食料
ご主人さまとお母さんが買い物に出かけた日の昼下がり、僕たちはお日さまが差し込むマンションの高層階にある部屋の、広いリビングで日向ぼっこをしていた。
ウトウトとしてたら突然凄まじい爆発音か響き渡り、爆発音が響き渡った直後にマンションが大きく揺れ、リビングの窓のガラスが砕け飛び散り僕たちに降り注ぐ。
小型犬の僕は大型犬の仲間たちの後ろにいたお陰で砕けて飛び散ったガラスの破片が身体に刺さる事は無かったけど、仲間たちは身体中にガラスの破片が突き刺さり即死するか重傷を負う。
重傷を負った仲間たちを見てどうしよう、どうしようと仲間たちの回りをウロウロしてる僕の目が窓の外を捉えた。
遠くに小さく見えていた高層ビル群があった辺りに、毒々しく黒い大きな大きなキノコ雲が立ち上り、上へ上へとのびて行く。
その日ご主人さまたちは帰って来なかった。
重傷を負った仲間たちはキュンキュン鳴きながら、翌朝までに皆んな息を引き取る。
一人ぼっちになった僕はご主人さまたちが帰って来る事を信じ、死んだ仲間たちの死体を見ながら待ち続けた。
2日経っても5日経ってもご主人さまたちは帰って来ない。
眼下に見える街の中を見渡してご主人さまたちの姿を探す。
でも見えるのは、身体中に大火傷を負っていたり身体のアチコチにガラス片が刺さったままでいたりする人たちが口々に、「水、水、水」と言いながら彷徨う姿だけ。
10日程過ぎると荷物を背負い子供の手をひいた人たちが、人の死体が転がる道を横切り何処かに歩み去って行くのが見える。
だけどご主人さまたちの姿は何処にも見えない。
あの日から15日過ぎた、今日もご主人さまたちは帰って来ないのかな? って思ってたら、ドアが開けられる音が僕の耳に聞こえて来た。
玄関に走る。
玄関に痩せ細り薄汚れていたけどご主人さまとお母さんが立っていた。
僕は嬉しくて嬉しくて尻尾を力一杯振りながらご主人さまに飛びつく。
ご主人さまとお母さんは僕を抱え撫でてくれた。
嬉しさのあまり僕は部屋中を駆け回る。
ご主人さまとお母さんはそんな僕を見ながら荷造りをしていた。
「あなた、犬はどうするの? 連れて行くの?」
「取り敢えず連れて行こう」
「でも世話なんて出来ないわよ」
「足手まといになったら食料にすれば良いのさ」
「そうね、そうしましょう」
僕はご主人さまたちが何を話しているか分からなかったけど、連れて行ってもらえるらしい事は分かったから、それが嬉しくて部屋の中を走り回り続けていた。