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Episode14-5

 「お待たせしました。いただきましょうか。」

 「うん! いただきます!!」

 「ボクも、もうまちきれないの、です!!」


 ステファニア様は気にするなと言ってくれたけど、一応毒味代わりに先に一口食べる。うん。味付けはいつも家で作っていた通りでも、良いお肉を使うとやっぱり違うなぁ。普段作っていたものより、ずっと美味しく出来てるよ。


 「タツキ、おいしい、のです! やいたり、あじをつけたりすると、エモノをそのままたべるよりずっとおいしい、です!!」

 「うん、本当に美味しい。龍貴ちゃんの手料理がいつも食べられる私は、幸せものだよ!」

 「気に入って貰えて嬉しいよ。二人ともありがとう。」


 私は料理が好きだけど毎日のことだと、やっぱり大変な時もある。それでもこうして作るのは、きっと美味しいって喜んでくれる渼音や皆んなの笑顔が見たいからなのかもしれないな。そんな事を考えていると、ステファニア様がカトラリーを手に取り上品な仕草でポークチャップを切り分けている所が目に入る。


 「それでは私もいただくとしようか。…驚いたな……。王族でも食べた事がない、と言うロレーナ達やコルネーリアの報告は本当だったのか…。」


 目を見張り、そう感想を溢すステファニア様。決して大袈裟に騒いだりはしないけど、口に運ぶペースが早いことから味には満足して貰えてる事がわかる。


 「旨味が強いダークポルコの肉に負けない、甘味とやさしくほんのりとした酸味。それだけではなく、薬草…タツキの国では香辛料か。その香辛料や様々な野菜の旨味が、主張はせずとも味に深みをもたらしている。タツキが作った調味料を複数合わせているためだろうか。それら全体が調和し、完璧な一皿を生み出している。見事と言う他ない。これは、なんとも素晴らしい…。」

 「ありがとうございます。お気に召したようで、良かったです。」

 「ああ。月並みな言葉だが、とても美味しいよ。タツキ、こちらこそありがとう。」


 威風堂々としていて、凛とした姫騎士様が見せた柔らかな笑顔。そのギャップに思わずドキッとしてしまう。


 「ふふっ、これで今度は私がコルネーリアに自慢をしてやれそうだ。…そうだ! タツキ、美味しい料理のお礼に、あーんとやらをしてやろう。」

 「…へ?」

 「なに、遠慮することはない。」


 そう言ってお肉を一口サイズに切り分けているステファニア様。…なんでそうなるの!? コルネーリア様もそうだけど、そもそも王族がやるようなことじゃないでしょ!!


 「ステファニアさん、待ってください! あーんって言うのは王族が気軽にすることじゃありません!!」

 「何を言っているんだ、渼音。コルネーリアからは、親愛の表現と聞いている。それをするのに王族かどうかなど関係ないだろう。事実、私は龍貴を気に入っているし、今日一緒に過ごしてみて更にその気持ちが強くなったのだ。」

 「なっなっなっ……。」


 渼音の静止の声に、ステファニア様がさも当然という顔で反論を返す。予想外の反論に、渼音は口をぱくぱく開くが言葉を失っている。


 「ステファニア様、かっ、からかわないでください…。」

 「からかってなどいないさ。私は、タツキのことを好ましく思っているよ。料理の腕前や謙虚な性格。そして、中性的なこの美貌もね。特に、涼やかな目元や可憐な唇が美しい。」


 そう言って、そっと私の頬をそっと撫でてくる。淡褐色の瞳にじっと見つめられると、抵抗するどころかなぜか目を逸らす事さえできない。きっと今、私の顔は真っ赤になってるに違いない。だって、うっ、美しいなんて生まれて初めて言われたんだもん。頭がぽうっとしてくる。


 そりゃあ、渼音は優しいから、こんな私にも可愛いとか綺麗とか普段からよく言ってくれるけど…。基本的に私は昔から、男子におとこおんなだの何だの言われて生きてきたのだ。渼音以外の女子からだって格好良いと言われてからかわれる事はあっても、可愛いだとかは言われた事がない。そっそれが、こんなに綺麗な姫騎士様に、そんな事を言われてしまうと…。


 「と言う訳で、タツキ? ほら、あーんだ。」

 「……あーん。」


 キャパオーバーな褒め言葉の数々に、正常な思考能力を失った私はおずおずと口を開けてしまう。


 …うー。恥ずかしいよぅ。


 あーんをすることはあっても、物心ついてからはしてもらったことなどない。

 

