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Episode13-1

 今日も私は薬師団本部に来ていた。日課になってきている回復薬作りを終えると、薬師団長のアドリアーナ様を振り返る。


 「アドリアーナ様。それではお話ししていた通り、あちらの作業スペースと錬成鍋をお借りしてもよろしいですか?」

 「はい。問題ありませんよ。薬草や道具など必要な物があれば好きに使ってください。」

 「ありがとうございます。だけど、薬師団の設備を私用で使わせて貰ってなんだか申し訳ないです。」

 「気にしないでください。タツキは回復薬作りを手伝ってくれているではありませんか。」


 アドリアーナ様は、知的で綺麗な顔を綻ばせ優しく微笑んでくれる。


 「この国の賓客であるあなたには、本来何の義務もありません。それなのにタツキは、今日もこうして薬師団へ来て回復薬を作ってくれます。それは、あなたが思っているよりも大きな貢献をこの国へしてくれているということなのです。…あなたの回復薬で救われる命が一体どれだけあるのか。」

 

 国への貢献だなんて…。そんなに大袈裟なことをしてるつもりはないんだけどな。この回復薬作りだって、始めたきっかけは渼音とその護衛の人達を、少しでも命の危険から遠ざけるためだった。言ってしまえば、私情である。結果として私の作る回復薬に大きな効果がある事が分かり、誰かのために何かを出来る事が嬉しかったから続けているだけなのだ。


 「ありがとうございます。私はそんなに立派なものじゃないですけど、皆さんのお役に立ててるのなら嬉しいです。それでは遠慮なく使わせていただきます。」

 「ええ。それに私もタツキが何を作るのかに興味がありますしね。」

 「わたくしも興味がありますわ! タツキ姉は錬成スキルで何をするつもりなの!」


 それまでは大人しく口を噤んでいたコルネーリア様が、とうとう我慢出来なかったらしく大きな声で質問してくる。そう、前から思っていたがコルネーリア様はとても声が大きいのだ。日本にいた頃、昔の戦国武将など偉い人達は声が大きかったと言う説をテレビか何かで見た事がある。なんでも臣下や庶民と違い、声を顰めないといけない場面に遭遇する立場や生い立ちではないかららしい。本当かどうかは分からないが、生粋のお姫様であるコルネーリア様を見ていると妙に納得してしまう説だ。


 …だけど、薬師の皆んながこっちに注目しちゃうからもう少し小さな声で喋って欲しいなぁ。


 なぜなら私がこれからやる事は、多分この国の常識からは外れている事だからだ。私にだって一応それくらいの常識はある。本当はこっそりとやるつもりだったけど、これだけ目立ってしまっては難しいかもしれない。…言いたくないなぁ。せめてもの抵抗として、小さな声で二人に告げる。


 「あの。えっと。…調味料作りを…しようと思って……。」

 「はい? ……ちょうみ…りょう…づくり……ですか?」

 

 いつも知的な雰囲気を持っているアドリアーナ様とは思えない程、すこーんと感情が抜けた表情で尋ねてくる。いや、気持ちは分かるよ。そりゃあ驚いちゃうよね。魔法で、しかも何やら貴重らしい錬成スキルを使って、わざわざ調味料を作ろうとする人はこれまでいなかったに違いない。自分でも何を言ってんだって思うよ。


 だけど、聞いて欲しい。マヨネーズはともかく、ケチャップを作るのは大変だし、ソースを一から作るのはとてもとても大変なんだよ。それならいっそ、錬成鍋に材料を放り込んで魔力を流しちゃえば、あっという間に美味しい調味料が出来ると思わない?


 「はい…。私、料理を作るんですけど、私達の世界の調味料はこの国にはなくて…。でも、調味料を一から自分で作るのは大変なので……。」

 「そっ、そうでしたか。…いやはや、驚いてしまいましたがタツキの発想はとても面白いですね。錬成にそんな使い道があるとは考えもしませんでした。」

 「あははは!! さっすがタツキ姉ね!面白いわ!! ねえ、あたくしも見てて良いでしょう? 本当にそんな事が出来るのかとても興味深いもの!」


 どうやら、コルネーリア様だけではなくアドリアーナ様も錬成を使った調味料作りに興味があるらしく、一緒に着いてくる。先程は驚いていたようだが、薬師として研究者としての好奇心が勝ったのだろう。この国初めての試みに、ワクワクしているようだ。


 「それでは今日は、三種類の調味料を作ろうと思います。」

 「はーい! タツキ姉の世界のお菓子は美味しいから、調味料も楽しみよ!!」

 「まずは、一番簡単そうなマヨネーズから。これは手作りでも結構簡単に作れるんですけど、正直毎回手作りは面倒だし、錬成を使った調味料作りの練習にはちょうど良いかなと思いまして。」


 そう説明し、魔法鞄から卵を二つ取り出して錬成鍋に割り入れる。黄卵だけのレシピもあるけど、今回は全卵でいく。全卵は混ぜるのが大変らしいけど、錬成なら混ぜる手間はいらないからだ。そこに塩を小さじ1杯。サラダ油を1カップ。酢を大さじ2杯加えて、魔法杖で魔力を流しながら、混ぜていく。本当のレシピでは、サラダ油は少量ずつ加えなければ油分が分離してしまうそうだが、今回は多分そんな事しなくても大丈夫だろう。しばらく混ぜていると中身がもったりとしてきて、ぽうっと錬成鍋が光に包まれる。


 「…うん。成功みたいですね。」

 「……すごい。まさか、本当に錬成で調味料が作れるなんて…。」

 「凄い! 凄いわ、タツキ姉!! きっと世界初の快挙だわ!」


 アドリアーナ様とコルネーリア様が驚いてくれるけど、私に言わせればポーションなんて摩訶不思議な代物を作れるのだから、調味料ぐらいは作れても全然不思議じゃないと思う。…ただ作ろうと思う人がいなかっただけで。


 …世界初の快挙が、調味料作りなんて恥ずかしすぎるよ……。コルネーリア様! 皆んなに聞こえちゃうから叫ばないで!!


 「タツキ姉! 味見! 味見がしたいわ!!」

 「うーん…。味見ですか。コルネーリア様が味見となると毒味が必要ですけど、実は私マヨネーズってあまり好きじゃないんですよね。」

 「あら? 美味しくないものなの??」

 「いいえ。私の国ではとても人気のある調味料ですよ。渼音も好きですし。私のは好みの問題ですかね。」

 「それでは私が毒味代わり味見致しましょう。コルネーリア様、それでよろしいですか?」

 「ええ! お願いするわ!!」


 とは言っても、アドリアーナ様だって立派な上級貴族のはずだ。薬師団長という立場だってある。どこの馬の骨とも知れない、異世界の小娘が作った調味料を毒味させても良いのだろうか。


 「タツキ、大丈夫ですよ。私はあなたを信頼しています。それに、異世界の調味料も気になりますしね。」


 困惑している私に、嬉しい言葉をくれるアドリアーナ様。ちゃめっ気たっぷりのウインクまで付けてくれている。優しくて素敵なお姉さんだ

 みなさん、はじめまして。しっぽと申します。

 なんと先日ブックマーク数が10件を突破し、初めてリアクションも頂けました。このお話しは私の処女作になりますが、沢山の方に読んで頂きとても喜んでおります。PVやユニーク、ブックマーク数なども励みになっております。誤字脱字報告をして下さる方にも感謝しております。

 この場をお借りして、全ての読者様に感謝を。


 今回のEpisode13は1〜3までの予定です。お時間ありましたら、ご一読頂けると嬉しいです。

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