表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/43

Episode10

 「そうなんですか。この世界に回復魔法はないんですね。」

 「そうですね…。ない、と言うよりは使える人がいないと言った方が正確でしょうか。回復魔法は聖属性に適正を持つ者でなければ使えませんから。」


 私の呟きを拾い、アドリアーナ様が丁寧に回答を返してくれた。一見冷たい印象も受ける切れ長で知的な目が、優しげに細められる。ここは、薬師団の本部である建物の中。今日は、ティエリー様が勧めてくれた薬師団見学の日だ。薬師団長自ら私の案内を買ってくれたらしいアドリアーナ様が、一つの扉の前で立ち止まる。


 「つまり、渼音だけが回復魔法を使えるんですね。」

 「はい。しかし、他の回復手段がない訳ではありません。それを作るのが我々、薬師団の主な仕事の一つですね。こちらへどうぞ。」

 

 扉を潜ると、大きな部屋には壁一面に薬品棚が設置されている。何百とあるだろう引き出しには、一つ一つにラベルが貼られておりそこには薬草の名前が書かれていた。よく見ると、日本ではハーブに分類される物や香辛料に分類される物など、見覚えのある素材も幾つか見受けられる。


 「…凄い。」

 「これらの薬草と水を調合する事によりポーションと呼ばれる物を作ります。ポーションには、怪我を治したり体力を回復させる回復薬。解毒をする物や麻痺などの状態異常を治す物などもありますね。」


 渼音しか回復魔法が使えないと言う事は、渼音が酷い怪我を負った時はきっと自分では自分を回復させる事は難しいだろう。つまり、このポーションに頼る事になるはずだ。


 「しかし、誰にでも作れる訳ではありません。作成には、錬成と言うスキルを持っている事が絶対条件ですが、残念ながら錬成を授かる可能性がある無属性魔法の使い手は、そう多くはいません。ここ王都の薬師団でも100人に満たない程度ですね。その中で錬成を持っているのは、30人くらいです。…平時ならば問題ないのですが、今は流石に人で不足ですね。」


 淡く細い絹糸のような緑色の髪を掻き上げながら、アドリアーナ様が苦笑いを溢す。その横顔を見ながら私は、スキル鑑定での光景を思い出していた。基本の四色に加え聖属性の金色に光を輝かせた渼音と異なり、私の光は銀色一色だった。そして、銀色の属性は…。


 「あのっ…、アドリアーナ様。……私に、ポーションの調合を教えて貰えませんか?」

 「えっ!?タツキが無属性である事は知っています。しかし、錬成を持っていなければ筋の良い者でも、調合を出来るようになるまでに五年はかかります。」


 どうやら本当にティエリー様は、約束通り属性以外の私の情報を周囲に漏らしていないらしい。それは恐らく私を守るためだ。無属性で、珍しいらしい錬成スキルと鑑定スキル。その他にも幾つかのスキルを所持している事が分かれば、利用しようとする輩が現れたり危険に巻き込まれる事もあるのだろう。だけど、戦場で危険な目に会うかもしれない渼音に比べれば。そして、その渼音の助けになるかもしれないなら、やるしかないよね。


 …料理以外でも、渼音を支える事が出来るかもしれない!!


 「私、錬成スキル持ってます。」


 作業をしながら私達の会話を聞いていた薬師団の人達が、少しざわざわとしている。アドリアーナ様は仕方なさそうに、少し笑うと奥の方にあるテーブルに案内してくれた。きっと、これはティエリー様がくれたチャンスだ。これ以上の強制や強要はしないと言っていたが、渼音のために出来る事を探していた私に、出来る事があるかもしれないと薬師団見学を勧めてくれたに違いない。


 「では、まず初級の回復薬を作ってみせます。基礎の魔法講座は受けられたそうなのでご存知だと思いますが、大切なのはイメージです。この三種の刻んだ薬草と水を調合鍋に入れて火に掛けます。次に、魔力を溶け込ませるようなイメージでゆっくりと注ぎながら混ぜていくと…。」


 アドリアーナ様が説明をしながら、小さな杖で鍋を混ぜしばらく経つとぽーっと淡く鍋の中身が光って、綺麗で透明な緑色へと変化した。


 「…これで完成ですね。では、早速やってみますか?」

 「はい…。」


 私は、用意してもらった薬草を均等にみじん切りにしていく。ここら辺は料理の感覚に近い。アドリアーナ様は千切りにしていたけど、私の中でみじん切りの方が液体に溶け込むイメージが容易に出来る。魔法はイメージが大切らしいしね。刻んだ薬草を調合鍋に入れ、水を加えて火に掛ける。魔法杖を借りて、魔力を注ぐ。杖を通して魔力を注ぐ感覚は分かるんだけど、どれくらい注げばいいんだろう?


