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琥珀の王国の探偵少女  作者: 澤野玲
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第4話「ガラクタだらけ」

 アギュレーディアお婆さんの家の外部……木製の壁は暗く、古めかしく、湿った苔の匂いを発しています。全体的に、幽霊がでると噂の空き家のようにどんよりと薄暗い感じがします。

 さきほどウィル少年といたときと同じように、家の中からは、何かしらの楽器の音がたえまなく聞こえてきました。聴いたこともない、何の感情を表現しているのかもわからない、へんてこな音楽です。

 

 クロエはドアをノックします。


「こんにちは」


 クロエにはわかっていたことですが、誰もでてきません。それはそうです、家の中では、そうとうにうるさい音がこもっているのでしょうから。


 クロエは、家主に怒られてしまいそうなくらい、強く、乱暴に、何度もドアを叩きます。


「こんにちは! こんにちは! ごめんください! ごめんください!」


 音楽が止みました。

 

 ドアの向こうから、いろんな音が聞こえてきました。すたすたと、ひとが歩いているような音、次は、がらんごろん、と何かが転がっているような音、お次は、ばちん! がたん! という衝突音。


 やがて、ぎりぎりと鈍い音をたててドアが開かれました。


 童話にでてくる、魔女そのものの、お婆さんがでてきました。


 クロエは、すこし怯えるような口調でいいます。


「アギュレーディアさんですね?」


 お婆さんは、シミだらけの大きな鼻を、ふん、と鳴らします。


「そうだよ」


 気の難しい人にも見えなければ、社交的な人にも見えません。


「あの、少しお話しできますか?」


 アギュレーディアお婆さんは、開いているのか瞑っているのかわからないほど、細い目で、クロエを見つめます。


「入るかい?」


 クロエはその言葉を意外に思いました。


「ありがとうございます。お邪魔させていただきます」


「さぁ、入んな」


 クロエは、アギュレーディアお婆さんの曲がった背につづいて、家の中に入ります。


 とても薄暗い家の中でした。


 今にも壊れそうな棚が窓をふさいでいて、家のなかに陽の光は入りません。


 室内を照らすのは、どろどろに溶ける太いロウソクの火と、すすだらけで真っ黒になっているランタンの明かりです。


 家の中の匂いは、かなりどくとくでした。木の樹液を煮詰めたような匂い、とも言えますし、家具用のニスと油を混ぜたような匂い、とも言えます。こんな匂いのする家には、入ったことがありません。


 棚には、有名古物店にも顔負けなほど、様々な物が置かれています。

 レンズにヒビのはいったオペラグラス。卵の殻だけが山のように入れられているカゴ。中身になにも入っていないガラス製の香水入れ。タイヤがはずれたローラースケート。

 

 クロエは床に視線を移します。


 うわ!


 クロエを脅かせたのは、床に転がった無数の散弾銃の薬莢です。


 いったい、何を撃ったんだろう……。


 散弾銃の薬莢意外にも、いろんな物が床に散乱しています。

 黒い取っ手がおどろおどろしいノコギリ。油が抜けてかさかさになっているクリケット用のミット。コレクターに売ればいい値段になりそうな、かぎ煙草の缶。そして、とくに目についたのは、このアギュレーディアお婆さんが扱えるとは思えない、複雑な仕組みをしていそうな写真撮影機です。


 やはりと言うべきか、楽器のたぐいは、たくさんありました。

 吹き出し口がなにかでべとべとと汚れている、艶のないトランペット。蛇腹のあちこちが破れたアコーディオン。この家のものとしては珍しく、そこそこに程度のよい綺麗なバイオリン。


 そして、この家の大部分を占めるのがこれ、パイプオルガンです。

 

 パイプオルガンは、使い古され、くたびれた感じは強いですが、どこかが壊れている様子もありません。パイプオルガンのパイプ部分は、教会や聖堂のオルガンのように、視界に収まらないほどの大きさではありません。なんとか個人宅でも扱える大きさです。とは言ってもアギュレーディア家は、このパイプオルガンに占拠されている、と言っても過言ではないでしょう。


 クロエはすぐに分かります。先ほどからずっと家のそとに流されていた曲は、このパイプオルガンによって奏でられていたものだと。


 パイプオルガンの横には、どこかで見たことのあるような、新し目の機材がありました。

 木製の台座の上に、粒がついた円筒状の金属があり、その円筒状の金属にはハンドルか何かがついていて、そして、てっぺんにはラッパのようなものがあります。


 あれは、なんだったかしら……最近、新聞かなにかで見た気が……。あ! あれは蓄音機!


 などとクロエが考えていると、アギュレーディアお婆さんが口を開きました。


「あんた、なんか話しがあるんだろ?」


 穏やかでもなければ、威圧的でもない、ちょっと表現しがたい話し方でした。


「ええ。そうなんです。井戸の広場の彫像が無くなったのはご存じですか?」


「井戸の広場の彫像が無くなった? なんでだい?」


「いや、わたしもそれが知りたくて、いまいろいろと調査しているところなんです」


「はぁ、そうかい」


「彫像が持ち去られたのは、おそらく7日聖金曜日の夕方から、深夜だと思うんですが、そとで何か変わったことはありませんでしたか?」


 自分でも、的外れな質問をしているな、とクロエは思いました。


「見てわかるだろう。うちの中から外はみえんわ」


「そうですよね。なにか、いつもとは違う音が聞こえたり、っていうことはなかったですか?」


「あたしはね、毎日、1日中ここでオルガンを弾いててね。聖金曜日だろうと、いつだろうと、一時も休まずオルガンが鳴ってるから、そとの音なんてずーっと聞こえないよ。悪くおもわないでちょうだい」


 予想通りの返答でした。


「わかりました」


 クロエはバックから、名刺を取り出し、アギュレーディアお婆さんに差し出します。


「もし、もしなにか思い出したら、こちらへ電報を送ってください」


 クロエは、アギュレーディアお婆さんが、名刺を新たなコレクションかなにかのように、光に掲げて眺めている姿を見ながら、こう思います。


 さて、次はどうする? そうそう、彫像の作者で芸術家のブラウンさん。会いに行ってみよう。


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