Episode16-2
「それで、エルダのお家はどの辺りにあるの?」
「私のお家は、六之壁の近くだからまだまだ先だよ。」
今潜り抜けたお城の城壁が零之壁である。この都市は、城壁の内側に人々が住む街がある城郭都市だ。建国の際には、城を囲む零之壁とその外側で街を囲む一之壁しかなかったらしい。それが、国が栄え豊かになるにつれどんどん人口が増えて街の外に溢れてしまった。そのため、それらを囲むようにニノ壁を増設したらしい。
その後、人口が増加するのに合わせて城壁は増えていき、今では七之壁まであるという。つまりニステルローイ王国の王都アイマールは、それだけ人口が多い大陸有数の大都市なのだ。因みに、城壁は定番の丸や四角ではなく、上から見ると五角形のお星様型になっているらしい。詳しくは知らないが、外敵から防衛するのに適した形なんだろうな。元の世界でも、日本の五稜郭やアメリカの国防総省ペンタゴンがそうだったよね。
「昔は違ったらしいけど、今は一之壁の内側は主にお貴族様が住んでるんだよ。二之壁の内側は、平民の中でも豪商だったり特にお金持ちな人達。三之壁は、人も住んでるけど高級品を扱うお店とかが沢山あるのが特色かな。お貴族様やお金持ちの人達、観光客なんかはあそこで買い物するみたい。そして四之壁から外側は、私達みたいな一般の平民が住んでるの。」
「へー。各城壁毎に特色があるんだね。」
「うん。今日は観光しながら帰るから、三之壁で少しお店を見ていこうか?」
「うーん。それはまた今度にしよう。今日はエルダが普段行ってるような所に行きたいなぁ。」
「そう? じゃあそうしよう!」
拳を高く上げるエルダ。観光もしてみたいけど、今日はエルダの里帰りに同行させて貰う訳だし、早目にお家に返してあげたいからね。
「ただいまー!!」
私達は王都観光もそこそこに、エルダのお家に帰ってきた。五之壁にあった平民街では最も大きい市場は、活気と品物に溢れるとても賑やかな場所だった。面白そうな食材や雑貨も沢山あったし、今度は是非ゆっくりと時間をかけて回りたいものだ。
「おかえりなさい。」
「「エルダお姉ちゃん、おかえり!!」」
おっとりと優しい雰囲気の可愛らしいお母さん。それから、七歳くらいだろうか。双子の可愛らしい女の子が玄関まで出迎えてくれる。二人ともエルダそっくりで、まさにミニエルダと言った感じだ。
「あら、そちらの方はエルダちゃんのお友達かしら?」
頬に手を当て、お母さんがエルダに尋ねている。双子ちゃんは私に気がつくと、恥ずかしそうにエルダの後ろに隠れこちらの様子を伺っている。
「うん。私の大切な友達で、ご主人様のタツキだよ!」
「はじめまして。タツキ・コテガワと申します。本日は突然お邪魔して申し訳ございません。」
エルダが大切な友達と言ってくれたのが本当に嬉しくて、緊張で強張っていた顔が自然と綻ぶ。そのおかげか、日本では無愛想と呼ばれた私でも笑顔で挨拶をすることが出来た。
「ごっご主人様!? ラストネームまで持たれているようだし、まっまさかエルダちゃん、あなた、お貴族様をお家に連れてきたの!!」
…そうだった。この世界では基本的に貴族以外は苗字を持っていない事をすっかり忘れていた。どうやら、あらぬ誤解を与えてしまったらしい。お母さんの顔が真っ青になり、双子ちゃんはお母さんの様子に感化され、怯えてエルダにしがみつき何か恐ろしいものを見る様な目でこちらを見ている。
「ちっ、違います! 私はただの一般人です。貴族じゃありませんよっ!」
「うん! タツキはね、私のご主人様だけどお貴族様じゃないよ。うーん、だけど国の賓客だし、もしかしてお貴族様より偉いのかなぁ?」
エルダの要領を得ない説明に、安心するどころかますます青ざめてしまうお母さん。
…それじゃあ余計に誤解を与えちゃうだけだよ。
「ただいま。みんな玄関先でなにを騒いでいるんだい?」
その声に振り返ると、そこにはクール系美人が立っていた。場がますます混迷を極めようとした矢先に、もう一人のお母さんが帰ってきたようだ。…ところで、女の子同士で結婚が可能なこの国では、二人ともお母さんでいいのだろうか。それともどちらかがお父さん?
「おかえり、ミランお母さん!」
「ただいま、エルダ。元気だったかい?」
「うん! タツキのおかげでとっても元気だよ!!」
「それは良かった。タツキさんは、エルダのお友達かな? こんな所で立ち話もなんだし、狭い家だけどどうぞ中へ。」
ミランお母さんはそう言うと、混乱から立ち直っていないもう一人のお母さんの腰に手を当て家の中に入っていく。エルダが双子ちゃんの手を引きそれに続くので、とりあえず私もお邪魔することにしよう。




