Episode16-4
「タツキは、お料理がとっても上手なんだよ! エルダ、タツキのお料理が大好きなんだぁ!!」
「それは、楽しみねぇ。」
「ああ。お客さんに料理を作らせて申し訳ないけど、私もぜひ食べてみたいな。」
エルダが、目を輝かせて私の料理をべた褒めしてくれる。それを受けて、お母さんズも尻尾をフリフリさせて楽しみにしてくれている。
「でも、貧民の命を食べるんでしょ? ルナあれはあんまり好きじゃないなぁ。」
「…ソルも。ソルもあれは、あんまり好きじゃないかも。」
やはり、貧民の命ことパスタはこの世界では不人気な食べ物らしい。それに、この家族にとっては昔の辛かった時期を思い出してしまう食べ物みたいだしね。
…これは、パスタ以外にも何か双子ちゃんが喜ぶものが必要かなぁ。
「だけど、非常食用に常備していたパスタもそろそろ消費しなきゃいけなかったから、タツキちゃんが故郷のお料理を作ってくれるなら正直助かるわ。」
「そうだね。いくら保存が効くと言っても定期的に新しいものに入れ替えなければ、ダメになってしまうものね。」
夕飯時の少し前、この世界の家庭料理を楽しみにしていた私に、エルダが料理を作って欲しいと言い出した。なんでも、家族に美味しいご飯を食べさせてあげたいから、と言う理由らしい。そんなことを言われてしまえば、私に断ることなど出来るはずもない。何より、家族思いで優しいエルダに協力してあげたくなったのだ。
それでエルダに夕飯のリクエストを聞いたところ、予想外の答えが返ってきた。てっきり、少し豪華にお肉系の料理やこの世界では珍しい揚げ物系のリクエストがあると思っていたのだ。しかし、エルダがリクエストしてきたのはパスタだった。エルダ曰く、自分と同じくパスタに苦手意識のある家族に美味しいパスタを食べて貰い、過去の辛かった思い出を少しでも和らげてあげたいからだってさ。
…もう、エルダがいい子過ぎて思わず抱きしめてあげたくなっちゃうよ。
「ふっふっふ、ルナもソルもそんなに心配しなくても大丈夫だよ。お姉ちゃんを信じて! タツキのお料理はお貴族様もびっくりするくらい美味しいんだからっ!!」
「ボクもタツキのリョウリは大好きなんだよ、です! パスタもとってもおいしいの、です!!」
「わかった! ルナもなんだか楽しみになってきたよ!!」
「…ソルも楽しみ。エルダお姉ちゃんとトンコ様がそこまで言うなら、きっと美味しい。」
私の料理がエルダの家族のお口に合うかはわからないけど、そうまで言われてしまえば出来る限りの力を尽くしたいとは思う。私は、魔法鞄をゴソゴソと漁って中身を確かめる。
…とりあえず、エルダが一番気に入っていたカルボナーラは確定として、もう一種類作りたいな。えっと、子供達に人気なパスタと言えばやっぱりアレだよね。あとは、デザートにプリンも出してあげよう。これは、万が一パスタが不評だった場合の保険だ。プリンが嫌いな子供はあんまりいないからね。
「タツキちゃん、魔法鞄を持っているの?」
「はい。この国に来た時に支給品として貰ったんですけど、本当に便利ですよね。これ。たくさん物を入れられるのに重くもないし、時間を止められるから食べ物を入れても冷めないし傷まないし。」
「そうなのね。そんな高級品は上位のお貴族様しか持っていないから、私には分からないけど…。確かに便利そうだわ。だけど、タツキちゃん。あまり、外で堂々と使うと危ないかもしれないから気をつけてね?」
「…えっ!? これってそんなに高級な物だったんですか?」
…魔法が当たり前にある世界だから、魔法鞄も皆んなが当たり前に持ってるものだと思ってたよ。だって、何の説明もなく普通に貰えたんだもん。
「そうだよ。ロレーナさんのお家は上級貴族だけど、ロレーナさんでも個人では持ってなくて家族共用の物しかないって言ってた。だけど、大丈夫だよ。タツキの事はトンコ様が守ってくれるしね!」
「うん、です! ボクがいるからタツキはだいじょうぶだぞ、です。」
「…大丈夫、なのかなぁ。トンコが守ってくれるのは嬉しいけど、問題はそこじゃない気が…。そんなに高級品だったなんて知らなかったよ……。」
そんな会話をしながらも手はしっかりと動かしていく。玉ねぎとマッシュルームを薄切りにして、ピーマンは細切りにしておく。ソーセージも食べやすい大きさに切っておこう。
「それじゃあエルダは、いつも通りパスタを少し硬めに茹でておいてね。」
「了解! 任せておいて!!」
エルダには、パスタをお願いし私はソース作りに専念する。まずはケチャップとウスターソースに牛乳。それから、砂糖や塩・胡椒も同じボウルに入れて混ぜ合わせていく。そう。今回作るのはナポリタンだ。お子様ランチなどにもよく入っているし、子供達には人気の一品だよね。
「カルボナーラは分かるけど、そのケチャップのソースは初めて見るね。なんて名前のパスタになるの?」
「これはナポリタンって言うパスタになるんだよ。私の国では、子供から大人まで皆んなに愛されているパスタなんだ。」
そう。ナポリタンは、何も子供達だけに人気がある訳ではない。喫茶店の懐かしナポリタンは大人にだって大人気なのだ。