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魔女達に愛を  作者: リーゼスリエ
セレナ編⑥ノイエルとヴァルディア

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ヴェリシア対ヴァルディア

雷と土の魔女が倒れ、戦場は一瞬だけ静まり返った。

 しかしその沈黙は、嵐の前の静けさに過ぎない。


 ヴァルディアが、リーネをじっと見つめていた。

 彼女の目は好奇心と警戒、そして獲物を観察する肉食獣の光で満ちている。


「……面白い魔法だね」


 声は低く、しかしその裏にぞわりとするような喜悦が混じる。

 忘却の魔女ヴァルディアにとって、他者の精神や記憶を弄ぶ術は日常だ。

 だが、過去の痛みを現実化させるアンチヒールライトは、彼女の知る体系の外にある。


「でも――恐怖するがいい」


 その瞬間、ヴァルディアの周囲に黒紫の光が渦巻き始めた。

 光は鎖のような形を取り、空間そのものに亀裂を走らせる。

 それは封印魔法メモリア・レクイエム――対象の力を封じるだけではない、“術そのものの存在”を記憶から消し去る禁忌の魔法。



 ヴァルディアが杖を振り下ろし、封印の鎖がリーネに向かって襲いかかった、その瞬間――


 目の前に紅蓮の壁が燃え上がった。

 熱風が吹き抜け、枯葉を一瞬で灰に変える。


「……っ!」

 

ヴァルディアは思わず後退する。


「――私が相手だ」


 炎の壁の向こうから、ヴェリシアが現れた。

 彼女の瞳は静かだが、その奥に揺れる炎は燃え盛る戦意を隠してはいなかった。

 ファイヤーウォール――ただの防御術ではない、相手の魔力構造を乱し、封印魔法の干渉を弾く特別な炎壁だ。


 ヴァルディアの口元に冷笑が浮かぶ。


「……ああ、思い出した。逃げた負け犬の組織ね」

 

わざとゆっくりと、言葉を切り刻むように続けた。


「カテリーナは逃げたんだよ」


 その名が空気を変えた。

 ヴェリシアの肩がわずかに揺れる。

 カテリーナ――ヴェリシアが属していた組織アスフォルデの環のボスであり、誇りでもあった魔女。

 その彼女が敗北を喫し、生き延びるために撤退した――ヴァルディアは、そこをえぐった。


 ヴェリシアの目の奥で、炎が音を立てて燃え広がる。

 吐息ひとつとともに、彼女の周囲の温度が跳ね上がった。

 乾いた枝が弾けるように割れ、地面の苔が熱に縮む。


「……ファイヤージーング」


 低く告げたその言葉と同時に、ヴェリシアの両拳が炎に包まれる。

 それは単なる魔力強化ではなく、炎そのものを肉体の延長として操る格闘術――かつてカテリーナと共に磨き上げた技。


 ヴァルディアは鼻で笑った。


「効かないよ」


 彼女は再び封印魔法メモリア・レクイエムを展開する。

 今度は炎ごと対象を封じ、“拳を振るう”という行為そのものを忘れさせるつもりだった。


 鎖のような黒紫の光がヴェリシアに迫る。

 しかし、ヴェリシアは一歩も退かない。

 彼女は燃え盛る拳を前に突き出し、そのまま炎ごと全身を捻り込んだ。


 ドンッ!

 衝撃音とともに、炎が鎖を焼き裂き、封印魔法の構造を粉砕する。

 光の鎖は一瞬で蒸発し、残ったのは焦げた空気の匂いだけ。


 ヴァルディアの瞳に、初めて驚愕の色が浮かんだ。

 その刹那、ヴェリシアの拳が――否、炎を纏った素手が、彼女の胸部を的確に撃ち抜く。


 防御魔法を張る暇もなく、衝撃が全身に走った。

 炎は皮膚を焼くよりも、魂の芯を揺さぶる。

 ヴァルディアの身体が後方へ吹き飛び、地面に叩きつけられた。


「なぜ?」


 呻きながらも、ヴァルディアは必死に上体を起こした。

 その口から、息と共に言葉が漏れる。


「なぜ……私の封印が……」


 ヴェリシアは答えを急がなかった。

 炎を収め、ただまっすぐに相手を見下ろす。


「――それは、あんたが負けたことがないからだ」


 その言葉は、勝者への皮肉でも、敗者への同情でもない。

 “敗北”を知らぬ者は、自らの術が破られる可能性を想定できない。

 そしてその一瞬の盲点こそが、ヴァルディアを倒したのだ。



 森を吹き抜ける風が、戦いの熱をわずかに冷ます。

 遠くで、リーネがゆっくりと雷と土の魔女の方へ歩み寄っていた。

 ノイエルは黙ってこの光景を見つめ、何かを計算するように視線を巡らせている。


 しかし今、この場を支配しているのは、ヴェリシアの放った炎の余韻だった。

 それは単なる勝利の熱ではない――過去と誇り、そして仲間の名誉を取り戻すための、確かな闘志の炎だった。


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