はなしてよ
私には、とてつもなく大好きな妹がいる。
名前は愛園真凜といって、ややツンデレ気味な可愛い可愛い私の宝のような妹だ。
そして私はそんな真凜に抱きつくのが大好きで、癖になっている。
そんな私に、真凜はいつもこう言うんだ。
「お姉ちゃん放してよ!」
って。
私はもちろん、
「えぇ~!もう少しくらいいいじゃんか~!」
って返す。
そんなやり取りをする私の妹が、そんなやり取りをする毎日が、私のかけがえのない宝物で私を強く、ずっとずっと強く支えてくれる。
だから私は今まで挫けて来なかったし、きっと挫ける日なんて来ないと思っていた。
ある日、学校に行くと私の隣の席の子が休んでいた。……いつかは絶対休むと思っていた。だってそう、いじめられっ子なんだから。二ヶ月ほど前から、隣の席の伏淵さんは、クラスの大きな女子グループからいじめられている。それも陰湿なものばかりで、教科書を黒塗りにしたり破り捨てたり、上靴を隠したり放課後に呼び出したり。なんで私がそんなものを知っているかって?そんなの、もちろん私がただの「傍観者」だからだ。私は意気地無しだ。臆病だ。
止めようとは何度も思った。けど、いざ私がターゲットにされることを考えると怖くて見ている事しか出来ないのだ。
「……あれ?」
昨日、置いていったはずの教科書がない。
奥の方にあるのかと思い、机に手を入れて適当に動かす。すると、私の手に机とは違う冷たい感触が伝わってくる。不思議に思った私は、机から手を出す。すると、私の手が黒く染まっていた。「傍観者」である私は、この時点で察することが出来た。きっと次は、私なんだろう、と。嫌だな、怖いなって気持ちもあった。けれど、しょうがない事なのだろうという気持ちもあった。だって、それが傍観者の私に最もふさわしい罰なのだから。
なんて考えていたら、後ろから声がする。
私のこれからを宣告する声が。
「愛園。次はアンタがアタシのオモチャ、ね。」
久しぶりに感じたとてつもない、身を包むほどの恐怖に私は声を出す事が出来なかった。
……それからの毎日、ずっと私はいじめられていた。
毎朝学校に行くと教科書も、上履きもない。
酷い時は上履きに画鋲が入ってたり、水浸しだったり、私の椅子に穴が空いてたりした。
放課後は何回か蹴られたり、叩かれたりしていた。酷い時は男達も混ざって私をいじめてきた。沢山「汚い」と蔑まれた。
それから1ヶ月くらいすると、辛いとすらも思わなくなってきた。ただ、だんだん食欲がわかなくなって来たり、真凜に抱きつこうとすら思えなかった。だって私、汚いもん。真凜を汚しちゃう。
……ずっと、親や真凜には大丈夫と無理を通していた。
そして、またある日の夜。私はいつものように親に大丈夫と言い、部屋に籠っていた。
「……だんだん。だんだんと、私の生きてる意味がわからなくなってきた。……彼女達にいじめられるため、なのかな」
部屋に籠っていても、特に何もしない。ただぼんやりと時間を過ごすだけ。そんな毎日を繰り返してるうちに、段々と自分の生きている理由がわからなくなってきた。
……そんな時だった。部屋のドアが、真凜によってバァンっと勢いよく空けられる。
「あ……どうしたの、真凜」
「私、もう我慢の限界。お姉ちゃんてば、全然大丈夫じゃないのに大丈夫って無理を通して……」
「無理なんしてないよ、私は大丈夫。」
「私はそうは見えないからお姉ちゃんを心配してるの」
「……え?真凜?」
真凜は私の後ろに回り込み、後ろから抱きついてきた。……いや、ダメ。真凜まで汚れちゃう。私に触らないで
「……お願い放して、真凜。私に触らないでよ。私は汚いから、真凜まで汚れちゃう。」
「だったら話して、お姉ちゃん。お姉ちゃんが話してくれるまで、私絶対に放さないから。それに……お姉ちゃんはずっと綺麗だから。」
……なんでだろう。涙が出てくるのは。なんでだろう。話したいって思えるのは。
「……もうきっと、お母さんもお父さんも真凜も気づいてると思うけど……私ね、ずっと、いじめられてるんだ。」
気づいたら、私は真凜に全てを話していた。……あまり話したくなかったのにな。だって一度話し始めたら……辛いって思っちゃうじゃん。
「辛いよ……嫌だよ……真凜」
「……全部話してくれてありがとう、お姉ちゃん。……本当にごめんね、もっと早く気づいてあげられなくて。」
「真凜は何も悪くないよ。だから謝らないで。……真凜、もう少しだけこのままでいさせて。……放さないで」
「うん。お姉ちゃんの気が済むまで、絶対に放さないよ。本当はお姉ちゃんがこうしてくれないの寂しかったんだから」
「それと……」
「言わなくてもわかってるよ。大丈夫、お父さんやお母さんにも話さないから」
「……ありがとう、真凜」
……すごい、暖かいな。ちゃんと真凜とぎゅってしたのって何年ぶりだっけ。そうだ、私は真凜のこういう凄い優しいところが大好きなんだ。そんな真凜のおかげもあって、この日は本当に久しぶりの快眠だった。
そして真凜に言われて私は一週間ほど学校を休んでいた。誰かが私の代わりに……って申し訳ない気持ちを抱えながらも、私はこの一週間を過ごした。
そして一週間後、学校で聞いた話なのだがそのいじめっ子達は過去にも色々してたみたいでそれらが全て暴かれ、退学になったそうだ。それを知った時、私は心のどこかでほっとした。
そうして……
「まーりんっ!」
「わっお姉ちゃん!動けない!放してよ~!」
と、またいつも通りの幸せなやり取りを繰り返すのだった。