Episode17-3
「今日のおやつは、シュークリームと言う食べ物です。」
「シュークリームはおいしいぞ、なのです。アーデルヘイトもたべるといいの、です。」
早速シュークリームにパクつきながらも、珍しく人に勧める気遣いを見せるトンコ。なんだかんだで、優しい子猫ちゃんである。
「しゅーくりぃむ、ですか。茶色の生地と、その上にかかっている粉砂糖が雪山のようで綺麗ですね。それに生地の間に挟まれている白と淡い黄色のものも雪山を連想させます。」
「確かにそうですね。でも、ハズレです。シュークリームは、キャベツの形に似ていることから付けられたお菓子なんですよ。間に挟まっている白いものは、生クリーム。黄色いものはカスタードクリームです。どちらも甘くて美味しいですよ。」
シュークリームを初めて見るアーデルヘイト様に簡単な説明をして、今回も毒味として先に一口齧って見せる。でも、言われてみればキャベツには見えないよね。今回は、生地でクリームを挟んでいるタイプにしたから尚更だ。山が語源のお菓子と言えばモンブランだけど、これはこれで雪山に見えなくもないかも。
「キャベツですか?」
不思議そうに首を傾げながらも、上品な所作で小さくシュークリームを齧るアーデルヘイト様。
「…まあ。これは……。表面がサックとしていて中がふわっとしている生地の食感がとても面白いです。この生地だけでは甘味が薄く淡白な味わいですが、これは中のくりぃむと合うようにわざと甘味を抑えているのですね。白い生くりぃむなるものは、ミルクのコクや風味が豊かで滑らかです。逆にかすたぁどくりぃむなる黄色のものは、卵の風味が豊かでもったりとし濃厚な味わいです。どちらの甘味も特徴的ですが、お互いを邪魔することなく口の中で混ざり合い絶妙な味わいになっています。それが生地と合わさる事で、更に風味が豊かになり甘味のしつこさも軽減されています。……これはお姉様やコルネーリア、そして王宮の皆さんが騒ぐ訳ですね。とても美味しいです!」
「そんなに褒められると照れちゃいますね。でも、嬉しいです。」
初めてのシュークリームを夢中で食べているアーデルヘイト様。やっぱり、私達と同じ年相応な女の子なんだなぁ。先程から悩みを聞き、どこかで感じていた親近感が更に強いものになっていく。
「…私、実はちょっとだけアーデルヘイト様の気持ちも分かるんです。私の場合アーデルヘイト様と違って姉妹や兄妹ではないですけど、私の傍にはいつも幼馴染の渼音がいて。近くにいる人が凄すぎて、別に誰かに比べられた訳でもないのに、自分で勝手に比べて焦っちゃって…自分に自信が持てなくなる時ってありますよね。昔は私もそうだったから…。」
「…タツキさんは、どのように克服したのですか?」
私の呟きに、彼女はシュークリームを食べる手を止め真剣な表情でじっとこちらを見つめる。そのどこか縋るような表情は、守ってあげたいと思わせるには十分なものだ。しかし、残念ながら私は答えを持っていない。
「うーん。申し訳ないんですが、別に特別なことは何も。」
「……そうですか。」
「私の場合、諦められたと言うか…。役割が違うんだなぁって納得できちゃったんですよね。このシュークリームじゃないですけど、生地があって生クリームがあってカスタードクリームがある。先程アーデルヘイト様が言ったように、全部揃って初めて一つのシュークリームとして完成するんですよね。どうしても、甘い甘い生クリームやカスタードクリームが主役になので目立っちゃいますけど、生地がなければシュークリームは成り立たないでしょう? それに生地よりもっと目立たないけど粉砂糖だって、味と見た目をこのシュークリームたらしめています。もっと言えば、生地を作るための小麦粉やカスタードクリームを作るための卵もそう。そういった材料がなければ、シュークリームは作れない。」
私の言葉をぽかんとした表情で聞いているアーデルヘイト様。それはそうだろう。だって当たり前のことしか言ってないんだもん。




