Episode17-2
「そうだっ! 私達、ここでおやつにしようと思っていたんです。よろしければ、アーデルヘイト様もご一緒にいかがですか?」
「おやつ、ですか?」
「はい。私の手作りなので、お口に合わないかもしれませんけど…。」
「いいえ。タツキさんのお料理の腕は、王宮中で話題になっていますよ。実は私もチャンスがあれば、ご馳走になってみたいと思っていたのです。」
…よかった。先程の思い詰めたような雰囲気が少し和らいだ気がする。
アーデルヘイト様の悩みが何かはわからないし、ましてや私にそれを解決できる力があるとは思ってない。だけれども、心が弱っている時は温かいものと甘いものが、ほんの少しだけ力を分けてくれたりする事を私は知っている。
私は魔法鞄の中から、エルダに入れて貰った熱々のお茶とティーセットを取り出すと、慣れない手つきで、それでも出来るだけ丁寧にカップにお茶を注ぐ。
「どうぞ。エルダが入れてくれたお茶です。」
「ありがとうございます。」
「はい。トンコには、ミルクね。」
毒味代わりに一口飲んで見せた後、私は深めに平皿にトンコ用のミルクを注いであげる。
「ハチミツは、はいってるの、ですか?」
「もちろん。トンコ用の特製ミルクだよ。」
「やったぁなの、です!」
そんな私達のやりとりを微笑しそうに見守った後、アーデルヘイト様はお茶をくぴりと飲み、ほっとしたように一息ついた。…お姫様は、お茶を飲む姿すら可愛らしいんだね。
「お二人は、とても仲がよろしいんですね。なんだか羨ましいです。」
「そうですかね。アーデルヘイト様こそコルネーリア様やステファニア様と仲がいいんじゃないですか? あのお二人と会うと、よくアーデルヘイト様の自慢をされていますよ。」
驚いたように少し目を見開いた後、アーデルヘイト様は悲しげな顔になってしまう。
「…あの二人は優しいですから。何も出来ない愚かな私を気遣ってくれているのでしょう。」
…愚か、か。だが、そんなことはないはずだ。アーデルヘイト様と言えば、この国きっての才媛と名高い。あまり周囲と関わりがない私ですら、そのご高名は知っているくらいだから、余程のお方なのだろう。ステファニア様やコルネーリア様が自慢をする時の嬉しそうな顔を見ているだけでも、アーデルヘイト様のことをどれだけ慕っているのかは分かる。
「どうして、そう思われるんですか?」
「…私には、何もないのです。お兄様やお姉様のように騎士団や魔導士団を率いて民のために魔物と戦う力もなければ、コルネーリアのように前線で戦う者達のためにポーションを作成することも出来ません。国を護るべき王族の立場にありながら、ミオンさんに聖女としての役割と重責を押し付けています。そして、タツキさんのように良質なポーションを作り、そのうえ更にお料理や調味料・美容用品といった新たな発想で民の生活を向上させることも出来ない。」
一息にそこまで言い、何かを諦めたような自嘲の笑みを浮かべるアーデルヘイト様。
「…申し訳ありません。このようなつまらないお話しを……。タツキさんが持つ何でも受け止めてくれるような雰囲気のせいでしょうか。それとも、エルダのお茶が心を溶かしてしまったのかしら。あの子は、タツキさんに似て優しくて温かいから。……いいえ、きっと両方ですわね。」
「アーデルヘイト様は、その若さで国の財務の中心を担っていると聞いています。それに、軍部においても兵站を初めとした輸送部隊を影に日向に支えている功労者だとも。それではダメなのですか?」
「いえ…。それらが重要な役割であることは理解しています。ただ、それは私でなくとも出来る事ですから…。所詮、王族としての場を与えられているにすぎないのです。」
「私には十分立派な事だと思えますけど…。」
どうにも周りの評価と本人の自己評価の間にかなりの乖離があるようだ。ここまで話しを聞いた以上は、なんとかアーデルヘイト様を元気づけたい。とは言え、アーデルヘイト様以上に役に立たない私が上から目線でアドバイスをするのも違う気がする。…うーん、どうしたものか。私は、俯いてしまっているアーデルヘイト様に声をかける。
「アーデルヘイト様。おやつを食べませんか。」
魔法鞄から、シュークリームを取り出しアーデルヘイト様とトンコに配膳をする。




