Episode16-5
エルダの疑問に答えつつ、熱しておいたフライパンにバターとオリーブオイルをいれ玉ねぎを炒める。玉ねぎがしんなりするまで炒めたら、ピーマンとマッシュルーム、ソーセージを咥えて更に炒めて塩と胡椒で味を整えておく。火が通った具材を一度取り出したら、今度は先程作ったソースをフライパンに入れて混ぜながら、中火で煮立てていく。
「良い匂いー。ルナお腹減ってきちゃった!」
「…うん。見たことない食べ物だけど、とっても良い匂いがするね。」
表情豊かで感情がストレートに表情に出るタイプのルナちゃんと、冷静でポーカーフェイスタイプのソルちゃん。そんな風に個性が異なる二人だけど、二人とも短い尻尾がフリフリなのは同じで、ほっこりとする。因みに、お姉さん顔でお澄まししている、エルダの尻尾も同じだよ。
ソースがふつふつと煮立って来たところで、先程取り出しておいた具材を戻し、軽く混ぜ合わせたら味をしっかりと染み込ませるために火を止める。熱が冷める時に味が染み込んでいくのだ。
「しかし、インテ。貧民の命に塩を振って食べる以外の食べ方があるなんて、本当に驚きだね。」
「ええ、ミランちゃん。タツキちゃんの故郷は面白いことを考えるのね。子供達じゃないけど、なんだかとても美味しそう。」
「美味しいそう、じゃなくて美味しいだよ!」
パスタを茹で終えたエルダが、自信満々にえへんと胸を張る。
「…エルダ、あんまりハードルを上げないの。手が空いみたいだし、パスタをフライパンに入れてソースと絡めてくれる?」
「えー、本当のことなのにぃ。」
エルダにパスタをお願いして、私は魔法鞄からステーキ用の楕円形をした鉄板を取り出す。本当は丸い形の鉄板があれば良かったんだけど、お好み焼きやナポリタンがないこの世界には丸い鉄板はないのかもしれない。そう。日本でも普通の地域では、お皿にナポリタンを盛り付けて完成だけど、私が住んでいた地域では少し違う。ナポリタンと言えばやっぱり、鉄板ナポリタンがマストだ。
「それじゃあもう少しで完成だから、テーブルの準備をお願いね。」
鉄板を火で熱している間に卵を溶き、熱々になった鉄板に流し込む。卵は少し半熟くらいにするのが正義なのだ。卵に火が通り過ぎないように、急いでパスタを盛り付ければ鉄板ナポリタンの完成だ!
「出来上がりました!」
「「「わーい!!」」」
「「とっても美味しいそう!」」
エルダはもちろん、最初はパスタに不安を示していた双子ちゃんも尻尾をピンと立てて喜んでくれている。お母さんズも、初めての料理に興味津々といった感じだ。
「こっちの白い方は、カルボナーラって言います。味付けのソースには、卵や生クリーム、それからチーズなどを使ってます。そして赤い方は、ナポリタンです。トマトを使ったケチャップと言う、私の故郷の調味料をメインに使ってます。これは、鉄板は熱いので手で触らないでください。ルナちゃんも、ソルちゃんも火傷に気をつけて食べてね?」
私の説明を聞き、それぞれが自分の好みに近い方に手を伸ばす。私はその様子を見守りながら、トンコの分を皿に取り分けて渡してあげる。
「はい、トンコのはこれね。鉄板は火傷しちゃうから、トンコはナポリタンもお皿で食べようね。」
「うん、なのです。ありがとう、です!」
嬉しそうに私の手をペロっと舐めたあとに、早速はぐはぐと食べ始めている。
「タツキ、あのね。このナポリタンっていうのね。とってもおいしいの、です!」
「うん、これ本当に美味しいよ! なんだか甘くって色んな味がして、ルナこんなに美味しいもの生まれて初めて食べたよ!!」
「…ルナの言う通りだ。私もこんなに美味しいもの生まれて初めてだ……。甘味とトマトの濃厚な旨味。そして、ほのかな酸味と全体を優しく包む卵が更に食欲を誘っていくらでも食べられてしまう! 貧民の命がこんなに美味しいだなんて信じられないよ!!」
ルナちゃんとミランお母さんはナポリタンを先に食べたらしい。この世界で初めて作ったナポリタンは非常に好評のようだ。何を隠そうナポリタンが大好物な私が、日本にいる時に色々と研究を重ねた自信作だからね。喜んでもらえて私も嬉しい。
「…こっちのカルボナーラも、とっても美味しい。よくわからないけど、とっても幸せな味がするよ。多分、世界一美味しい食べ物はカルボナーラだと思う。」
「本当に美味しいわねぇ! ソルちゃんの言う通り、きっとこれより美味しいものはないんじゃないかしら…。卵と生クリームとチーズの濃厚でほんのり甘い味付けがたまらないわ! そして黒胡椒がピリっと味を引き締めてくれて、これもいくらでも食べられちゃう!!」
カルボナーラから食べ始めた、ソルちゃんとインテお母さんも私の料理を絶賛してくれる。美味しいって言葉にしてくれるのも嬉しいけど、幸せそうな顔で夢中で食べてくれるのもとても嬉しいんだよね。
「だから言ったでしょ! タツキは貧民の命だって、こんなに美味しくしちゃうんだから!! まるで魔法使いだよ。それに、上級貴族のロレーナさんや王女様のステファニア様達だって、タツキのお料理より美味しいものなんか食べたことないって言ってるんだからねっ!!」
胸を反らし腰に手を当て、最高の笑顔で自慢をするエルダ。ここまで褒められて恥ずかしいのだが、エルダの嬉しそうな様子を見ているとどうでもよくなって、思わず笑ってしまう。
「あはははっ! エルダったら、顔にケチャップを沢山つけながら自慢してー。もう、本当におかしいっ!!」
「「「「「あはははっ!!!!」」」」」




