Episode15-3
「予想はしていましたが、やはり一度も失敗しないのですね…。タツキの錬成魔法は何度も見ても驚かされますね。」
「そうですか? 私としては、調味料や化粧品なんかより怪我や状態異常を治せるポーションを作れる方がよっぽど凄いと思いますけど…。私は、たまたま誰もやってない事をやってるだけですし。」
「その発想や知識も含めて凄いのですよ。それに、それらを成功させる柔軟な想像力と錬成のセンスもですね。」
そんな会話をしていると、薬師団の女性団員達がもう我慢出来ないと言った風に話しかけてくる。
「あっあの、タツキさん! 成功した化粧品のテストも必要ですよね!? 私で良ければぜひ試してみてくださいっ!!」
「ちょっと! ズルイわよ!! 私達だって試したいんだからっ!!」
期待に満ちた目で一人が立候補すると、我も我もと大勢が集まってきて、あっという間に取り囲まれてしまった。その勢いにどうしていいか分からず固まっていると、アドリアーナ様が助け船を出してくれる。
「いい加減にしなさい! タツキが困っているではありませんか。全く…未知の化粧品などに好奇心を抑えられない気持ちは十分に理解できますが、タツキは貴方達のためにこれらを作っているのではありませんよ。」
「「「「「…申し訳ありませんでした。」」」」」
普段は優しいアドリアーナ様にお説教されて、しょんぼりしている薬師のお姉さん達が可哀想になってきたなぁ。きっとこの人達も、場所や材料の提供のために署名をしてくれたんだよね…。うーん。
「あのう、一応肌に使うものなので、いきなり皆さんにテストしてもらうのはちょっと…。鑑定の結果も問題ありませんし大丈夫だとは思うんですが、万が一と言うこともありますしね。肌が荒れたり痛みが出る可能性もあるので……。」
「そうですよねっ。申し訳ありませんでした。タツキさんの錬成の腕と発想は、ここにいる皆んなの憧れなんです。それで私達、異世界の化粧品と聞いたらどうしても我慢出来なくなってしまって…。」
「あっ憧れだなんて、そんな…。私なんか好き勝手にやらせて頂いてるだけで…。」
「タツキ、私からも謝らせて下さい。団員達がご迷惑をおかけしました。」
「いえ、気にしないでください。それで、私が一週間ほど試して問題なければ、皆さんにも少しお配りすると言う事でどうでしょうか?」
私の提案に、先程までしょんぼり申し訳なさそうにしていたお姉さん達が目をギランと輝かせる。女性陣の輪の外で成り行きを見守っている男性団員達も同様だ。恐らく奥様や彼女にでもプレゼントしたいのだろう。
「しかしそれは…。タツキの提案は有り難いのですが、我々薬師団だけが優遇される訳にもいきません。」
「だからなんです。」
「えっ?」
アドリアーナ様をはじめ、薬師団の皆さんが一斉に首を傾げる。
「私のために署名をしてくれた皆さんにも配りたいのですが、流石に数が多すぎるでしょう?」
「はい。かなりの数になってしまいます。タツキの負担や材料費を考えると、簡単に賛成は出来ませんし、恐らく許可も降りないでしょう。」
「ですから、薬師の皆さんに現物を使って貰えれば、錬成のイメージがしやすくなって作れるようになるんじゃないかなと。もちろん材料費の問題もありますから、欲しい方には持参していただくかお金を払って貰う形で検討するのはどうですか?」
少し俯き加減になって考え込むアドリアーナ様。そのアドリアーナ様を団員達が固唾を飲んで見守っている。
「…なるほど。それならば、可能かもしれませんね。薬師にとってもポーション以外の錬成に挑戦するのは腕を上げる良い機会になりそうです。しかし、やはり問題もあります。」
「問題、ですか?」
私の疑問に、仕方なさそうな苦笑いを浮かべるアドリアーナ様。
「レシピ、ですよ。タツキの化粧品などはこの世界に存在しないものです。もしも、タツキが市井でそれらを売れば貴族や豪商達がこぞって押し寄せ、簡単に一財産を築けるでしょう。あなたは、そんな貴重なレシピを無償で我々に提供すると言うのですか?」
「はい。特に問題ありませんよ?」
そもそも、私の生活は王国で全て面倒を見てくれているので何も困っていない。むしろ貰い過ぎているくらいなのだから、憂なく渼音の傍にいるためにお返し出来る物があるなら返したいくらいなのだ。それにもしここを追い出されても、その気になれば他の化粧品だって作って売ることもできる。仮に同じ物を売ったとしても、きっと回復薬同様に私の作った物の方が効果が高いだろうから、生きていくのに困ることもないだろう。
「…全くあなたと言う人は。回復薬作りだけでも、我々は十分にあなたの恩恵を受けていると言うのに……。」
「それはお互い様ですよ。王国で保護をして頂いているから、私は渼音の傍にいることが出来るんです。それが私にとって何よりも重要なことなんです。」
「分かりました。では、今回はお言葉に甘えましょう。その方向で、国王と王母様に話しをしてみます。」
その言葉に「わあ‼︎」と歓声があがる。皆んなの嬉しいそうな顔を見ていると自分がこの薬師団の仲間になれた気がして、なんだか少しだけ誇らしい。
「……ただ、これは私からの個人的な忠告ですが、タツキはあまり簡単に人を信用し過ぎてはいけませんよ。自分を安売りし過ぎてもいけません。あなたは、自分で思っているよりもずっと凄い人間なのですから。残念なことですが、この国にも悪い貴族や商人はいますからね…。いつか危険な目に遭わないためにも。」
アドリアーナ様の、その真剣な表情からは本気で私と言う個人を心配してくれる感情が伝わってくる。
「はい。ご忠告ありがとうございます。ちゃんと気をつけます。」
それがとても、とても嬉しくて私は素直にお礼を言うのであった。