人魚の愛 人魚の話
本文は人魚目線で、ルビは人間目線の言葉にしています
私は空が見たくて世界の境目から顔を出した。そうしたら、上の世界の生き物と目が合った。見た目は私と似ていて、違うのは足だった。上の世界が知りたい。言葉が通じるのか分からないけど、その生き物に話しかけた。
「あなたは、なぁに?」
「ん、僕?僕は人間だよ。君は人魚かな?」
良かった言葉が通じるみたい。
「私達を差す言葉は分からないけど、あなたが人魚っていうなら人魚だと思うわ。私、この中に住んでるの。外の世界が知りたいの。もっとそっちに行ってもいい?」
「いいよ。」
私は人間の元へ行こうとして中の世界から出た。私の世界とは違って、何にも包まれていない世界。私の世界にある砂とは違って、上の世界の砂はとても暖かく、サラサラして動きにくいところだった。
「ねぇ、これ以上進めないみたい。やっぱり、足が違うと貴方の所までは行けないのね。」
「そうなんだ。じゃぁ僕が君の過ごせる所の近くへ行くよ」
そう言って、人間は私に近づいた。そして、動けなくなった私を引っ張って元の世界に戻した。
「ねぇ、貴方は毎日ここにいるの?」
「流石に毎日じゃないけど、よくここに来て釣りをしてるんだ。」
「釣り?」
「コレ(釣り竿)で魚を捕まえているんだ。釣れたら今日の食事にするんだ。」
「へぇ、ソレで魚を捕まえているの?私が捕まえた方が早いよ?」
「んー、それは君に悪いな。」
「食事......。あっ、そうだ!貴方は私の世界の草を食べれる?私、上の世界のものが知りたいの!それと交換してくれる?」
「海の草は......海藻かな。たぶん食べられるよ。分かった。じゃあ明日何か持って来るよ。」
こうやって私達は会う度に自分たちの世界のものを交換していった。食べ物や植物、装飾品などお互いに知らないものばかりで面白かった。何をあげようかと選ぶ楽しさもあった。
ふと気が付いたら、貴方は最初に出会った時よりも大きくなっていた。歳をとったみたい。私よりも成長が早い気がする。
「貴女、また上の世界に行ってたのね、いい加減やめなさい。」
「なんで、楽しいからいいでしょ?」
「遠くの地域で私達を捕まえている生き物がいるって噂よ。」
「その私達を捕まえていると言う生物って人間?」
「ニンゲン?それは分からないけど、とにかく上の世界の生き物が私達を捕まえてる。もしかしたら食べられちゃうのかも。私達の足を奪いに来たのかも。」
「でも噂でしょ?」
私は忠告を聞かずに今日も貴方に会いに行く。例え人間が私達に酷い事してても、貴方は違う。私は信じてる。
「ねぇ、人間が私達を捕まえてるって噂って本当?」
「なにそれ、知らないよ。僕は君以外に出会った事ないからなぁ。」
「私も貴方以外の人間は知らないわ。ところで貴方、また大きくなったんじゃない?」
「ははは、そうだね。成長期ってやつかな。大人になってる証拠さ。」
やっぱり、私とは成長速度が違うみたい。もっと人間が知りたくなった。
今日は遠くの地域へ、人間について知りたくて。貴方以外からの人間の情報が欲しくて。何度も何度も、世界の境目から顔を出した。そうしてたら、誰かに足を引っ張られた。
「君、何をしているのかい?危ないじゃないか、死にたいのかい?」
私の足を引っ張ったのは年寄りの人魚だった。
「ねぇ、あなたは上の生き物について詳しいですか?」
「君、上の生物に興味があるのかい?」
「はい。私、上の生き物、特に人間について知りたいのです。」
「それで、君は外の世界に顔を出していたのかい?今の人間に会うのはオススメしないよ。君も食われてしまう。人間は我々より短い命の生き物だ。だから、我々を捕まえ、食べて、長生きしようとしていると聞いたことがある。昔の人間は我々を食べるという行動は無かったのに。」
「その人間が私達を食べて寿命を延ばすというのは本当ですか?」
「さぁ、それは分からないな。そう言って、我々を人間が捕まえようとしてたことしか知らないからな。」
私と貴方の寿命は違う事を知った。私達を食べて貴方の寿命が延びる可能性があるのを知った。寿命の差はどれだけあるのか分からないけど、貴方の成長が早い事は知っている。
「ねぇ、コレ食べて?」
「なにそれ?」
「魚の卵よ。」
私は少しでも貴方と過ごせる時間を延ばしたくて、私の仲間を食べさせた。
それでも貴方の成長は止まらない。
「ねぇ、コレ食べて?」
「魚?頭は切って来たの?」
私達の足は魚と同じ。足さえ渡せば分からない。私は幼い仲間を貴方に食べさせた。何度も何度も。ある日、貴方の成長が止まった。
「もう大きくならないのね。」
「流石にずっとは大きくならないさ。でも、今までのように君に会えないかもしれない。僕も大人になったからね」
あの日から貴方と会う時間が減った。それから段々会える日よりも、会えない日が増えた。貴方は死んじゃったのかな。私の努力も無駄だったのかな。仲間をいっぱい殺しちゃったな。もう上に行きたい理由が無くなっちゃった。
それでもいつか貴方に会えると信じて、毎日、毎日、貴方と会ってた場所の近くを彷徨う。そして見つけた貴方。でも、なんで、なんで、なんで貴方がここにいるの?貴方は私の世界で暮らせない。息が出来ないと聞いていた。貴方の足が、腕が、縛られている。貴方を縛っているものを嚙みちぎり、手足を自由にし、世界の境目へ。貴方が居た元の場所へは返せない。別の場所へ届けよう。
どれくらい進んだのかは分からないけど、砂地が見えた。きっとここなら元の場所から離れているから大丈夫。貴方を上の世界へあげたいけど、重たい。貴方が着てる服がいつもと違う。これがきっと重いんだ。これも引きちぎる。世界の境目が激しく揺れてる。この揺れに合わせて、砂地へ飛び込む。上の世界に着いても、貴方は目を覚まさない。最後の足掻き。私をあげる。私を食べて。ねぇ、食べて、食べてお願い。食べて、食べてお願い。食べて、食べてお願い。愛してる。
暫くたっても貴方は目覚めない。でも死んではなさそう。どこかから人間声が聞こえた。人間の治療は人間に任せて、私は元の世界に帰ろう。ここに居たらきっと私は殺されちゃう。ねぇ、貴方。また会える日までさようなら。