 「まっまっまっ、待って、龍貴ちゃん!!早まらないでぇー!!!」


 ぱくっ。渼音の悲鳴のような静止に我に帰るも一瞬遅かった……。満足そうなに微笑むステファニア様のお顔が眩しすぎてまともに見ることすら出来ない。


 「美味しかったかい、タツキ?」

 「……はぃ。」


 蚊の鳴くような小さな声しか出せない私に、渼音の冷たい目線が突き刺さる。


 「ふぅーん。……ステファニア様から、あーんして貰ったお肉はそんなに美味しかったんだ。へぇー。……良かったね? 龍貴ちゃん……。」

 「みっ渼音? 違うの! これは、その。あのっ。あーん、なんてして貰ったの初めてでっ。その…」


 絶対零度の微笑みで、私を見つめる渼音。その後方では、渼音と同じ笑顔で私を見ているエルダと眉間に手を当て溜め息を吐いているロレーナさん。


 「…ふぅーん。龍貴ちゃんの初めてのあーんは、ステファニア様なんだぁ……。へぇー。」

 「ふふっ、それは光栄だな。」

 「……ステファニアさんも、ちょっと悪戯が過ぎるんじゃないかなぁ。…かな。」

 「悪戯だなんてとんでもない。私はいつだって本気さ。」


 みっ魅音がなぜか怒ってるよぅ。それに、渼音の冷笑を一蹴し平然としているステファニア様も恐ろしい…。渼音とステファニア様の間には、昔京都のお土産屋さんで見た龍虎相搏の掛け軸のように、龍と虎がお互いに睨みを効かせ対峙している光景が浮かんでいる。ってこれ、この間見たのと同じだよっ! 違うのは、あの時は渼音とコルネーリア様の迫力に怯えていたエルダが、今は渼音と同じく怒りのオーラを纏っている事ぐらいだ…。


 「待って、渼音!」

 「龍貴ちゃんは、黙ってて? 私は今ステファニア様とお話しをしているの。」

 「そうだよ。タツキは黙ってて。ミオンさんは今、ステファニア様と大事なお話しをしてるんだよ。」

 「……はい。」


 渼音と、そしてなぜかエルダにも怒られた私は大人しく口を噤む。緊迫した空気が支配する部屋の中で、ロレーナさんがもう一度大きく溜め息を吐いて助け舟を出してくれる。


 「はぁ…。ステファニア様、お気持ちはわかりますが少しお戯れが過ぎますよ。そして、タツキ。まだ食事の途中です。お腹が空いているのではありませんか? ミオンさんのお肉はタツキの皿のものより美味しそうですよ。」

 「はい? えーとっ…。あっ!? ほっ本当だ! 私、渼音のお肉が食べたいなぁ。渼音があーんしてくれたら、もっと美味しいと思うんだけどなぁ。」

 「…もうっ。龍貴ちゃんったら! それは少しわざとらし過ぎるんじゃないのかな。かなっ。」

 

 ロレーナさんの言葉で、場の空気が流れ出す。


 …ロレーナさん、ありがとう! 格好良すぎます! 惚れちゃいそうです!!


 感謝を視線で伝える。どうやら、私の気持ちは言葉はなくても正確に伝わったようだ。なぜか、これ以上話しをややこしくするのは勘弁してくれと言った視線が返って来たけどね。それはさておき、わざとらしいと言われてしまえば否定する事は出来ない。でも、ロレーナさんがくれたチャンスを見逃す訳にはいかないのだ。


 「渼音は私にあーんするのは、嫌、かな…。」

 「もうっ、龍貴ちゃんのバカ! それは狡いよ!! 私は怒ってるんだからねっ!? 許してあげるのは、今回だけなんだからねっ!!」


 渼音やコルネーリア様を参考に、あざと可愛く上目遣いでおねだりしてみたが、なんとか成功してくれたようだ。死ぬほど恥ずかしかったよ…。私がやってもあざといだけで、可愛くないのは重々承知しているが、背に腹は変えられない。穴があったら今すぐ入りたいけどね…。


 「それじゃあ、龍貴ちゃん。あーん。」

 「あーん。」

 「ふふっ、龍貴ちゃんったら仕方ないんだから。でも、そんな龍貴ちゃんも大好きだよ。」


 どうやら、渼音のご機嫌は復活してくれたようだ。それにしても、美少女からあーんしてもらうのは心臓に悪いよ。渼音の顔を見ていると胸がドキドキしてしまう。


 「…タツキ。後で、エルダもあーんするからね。もちろん、食べてくれるよね?」

 「えっ…。う、うん、そうだね…。エっエルダにも、お願いするね。」

 

 そうだった。恥ずかし過ぎるおねだりと渼音のあーんの破壊力で、すっかりエルダの事が頭から抜けていた。


 「エルダも許してあげるけど、今回だけなんだからっ!」


 そう言って、ぷいっと横を向いてしまうエルダ。まだ顔はご機嫌斜めな感じだけど、尻尾が嬉しいそうにフリフリ揺れているからよかったよ…。そんなやりとりを、渼音は面白くなさそうに頬をぷくっと膨らませ見ているが、ステファニア様の時とは違い口は挟まない。どうやら黙認してくれるらしい。

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