎ、重かった四肢が羽のように軽くなる。

 そして――まるで傷など初めから存在しなかったかのように、彼女たちは完全な状態に戻っていた。


 リーネが驚きに目を見開く。


「……こんな癒し、見たことがない……」


 ヴェリシアは小さく微笑み、リセルは言葉を探しながらも結局一言だけ呟いた。


「ありがとう……」



 少し離れた場所に、ヴァルディアとノイエルが立っていた。

 彼女たちは捕らわれの身でありながら、目の前の光景から目を逸らすことができない。

 そして、その傍らには、カリストから逃れ、この街で保護された二人――ラグリナとノエルがいた。


 ラグリナは長い銀髪を風になびかせ、信じられないという表情を浮かべていた。


「……ありえない。癒しの魔法といえば、高位の神官ですら時間をかけなければならないのに……」


 ノエルは目を細め、低く呟く。


「あれは……力だけじゃない。心が、通じ合っている……」


 ヴァルディアは無意識に拳を握っていた。

 これまで彼女は、強さとは魔力の総量、技の鋭さ、そして血統に由来する絶対的な力だと信じてきた。

 だが今目の前で起きていることは、その価値観を揺るがす。


 ノイエルは、静かに呟いた。


「……あれが、絆なのか」


 健司は仲間に指示を与える時も、戦う時も、同じ眼差しで彼らを見ている。

 そこには上下も隔たりもない。仲間を信じ、仲間に信じられている。

 その相互の信頼が、魔法をも変質させ、常識外れの癒しを生み出しているのだ――そう、彼女たちは直感していた。


 ラグリナは唇を噛む。

 カリストの中で、仲間とは互いの利害で繋がる存在であり、失えば補充するだけの“駒”だった。

 だが、健司たちの間にはそれとはまるで異なる何かがあった。


「……もし、私たちがあの輪の中にいたら……」


 そう考えた瞬間、胸の奥に熱が走った。


 ノエルは隣で目を閉じ、小さく微笑んだ。


「きっと、あれは真似できない。力で作れるものじゃないから」



 ヴァルディアとノイエルは互いに視線を交わした。

 敵として戦ったはずの相手に、なぜか今は怒りよりも羨望に近い感情が湧き上がっている。

 それが悔しくもあり、同時に心を揺さぶった。


 ヴァルディアは小さく息を吐く。


「……認めたくはないけど、あれは……強い」


 ノイエルは短くうなずく。


「強さの理由が、やっとわかった気がする」



 癒しを終えた健司は、振り返って四人――ヴァルディア、ノイエル、ラグリナ、ノエルに目を向けた。

 そこに敵意はなく、ただ穏やかな微笑みがあった。


「……君たちも、無理はしない方がいい」


 その言葉は命令でも挑発でもなく、ただ純粋な気遣いだった。

 四人は何も返せず、ただその笑みを胸に刻んだ。

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