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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
セレナ編⑥ノイエルとヴァルディア

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リセル対ノイエル

ヴァルディアが炎に打ち倒された光景を見届けた瞬間、ノイエルの表情がわずかに揺らいだ。

 彼女にとって、ヴァルディアは同じ審問官として信頼できる仲間であり、同時に切り札の一枚だった。

 それが敗北するなど、想定外の事態――。


「……まさか、敗れるとは」

 

吐き捨てるような声には、驚きよりも焦燥が混じる。

 だが次の瞬間には、口元に冷笑が戻っていた。


「でも、もう遅い」


 ノイエルが杖を軽く振る。

 空気が揺れ、目には見えぬ波紋がリセルへと押し寄せた。

 音と氷の複合魔法トリニティ・フロストノート――その第一段階は、耳をつんざく高周波の音撃だ。

 鼓膜だけでなく、神経に直接作用し、反射的な動きを封じる。


 続く第二段階――高周波が空気中の水分を急速に振動させ、瞬間的な凍結を引き起こす。

 そして第三段階――氷だけを物理的に射出する純粋な破壊術。

 連続三段構え、時間差で発動するため、対処を誤れば防御のタイミングを外される。


 しかし、ノイエルが放った波紋がリセルを包み込んだ直後――彼女の姿がかき消えた。


「……幻影?」

 

ノイエルの目がわずかに細まる。


「ダークイリュージョン」

 

リセルの声が背後から響いた。

 それは影の中から現れる幻術。対象の感覚を歪め、見ているもの、聞こえるもの、感じるものすべてを虚像に変える。

 今のノイエルの攻撃は、幻影にしか当たっていなかった。


「効かないわ」

 

リセルは冷ややかに言い放つ。


 ノイエルは振り返り、わずかに笑った。


「さすがに……しつけられているね」


「……しつけ?」

 

リセルが眉をひそめる。


「だって、そうだろう? 叶わない夢を見ているだけだから」

 

ノイエルの声は、同情にも似た冷たさを帯びていた。


「夢見がちな者ほど、現実の前で砕ける。お前たちはそうやって滅びる」


 リセルはゆっくりと首を振る。


「……あなた、羨ましいんだね」


「何?」


「だから、現実しか見ない。見ようとしない」


 その言葉には、観察者としての鋭さと、戦う者の誇りが同居していた。



 ノイエルは吐き捨てる。


「現実がすべてだ」

 

そして間を置かずに続けた。


「アナスタシアが一人になったのが現実だ」


 その瞬間、リセルの瞳が鋭く光る。

 仲間を侮辱されることは、彼女にとって最大の挑発だった。

 しかし感情を爆発させる代わりに、彼女は沈黙を保つ。戦場で感情に飲まれた者は負ける――それを熟知しているからだ。



 ノイエルが再び複合魔法を展開する。

 まず空気を裂く甲高い音。リセルの耳には届かない――はずだったが、闇魔法でも完全には防ぎきれず、一瞬だけ視界が揺らぐ。

 続けざまに周囲の水分が凝結し、鋭い氷の刃が形成される。

 最後に純粋な氷弾が雨のように降り注いだ。


 リセルは防御の闇膜を張ったが、三段目の氷弾のいくつかが突破し、肩や脇腹を裂く。

 鮮血が雪のように散った。


 ノイエルは口元を歪めて笑う。


「その程度だよ」


 しかし、その笑みは一瞬後には凍りつく。

 リセルが左手をかざし、低く呟いた。


「ダークボム」


 闇の球体が、ノイエルの足元、背後、頭上――三方向に同時に出現した。

 次の瞬間、それらは黒い閃光を放ちながら炸裂する。

 音ではなく衝撃そのものが襲いかかり、ノイエルの体を持ち上げて地面に叩きつけた。


「なっ……!」

 

彼女は咄嗟に防御を試みたが、爆発は空間ごと抉るため、障壁をすり抜けて直撃する。


「何……? こんな魔法が……」

 

ノイエルは苦しげに息を吐く。

 ダークボムは闇魔法の中でも異質な術で、攻撃点を“空間に直接”作り出す。位置取りや軌道予測が無意味になるため、防御のタイミングを奪われるのだ。


 リセルは血を拭いながら前に歩み出る。

 その足取りは揺れていない。


「現実は……自分で作るんだよ」


 その言葉と同時に、最後の爆発がノイエルの背後で起こった。

 吹き飛ばされた彼女は木に激突し、そのまま力なく崩れ落ちる。


 風が吹き抜け、焦げた匂いと冷気が混ざった空気が森を満たす。

 リセルは深く息を吐き、周囲の闇を消し去った。

 ヴェリシアとリーネが駆け寄ってくる。


「……終わった?」



とリーネ。


「ええ。でも、まだ完全じゃないわ。あの人は、すぐには死なない」

 

リセルの声は冷静だったが、その指先にはわずかな震えがあった。

 彼女もまた、今の戦いで限界に近い魔力を消費していたのだ。


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