 「…これくらいかな?」


 初めての事で正解が分からない。心持ち多めに魔力を注ぎ、しばらく経つと…。お手本と同様に調合鍋が光に包まれた。なぜか感覚的に完成した事が分かる。


 「そんなまさか……。」


 アドリアーナ様が驚愕の表情で調合鍋を見つめている。薬師達のざわめきは大きくなり、今ではこちらに注目していることを隠そうともしていない。回復薬の見た目は、アドリアーナ様がお手本で作った物より、やや濃い緑色になっているね。


 …失敗かな?


 そう思い、調合鍋の中身をじっと見つめる。


 ーーー初級回復薬(+++)。水に数種類の薬草を溶け込ませ、特別な魔力を加えたもの。通常の初級回復薬より効果が大きく、中級回復薬に匹敵する。効能は、体力の大幅な回復。怪我を癒やし、指先などの軽度の部分欠損を回復させる事が可能。


 「………っえ!?」


 召喚された初日から何故か使えた鑑定スキルを使うと、表示されたのは驚きの内容だった。


 …ちょっと待って。+++って何?初級回復薬なのに、中級に匹敵する効果って??特別な魔力ってなによ???


 「…アドリアーナ様これって一体?」

 

 アドリアーナ様も困惑した表情で回復薬をじっと見ていたが、私が問いかけると口元を耳に寄せてそっと囁いてくる。


 「その様子だと、タツキにも見えているようですね。…あなたも鑑定スキル持ちですか?」

 「はい…。だけど、この回復薬は…。何か作り方を間違えてしまったのでしょうか?」

 「…いえ。材料はレシピ通り私が用意しましたし、手順も間違いありませんでした。特別な魔力と言う所が気になりますが…。そもそも、普通は錬成スキルを持っていても初めてで回復薬の作成に成功するのはありえないのです。」


 どうやら、効果もさることながら初回で回復薬の作成を成功させた事にも驚かれているらしい。


 「タツキ、申し訳ないけどもう少し検証に付き合って貰って良いですか?」


 そもそも、ポーション作りを教えてと言ったのは私の方なので問題はない。私が作れるようになれば、渼音に一本でも多く渡るかもしれないし、渼音を守ってくれる騎士団や魔導士団の人達の分にも余裕が出来るかもしれないしね。


 「もちろんです。」

 「それではまず、もう一度初級回復薬薬を使って貰えますか?その後は中級回復薬を作ってみましょう。」


 その後は、言われるがままに材料を刻み回復薬作りに勤しんだ。その結果、初級はもちろん中級とそしてなんと上級回復薬まで作れてしまったのだ。効果はそれぞれ、一段上の物を…。つまり上級回復薬は特級回復薬の効果を持つと言う。それは俗に言う、エリクサーと呼ばれる伝説級の代物らしい。流石に上級回復薬は使う材料も多く、中には貴重な物も使っているらしいから二本だけしか作らなかった。でも、そのうちの一本をお駄賃として貰うことが出来たから良かったよ。どうやら、今回私が作成したポーションだけでも国のためには結構役立つらしい。


  …帰ったら早速渼音に渡しておこう。


 こうして私は思いがけず、定期的にポーション作りのお手伝いをするという仕事を得ることが出来た。渼音と違い、聖女として役に立つ訳ではないけど、私にも出来ることが見つかったのはなんだか嬉しい。


 …しかも、薬師団本部に出入り自由になったのは嬉しいよ!実は、薬品棚には料理に使えそうなスパイスが沢山あったんだよね。


 予想外の出来事が沢山あったけど、収穫の多い薬師団見学になったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