Episode11-1
「…うん。成功ですね。」
「やりましたわ!遂に、遂にわたくしにも回復薬が作れたわ!!これも全てタツキ姉のおかげよ!!!」
コルネーリア様が大喜びで私の腕に抱きついてくる。今日も私は、薬師団本部に来ていた。初めて回復薬を作ったあの日から、基本的に毎日ここへ足を運びだいたい初級回復薬を50本、中級回復薬を25本作るようにしているのだ。本数もさることながら、本来必要な素材より少ない量でワンランク上の品質の回復薬が作れると言うことで、素材の節約と薬師の労力減少に繋がりとても喜ばれている。私としても、ニートとしてお城で養われている事に後ろめたさを感じていたので、こうして誰かの力になれるのはとても嬉しいのだ。
「薬草が水に溶け込むと言う感覚が分からなかったけど、タツキ姉の言う通り薬草を薬研で擦り潰してみたら、水に溶け込むイメージがしやすくなったし魔力の通りも良くなったのよ!!」
ツインテールにした縦ロールをバネのようにブルンブルンと揺らし、喜びを表現するコルネーリア様。彼女とは三日前にここで偶然再開した。ジュリアマリア様の子供達の中で、唯一私と同じ無属性魔法への適正と錬成スキルを持つ彼女は、少しでも王国の民の力になりたいと足繁く薬師団本部に通いポーション作りの練習をしていたらしい。
…私より年下なのに、この子は本当に立派な子だなぁ。
しかし、薬師団に通い始めて約一年なかなか回復薬作りに成功せず、心が折れそうになっていた所に、私が初回で成功させたと言う話を聞きつけコツを尋ねてきたのだ。私がみたところ魔力量と扱いには特に問題がなかった。だけど、魔法で大切なのはイメージだ。生粋のお姫様で、当然料理などした事がないコルネーリア様には、薬草が水に溶け込む所が上手くイメージできてないように感じた。
そのため、まずは薬研で薬草を擦り潰した物を火に掛けて、水に溶け込むイメージを掴んでもらった。そして彼女がそれまでやっていた、薬草を千切りにするこの国基本の手順ではなく、擦り潰した薬草を使う手順に変えたところ見事に成功したと言う訳だ。
…私も千切りだとイメージが難しくてみじん切りにしてるからね。気持ちが良くわかるよ。
「おめでとうございます!だけど私の手柄じゃなく、コルネーリア様が民のためにこれまで努力して技術を磨いてきたからこその成功ですよ。私はほんの少し、助言しただけですから。」
「本当にタツキ姉は優しくて、格好良いですわ!わたくしタツキ姉が大好きよ!!」
年下とは思えない妖艶な顔立ちの美少女に抱きつかれながら、大好きなんて言われるとどうにも恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。幼さの中にある大人びた美貌と、吊り目がちでキツめな顔立ちからは想像もつかない、甘え上手なコルネーリア様は控えめに言ってギャップ萌えが限界突破しているのだ。
「ねえ、タツキ姉!初めての回復薬成功のお祝いとして、わたくしにご褒美をくださいな!!」
「ご褒美ですか?でも、私にはお姫様が喜ぶようなプレゼントなんて出来ないけど…。」
「わたくしが欲しいご褒美は、タツキ姉のお料理よ!とても美味しいとエルダやロレーナ達から報告があがっているもの!!」
…うーん、お料理か……。作ることは別に問題ないけど、一国のお姫様に勝手に料理を振る舞うのは少しまずい気がする。毒殺とかの警戒もあるだろうし、料理人さん達のお仕事を奪う事にもなってしまう。
「それは流石にまずいんじゃないでしょうか…。せめて、ティエリー様かジュリアマリア様の許可を得たうえで安全面に配慮し、料理人の方にも伝えておかないと予定が狂い困る人も出でくるでしょう?」
「それはっ…確かにタツキ姉の言う通りですわ……。」
王族と言う自分の立場をわかっているコルネーリア様は、何か反論しかけたが直ぐにそれを呑み込み素直に肯定してくれた。だけど、さっきまでのはしゃぎようは鳴りを顰め、こちらが悲しくなるくらいしょんぼりしてしまっている。
…ええい!しょうがないなぁ。傾国の美少女にそんな顔をされて無視出来る人間なんていないよ。
「…今日は急なお話しなので料理は無理ですが、おやつならどうですか?」
「…おやつ?タツキ姉はお菓子も作れるの??」
「はい。味の保証は出来ませんし、ティエリー様かジュリアマリア様の許可が得られればですが。」
「わかったわ!直ぐにお母様の許可をもらってくるわ!!」
あの様子なら、本当に許可を得て直ぐに私の部屋にくるだろう。ジュリアマリア様も、国民のために頑張る可愛い末娘のおねだりにノーとは言えないに違いない。




