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Episode15-2

 「と言う訳でして…今日も作業場をお借りしてしまって申し訳ありません。」

 

 私はアドリアーナ様に頭を下げて、お詫びをする。


 「いいえ、タツキは気にしなでください。私も女性ですからね。異世界の洗髪料などのパーソナルケア用品や、基礎化粧品などのスキンケア用品にはとても興味があります。」


 今日も今日とて、知的で美しいお顔で優しげに微笑み私のわがままを受け入れいてくれるアドリアーナ様。「それにほら」と分厚い紙束を取り出すと、机に上にどんと置く。


 「それは何ですか?」

 「侍女達から届いた嘆願書と署名の束ですね。」

 「へ? 嘆願書と署名…ですか……。」

 「ええ。ミオンさんとタツキが住んでいる月の宮からはもちろんですが、噂を聞きつけた王宮や他の宮の侍女達の名前までこんなに。」


 苦笑いをしながら、紙束をペラペラと捲るアドリアーナ様。私も紙束を受け取り、少し捲ってみるとそこにまさかの名前を見つけて、そっと閉じる。


 「…あのう、アドリアーナ様? 私の気のせいだと思うんですけど…、えっと、ジュリアマリア・ニステルローイって署名が見えたような気が……。」

 「…非常に残念ながら気のせいではありませんね。私の方にも、“薬師団の全力をもってタツキちゃんのサポートをするように”とのお達しが来ております。」


 そう言って、遠い目をするアドリアーナ様。なんだか私のひょんな思いつきからとてつもない面倒を掛けているようで、いたたまれなくなってきちゃったよ…。なんで王国の王母様にまで、私が化粧品を作るなんて言う話しが広まってるのさ!? 


 そもそも、私が化粧品などを作ろうと思ったのは渼音の肌荒れや髪の痛みが気になっていたからで、作ろうかなと口に出したのもほんの二日前の出来事だ。それさえ、渼音やエルダ達以外の前では話していない。…それなのに、なんでこんなにも大量の署名が集まっているんだよ!?


 そう言えば、自室を出る前にいってらっしゃいと言っていたエルダとロレーナさんのは、嬉しそうながらもなんだか申し訳なさそうな顔をしていたね。噂が広がって大袈裟な事態になっているのは、あの二人が犯人だからに違いない。


 「タツキが薬師団で調味料を作ったことや、タツキの料理がとてつもなく美味しいという話しは、今や王宮中で最も熱い噂話となっていますからね…。流石にタツキが作る回復薬の効能については、一部の者以外には伏せていますが…。そのタツキが今度は、女性なら誰もが使用するスキンケア用品を作ろうとしているのです。不本意かもしれませんが、注目が集まって当然と言えば当然でしょうね。」

 「王宮中の噂って…!?」


 …ちょっと待って! いつの間にかそんなことになっちゃってるの!?


 「……今日の朝も大変でした。タツキが錬成するのにどうしても立ち会いたいと仰るコルネーリア様と、大切なお茶会があって自分も立ち会えないのだからコルネーリア様も諦めろと仰るジュリアマリア様との間に挟まれ…。最終的に、ステファニア様が間に入って下さいましたが……。」

 「重ね重ね申し訳ありませんっ!!」


 どうりでいつもいるコルネーリア様が今日はいないと思ったよ。どうやらジュリアマリア様にお茶会へ強制連行されているらしい。可愛らしく頬を膨らませているコルネーリア様の顔を思い浮かべて、ほっこりとした気持ちになる。


 「タツキのせいではありませんよ。それに、この嘆願書や署名は、侍女達が自分達にも完成した化粧品を寄越せと言っている訳ではないので、重荷に感じないでください。もちろん多少は期待もあるのでしょうが、彼女らは純粋にタツキを応援したいのだと思いますよ。未知への好奇心が大きいのでしょう。それは、ジュリアマリア様やコルネーリア様も同じです。」

 「そうなんですか…。皆さんの優しさが有り難いですね。それにアドリアーナ様の優しさも。」


 私の呟きに応えるように、アドリアーナ様が優しく頭を撫でてくれる。なんだか不思議と懐かしいような、くすぐったいような、そんな感じがして心がじんわりと温かい。


 「それでは、早速作りたいと思います!」


 照れ隠しをするように、宣言すると私は魔法鞄から材料を次々と取り出していく。


 「凄い量と種類の材料ですね。」

 「はい。今日は、色んな種類の物を作ろうと思って。髪を綺麗に洗うためのシャンプーと、髪のパサつきや痛みを抑え保湿や艶を出すコンディショナー。手荒れや乾燥を防止して、手の潤いを保つハンドクリーム。それから、顔の保湿と美白ケアやシワの防止、化粧の下地機能も持つオールインワンジェル。最後に、唇の乾燥を防ぎ荒れやカサつきをケアするリップクリーム。全部で五種類になりますね。」

 「…五種類ですか。タツキの世界では、本当に色々なスキンケア用品やパーソナルケア用品があるのですね。我々の国にも似たような物はありますが、顔と手、それから唇といったように部位で使用する物が違うとは……。食事もそうですが、美に関しても拘りが強い世界なのですね。本当に驚きます。」

 「うーん。あまり気にしたことはありませんでしたけど、言われてみるとそうなのかもしれませんね。今回作ろうとしている物は、本当に基本的なものだけですし、スキンケア用品やパーソナルケア用品と言う括りで言えば恐らく数えきれないくらいの種類があると思います。後はそうですね…。私達の世界の中でも、渼音と私のいた国は最も平和で豊かな国の一つなんです。そのせいもあるのか、食事や美容に関しては特に拘りのある国民性だと言われていますね。」

 「…なるほど。タツキ達の世界でも最も平和で豊かな国の一つですか……。」


 そう言うと難しい顔で考え込んでしまうアドリアーナ様。その横顔からは、悔恨の雰囲気が滲み出ている。恐らくニステルローイ王国と日本を比べて、申し訳ないと思ってくれているのだろう。だけど、もう十二分に謝罪は受けたしこの国で最大限の尊重をして貰ってもいる。


 「では、早速シャンプーから作りましょう!!」


 なんとなくアドリアーナ様にもう謝罪はして欲しくなくて、私は大袈裟に声を張り上げるのだった。


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