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Episode11-3

 もちろん、エルダともう一人の侍女さんの分は後で食べられるように取り分けている。そんなエルダに気を取られていると、いつの間にか対面に座っていたはずのコルネーリア様が私の隣に移動していた。


 「ところでタツキ姉。このジャムの部分が丸ではない変わった形のクッキーは何?」

 「あぁ。これはハートと言う形で、私達の世界ではポピュラーな形なんです。人の心をイメージした形なんですけど、可愛いから女の子に人気があるんですよ。説明は難しいんですけど、なんと言うか、好きって気持ちを形にした記号と言いますか…」

 「好きを記号化した形…。素晴らしいわね!タツキ姉の世界は面白いわ!!」

 

 私の拙い説明に目をキラキラ輝かせるコルネーリア様。頬を赤らめ、両手を胸の前で組むと、上目遣いで見つめてくる。…あざと可愛いにも程があるよ。


 「もうひとつ、おねだりしてもいいかしら?頑張ったご褒美に、わたくしに、そのハートのクッキーをあーんしてくださいませ!」

 「えっ?あーん、ですか??」

 「ええ。わたくし知っているわよ!庶民の方の間では親愛の証として、女の子は好きな方にあーんをして貰うものなのでしょう?」

 「それは…どうなんでしょう…。」

 

 この世界の庶民事情など知るはずもない私にはなんとも言えない。私達の世界で言う、恋人同士のあーんみたいなものだろうか。後ろにいる平民代表のエルダを振り返る。


 「そうですね。あたしの両親も仲が良いから、よくあーんでお互いに食べさせあってました!」

 「やっぱり!それじゃあタツキ姉!!」


 別に女の子同士で、あーんをするくらいはなんて事ないか。


 「…はい。コルネーリア様、あーん。」

 「あーん。」


 妹にする感覚で、ストロベリージャムのハート型クッキーを口に入れてあげると、幸せそうな表情をしたコルネーリア様がギュっと腕に絡みついて来た。


 「ふふふ。タツキ姉ぇ、だぁいすき!タツキ姉の大好きの形、貰っちゃった!!」


 甘えん坊の妹が出来たみたいだなぁ。こんな甘えた仕草さえ色っぽい、傾国の美少女の頭をよしよしと撫でてあげる。


 ーーーガシャン!!!


 その時、部屋の入り口から物凄い音がして振り返る。そこには、腕に抱えた荷物を落としたらしい渼音が立ち尽くしていた。


 「渼音、おかえり。大丈夫?」

 「…龍貴ちゃん。何をしているのかな…かな?」

 「何って…。コルネーリア様達とクッキーを作って、お茶をしてたんだけど…。」

 

 穏やかな表情で微笑む渼音。だけど、その瞳の中にはいつものキラキラしい光はなくハイライトが消えている気がする。何か嫌なことでもあったのかな。


 「ふぅーん…。へぇー……。私には、コルネーリアちゃんに、あーんをしてたみたいに見えたけど。それに、大好きの形がどうのこうのって。」

 「うん。コルネーリア様がご褒美にって…。」

 「そうよ!タツキ姉に、あーんをして貰ったの!!大好きの形のハートのクッキーを!!!」

 

 少し挑発的な小悪魔の笑みを浮かべ、そう言い放つと、更にギュウギュウと私の腕に絡みついてくる。ふにょんとした、膨らみかけの胸の感触が腕に伝わりドギマギしてしまうのは不可抗力と言うヤツだ。決して、私は変態とかではないのだ。そう、決して。


 「…良かったね……コルネーリアちゃん。だけど、ちょっと、くっつき過ぎじゃないかな。かな?ほら。龍貴ちゃんも困ってるよ。」


 更に笑みを深める渼音。だけれど、その優しげな天使の微笑みとは反比例し、物凄いプレッシャーが身体中から溢れて出ている。ゴゴゴゴっという文字が背景に見える気がするよ…。部屋の温度も心なしか急激に下がっている気がする。


 「みっ渼音?」

 「龍貴ちゃんは少し黙ってて。今は、コルネーリアちゃんとお話しをしているの。」

 「……はい。」


 なぜか怒られた私は、即座に渼音の言う通り口を閉ざす。一方のコルネーリア様は渼音のプレッシャーなど、どこ吹く風だと言わんばかりの表情で更に腕に力を入れ、私を抱きしめる。


 「こっコルネーリア様?」

 「タツキ姉は静かにしてて!わたくしはミオン姉とお話ししているんだから!!」

 「……はい。」


 またまた怒られた私に、もはや出来ることはなさそうだ。渼音とコルネーリア様の間には、昔京都のお土産屋さんで見た龍虎相搏の掛け軸のように、龍と虎がお互いに睨みを効かせ対峙している光景が浮かんでいる。その様子に怯えきったエルダは、耳を垂れさせ、尻尾は足の間に巻き込まれていた…。


 コルネーリア様の視線を余裕の表情で軽くいなした渼音が、私の隣へ腰を降ろす。そして、私のスカートの裾をキュッと握り、顔をじっと見つめた後に、目をそっと閉じる。その切なげな表情に、どこか焦燥感を覚えた私は無意識のうちにハートのジャムクッキーを掴みこう言っていた。


 「渼音。あーん。」

 「あーん。」


 渼音の小さくて形の良い口に、レモンのハートジャムクッキーを丁寧に入れる。蕩けるような表情で咀嚼した渼音が、腕に絡みついてくる。


 「龍貴ちゃんの大好きの気持ち、沢山伝わったよ。えへへ。初めてのあーんは、レモンの味がするんだね。」

 「ちょっと、ミオン姉!わたくしのマネをしないでよ!!」

 「コルネーリアちゃんこそ、邪魔しないで!今、良いところなんだからっ!!」


 二人に腕を引っ張られ何が何だかわからない私は、もうされるがままの状態だ。


 「綺麗で格好良い、()()()()のタツキ姉を離して!!」

 「龍貴ちゃんの優しくてかっこいいところは私が一番知ってるもん!そっちこそ、()()()の龍貴ちゃんから離れてよ!!」


 …まるでオモチャを取り合う幼稚園児のようになってきたよ。


 「なによ!ミオン姉とタツキ姉は恋人同士じゃないんでしょ!?ロレーナとエルダからちゃんと報告を貰って知ってるんだから!!タツキ姉を独り占めしないで!!!」

 「なっ!?……ふぅーん。ロレーナさんとエルダったら、そんな事まで報告してるんだ。へぇー…。ふふふふ。」


 渼音に天使の微笑みを向けられ、頭を抱えてうずくまりガクガクと震えるエルダ。


 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

 

 ロレーナさんは視線をそっと逸らすと、くるりと背中を向けて扉の向こうに消えていく。


 「…そうでした。急ぎの仕事を思い出しましたので、お先に失礼致します。」


 その手にはロレーナさん用に包装していたジャムクッキーが、いつの間にかしっかりと握られていた。


 「ちょ、ちょっと待って!ロレーナさん!!私を置いて行かないでーー!!!」


 こうしてカオスとなったお茶会は、夕食の時間を迎えるまで続いてしまうのであった。


 …解せぬ。


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