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魔女達に愛を  作者: アモーラリゼ
セレナ編⑥ノイエルとヴァルディア

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戦闘開始

ノイエルの「捕らえろ」という低い号令が響くや否や、森の空気は一変した。

 沈んでいた夕闇が一気に緊張の色を帯び、落ち葉の上を走る風がまるで生き物のように巻き上がる。


 その命令に応えるように、ノイエルとヴァルディアの背後から二つの影が前へ躍り出た。

 一人は淡黄色のショートヘアに雷光の刺青を頬に刻む女――雷の魔女。

 もう一人は背が高く、褐色の肌に大地の符を刻んだ重装の女――土の魔女。

 彼女たちは審問官直属の戦闘魔女であり、迅速かつ容赦のない殲滅行動で知られていた。



「……私たちにお任せください」

 

雷の魔女が、短く息を整えながら言った。

 その隣で土の魔女が頷く。


「ノイエル様達は、他の者を抑えてください。ここは私たちが終わらせます」


 ノイエルは無言で頷き、わずかに後退して戦場を俯瞰する位置に移動した。

 ヴァルディアはその場に立ち、霧のような魔力を纏わせながら、様子を観察する。



 雷の魔女は両手を前に突き出し、詠唱を開始した。

 その声は短く鋭く、ほとんど呪詛のように耳を打つ。


「――ボルティング!」


 次の瞬間、雷鳴が森を裂き、青白い稲妻が一直線にリーネへと走った。

 空気が焦げる匂いが瞬く間に広がる。


 同時に、土の魔女も詠唱を終える。

 大地に手を触れ、低く響く声で言葉を紡ぐ。


「――アースウェイブ!」


 地面が唸りを上げ、波のように隆起した土と石が前方へと押し寄せる。

 リーネは上下から挟まれる形になった――雷と、大地の津波。


 しかしリーネの表情は、驚きでも焦りでもなかった。

 彼女の唇が静かに開く。


「……甘い」


 瞬間、彼女の足元に淡い銀色の円陣が展開した。

 円陣の縁は古代文字のような紋様で覆われ、淡い光が鼓動のように脈打つ。


「――アンチヒールライト」


 その言葉と同時に、銀色の光が稲妻を呑み込み、土の波をすり抜け、二人の魔女の足元から噴き上がった。


 光は直接的な衝撃や焼き焦がす熱を持たない。

 だが、それは二人の魔女の身体に“刻まれた記憶”を掴み、引きずり出す。


 雷の魔女は、数年前に受けた胸部の深い裂傷を、まるで今受けたかのように再び感じた。

 鎧越しに焼けるような痛みと呼吸困難が襲い、稲妻を制御していた魔力が暴発して木々を焦がす。


 土の魔女は、十代の頃に戦った獣に折られた左腕の激痛を再び味わった。

 骨が砕ける鈍い感触と同時に、握っていた大地の魔力が崩れ、隆起していた土が無力に崩れ落ちる。


「な……っ!」

 

雷の魔女が膝をつき、胸を押さえた。


「これは……何……」


「こんな魔法……見たこと……ない……!」

 

土の魔女は腕を抱え、苦悶の表情を浮かべた。


 彼女たちは知っている。通常、治癒された傷は肉体的には残らない。

 しかしリーネの放ったアンチヒールライトは、肉体の記憶、魂に刻まれた“痛み”そのものを現実化させる。

 それは治癒魔法の真逆、時間の記録を引きずり戻す禁忌の技。


 ヴァルディアの瞳が細められる。


「……興味深いわね」

 

彼女は忘却と精神操作の専門家であり、痛みの記憶を扱う術も知っている。だが、それを物理的現実として顕現させる技など、聞いたことがなかった。


 ノイエルも、わずかに口角を上げる。


「なるほど……人間に飼い慣らされた魔女、ね……。この力がその“鎖”か」

 

だがその声には、焦りとも警戒とも取れる硬さが混じっていた。


 リーネは二人の魔女の様子を見ても、表情を変えない。

 足音ひとつ立てず、ただゆっくりと前へ歩み出る。

 その歩みは、逃げ場を狭める捕食者のそれだった。


「……あなたたちの痛みは、まだ浅い」

 

低く告げる声に、二人の魔女は本能的な恐怖を覚える。

 痛みはただの損傷ではない。恐怖や屈辱と結びつくことで、魂を支配する。

 リーネは、それを理解し、利用している。


 雷の魔女が必死に片膝を立て、再び魔力を練ろうとする。

 だが、胸を締め付ける痛みが集中を阻害する。

 土の魔女も、左腕の感覚が失われ、詠唱の構えを取れない。


 アンチヒールライトは直接の破壊力こそないが、持続的に過去の痛みを“今”として再生し続ける。

 治癒するには、ただの回復魔法では足りない――痛みそのものを魂から切り離す高度な術式が必要だ。


 森の上空を飛ぶ鳥たちは、異様な気配に恐れをなし、一斉に飛び去った。

 落ち葉の香りに混じって、焦げた雷の匂いと、崩れた土の湿り気が漂う。


 ヴェリシアはその光景を冷静に見つめ、杖を軽く地面に突いた。


「……この場は、私たちが制する」


 リセルは未だ怒りを湛えたまま、ノイエルから視線を外さない。

 雷と土の魔女の敗北は、戦いのほんの序章に過ぎなかった。

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