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Episode13-3

 胸に飛び込まれて抱きつかれながら、小さな手でバシバシと叩かれ抗議される。正直、コルネーリア様が何を言っているのか分からないけれど、ここは素直に謝っておくのが吉だろう。


 「くすくす。お二人はとっても仲良しなのですね。」

 「ええ! もちろんよ!!」


 そう言ったアドリアーナ様に、えへんと胸を張るコルネーリア様。そろそろ離れてくれませんかね。アドリアーナ様も笑ってないで助けてくださいよ…。


 「最後は、ソースを作りましょう。」

 「ウスターソース?」

 「はい。様々な料理の味付けに使える、とっても便利な調味料です。揚げ物などにもよく合うんですよ。」

 「揚げ物!? わたくし知っているわ! ロレーナやエルダが食べたと言う油で煮る幻の料理でしょう?」

 「私の所にも情報は入って来ていますよ。クリームコロッケと言いましたか…。何でもとても美味な料理だとか。」

 「幻の料理って…。確かに揚げ物は美味しいですけど、そんなに大袈裟なものではありませんよ。私が作れるのは、庶民的なただの家庭料理ですし…。」


 一体あの二人は王族やこの国幹部達に何を報告してるのやら…。噂が一人歩きして何やら大袈裟なことになってるんじゃないかと思うと少しゾッとする。


 「そんなことないわ! 上級貴族のロレーナでも口にした事がないほどの美味な料理で、絶対に王族でも食べた事がない美味しさって言っていたもの!!」

 「ええぇー。……まあ、それはひとまず置いておいてウスターソースに取り掛かりましょう。」


 今回はマヨネーズやケチャップより、必要な材料も沢山ある。玉ねぎやリンゴなどの野菜と果物。タイムやセージなどのスパイス類。全部で20種類程度の材料を手際よく、テーブルの上に並べていく。


 「必要な材料の数の多さをみただけで大変そうなのが分かりますね。」

 「ええ。手作りするのはちょっと大変なので、錬成で作れそうな事がわかってホッとしています。」


 鍋を掻き回しながらアドリアーナ様と会話していると、いつもの様にぽうっと光に包まれ完成した合図をしてくれる。


 「それでは毒味をお願いします。」


 私が今回ウスターソースの味見用に取り出したのは、オニオンフライ。パン粉付きのタイプである。そして、一口チキンカツだ。さっきの話じゃないけど、揚げ物にはウスターソースだよね。ソースの味見としては、ボリューミーだけど久しぶりのソースに我慢が出来なかったんだもん。


 「こっこれは!?まさか…揚げ物ですか?」

 「はい。丸い方はオニオンフライと言って、玉ねぎを輪切りにして油で揚げたものです。もう一つは、一口チキンカツです。こちらは鶏肉を揚げたものですね。魔法鞄に入れてたので、両方とも揚げたてですよ。熱いので火傷しないように気をつけてくださいね。」


 ゴクリ…と喉を鳴らすアドリアーナ様とコルネーリア様。そして、いつの間にか私達の周囲にいる薬師の方々。


 …えっ!? みんな、揚げ物に目が釘付けでちょっと怖いんだけど……。


 「えー。それでは味見、じゃなくて毒味してみましょう。」


 ごほんと咳払いをして、アドリアーナ様を毒味に誘う。この空気の中で一人で毒味をするのは何だか身の危険を感じるよ。


 「では私は、玉ねぎのフライかいただきましょうか。」


 ザクリと食欲をそそる音を立ててオニオンフライに齧り付くアドリアーナ様。


 「…あの? アドリアーナ様??」


 先程までの毒味と違い、ふるふると小刻みに身体を震わせて言葉を発しないアドリアーナ様の様子に周囲が困惑してざわめき始める。俯き、無言で震えていた彼女は突然顔を上げると今度は一口チキンカツに手を伸ばし、ソースを付けて口に方張る。しばらく目を閉じて咀嚼していたが、ゆっくりと喉を鳴らし飲み込むとうっとりと惚けたような表情で語り出す。


 「おっ美味し過ぎる…。美味しい過ぎます……。しかし、こんな食べ物の味を覚えてしまったら、今後の食事に支障が出てしまうのでは。……そう言った面では、これはある意味毒と呼べるのやもしれません。ここはひとつ、コルネーリア様には味見をお控え頂く事が御身のなのでは…。全て私が頂くのが、この国ためと…」

 「そんな訳でないでしょう!!あなた一体何を言っているの!?」

 「はっコルネーリア様…。申し訳ありません。私とした事が、ソースをかけた揚げ物のあまりの美味しさに少々冷静さを欠いていたようです。」


 …良かった。遠い所へトリップしていたアドリアーナ様を、コルネーリア様がこちらの世界へ引き戻してくれたようだ。素敵なお姉様の豹変ぶりに、声を掛けられなかったから助かったよ。


 「えーと、コルネーリア様。このウスターソースも先程のケチャップと同様に私の故郷で売っていた物と同じ味に作れました。ぜひ食べてみてください。」


 感謝の気持ちを込めて、揚げ物をフーフーして冷まし、あーんとお口に持っていく。


 「熱いので気をつけてください。綺麗なお口が火傷がしちゃったら悲しいですから。」

 「タッタツキ姉は、やっぱり狡いですわ!」

 

 なぜか顔を真っ赤にしたコルネーリア様がおずおずと口を開いて、パクリと一口チキンカツに齧り付く。


 「この揚げもの…。確かに美味し過ぎますわ! これがタツキ姉のお料理ですのね!! こんなに美味しいもの本当に我々王族でも食べた事はありません……。ザクリと小気味良く香ばしい衣と、鶏肉の肉汁溢れるジューシーな柔らかさ。酸味が強くスパイシーなソースがさっぱりとしていて口の中で調和します! ほのかに野菜や果物の旨味や甘味も感じる複雑な味わい…。信じられません!!!」


 ただの調味料の試食会が随分大袈裟なことになってしまった。


 …褒めてくれるのは嬉しいけど、なんだか身の置きどころがないよ!!


 周囲を取り巻いていた薬師の皆さんもジリジリとこちらに近づいて来ているし…。


 「あのう…。良かったら皆さんも召し上がりますか?」


 渼音やエルダ達用に揚げておいた予備のフライを取り出して皆んなにそう尋ねる。うおぅーと地鳴りのような歓声があがるのを聴きながら、私は現実逃避気味に思うのだった。


 …帰ったら渼音達の分はあげなおさなきゃなぁ。


 こうして、この世界初の錬成調味料作りは幕を閉じるのであった。

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