第87章
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皇后様一行を乗せた四頭立ての馬車はゆっくりと、しかし確実にオレガド王国の古代神殿へと近づこうとしていた。皇后様の心境として、ようやく探していた娘ナディアとこちらの「呪い魔法のダイアリー」の中の世界に突然ケセラが登場するや二人して旅を始めている訳について、おおよその予想はついていたの。きっと我がパリピメロン家とこのダイアリーの中の世界の因果関係についての調査にのめり込んでいるのだろうと。そう、若かりし自分がそうであったように……
ターシャが戸惑いながらも、何か振り切ったように突然皇后様に話し始めるーーー
ターシャ「あのぅ、突然で大変申し訳ないのですが、私とミッチは今回この古代神殿に訪問することを延期したいと考えておりまして……」
皇后様「え、それはまた急なお話ね!だってもう眼と鼻の先まで来ているのですよ。一体どうなさって?」
ターシャ「私には判るんです。嫌な予感がするのです!きっとこの古代神殿には呪いが宿っていて、私たち招かれざる客人が来る機会を妨害する何かしらのパワーか伝わってきておりまして……私よりも敏感なミッチなんて近づくにつれて顔色が冴えなくなって来ましたから。皇后様のご希望に添えず大変申し訳ないのですが、どうか私達だけでもこの場で降ろして頂けませんか?」
皇后様「あら、ミッチ……一体どうしたというのでしょう!これは大変ですね。こんな顔色して此処に置き去りにする訳には行きません。シュミット、行き先をこの近くの医療施設に変更です。いいわね!」
執事シュミットは慌てる皇后様の指令に従い早速行先を医療施設へと変更する。先ほどまで近づこうとしていた呪われているというオレガド王国の古代神殿が遠ざかってゆくと、市街にある医療施設へと馬車がなだれ込むーーー
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ジュズッピ「あのぅナディア様、本日はこの神殿に到着したばかりでお疲れでしょうから、近くのホテルにお帰りになられてゆっくりなられてはいかがでしょうか?」
ナディア「何を仰られるのです、今から貴方の娘ミッチがこちらに向かっているのでしょ?そろそろ到着するやも知れませんからもう暫く待ちましょう。」
ジュズッピ「それがですね、私の勘だと本日皇后様御一行は、こちらには参りません。」
ケセラ「何故急にそんな事仰られるの?先ほどまではもうすぐ到着すると申していたじやないですの。もしかして貴方のお得意のインチキ呪術でも使って透視でもされたのかしら〜?フフッ!」
ナディア「こらこらケセラ、ジュズッピさんをそんな風にからかうのはお辞めなさい。そうねぇ、でしたら彼の言うようにワタシも今日は忙しく駆け回ったから何だか疲れちゃったし、今日は退散するとしましょうかね。当面の間は私達はこちらの街に滞在する予定なのですからね、そんなに急がなくても神殿は逃げませんからね。」
ジュズッピとしては本当の娘ミッチと再会する事への不安が一旦消えたことで正直ホッとしていた。しかし彼がホッとしていた本当の理由はまた別の所にあるのだった。それというのもミッチがパリピメロン家の全貌を明らかにする事で、ジュズッピの先祖の血統とのわだかまりが今後のナディア達との関係を不穏にするだろう事を第六感であろうか直感的に悟ったからである。
正直な娘ミッチはきっとこの壁画に描かれた模様のような古代文字の解読を何の迷いもなくスラスラとやってのけるであろう。そうなれば我が先祖の家系がパリピメロン家と対立していた当時の出来事が明らかになる。それにより自分たちがナディアや皇后様からどのような侮蔑を受けるのだろうかと想像するだけで、もはや背筋が凍りつく思いだったのだ。今の彼にとって娘とナディア達との再会までの時間稼ぎが必要であり、出来ることならば再会を何とかスルーする策を練るだけの時間が必要であったのだから……
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皇后様一行が医療施設に馬車が到着すると、ターシャが慌てながらミッチに付き添って入ってゆく。
皇后様「ターシャ、ミッチの事あとは頼みましたよ。今日の古代神殿ツアーは延期とします。そして我々は今日は先にホテルに戻ることにします。追ってシュミットに迎えをよこさせましょう。」
皇后様がそう言い残すと再び四頭立ての馬車が走り出してゆくのだった。
ミッチ「ターシャごめんなさい、ワタシ急に具合が悪くなってしまって……でも不思議なの、あの古代神殿に近づいた時ほど今は辛くなくって……」
ターシャ「いいのよミッチ。そんな事より今は貴方の体のほうが心配よ。きっと流行り病にでもでもかかってしまったのかしらね?」
その後の医師の診断によると、どうしたことか原因の特定には至らずに、とりわけ風邪を引いている訳でもないが恐らく長旅の疲れから体力が消耗したのだろうとの結果が告げられる。今夜は大事を取ってこちらで入院することになり、処方薬でミッチが眠りについたので人心地ついたターシャも付き添いをする事にしました。しばらくすると、やはり目まぐるしい旅の疲れに襲われた様子でターシャは補助ベッドで深く眠り始めるのでしたーーー
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ターシャは夢の中ーーー
そこは果てしない暗がりの林の中、何故か洞窟に取り残されている自分に向かってその奥からさぞかし恐ろしげなうめき声が響き渡ってきます〜〜〜
洞窟の声「どうかお助けを。金輪際神に誓ってパリピメロン家に従う覚悟で御座いますからどうか命だけは……」
パリピメロン家に従う?ターシャはそのうめき声の主が助けを乞う様子に居ても立ってもいられない気がしてきた。そして何故か手元にあるランプの光を頼りに真っ暗闇の洞窟の中へと歩を進めてゆくーーー
そこには数人の若い兵士達と思しき男たちが固まってしゃがみ込んでいる。多分ろくに食べていないのか痩せこけた面々はギョロッとした目を黙ってこちらに向けている。その中にヒッポ君そっくりな顔つきの少年兵がヒッポ君の態度に似つかわしくなくおどおどしながらこちらに近寄ると呟く。
少年兵「どうか少しでいいですから食料を分けては頂けませんか?我々はパリピメロン家のために今までのことを謝罪し命をかけてまでも従いますのでどうか……」
ターシャはそのヒッポ君そっくりな少年兵から出た言葉に息を詰まらせると、思わず涙を浮かべずには居られなくなりました。
ターシャ「あのぅ、そう言われましても……ワタシも今この場所に着いたばかりで全く様子がつかめておりません。それより何故パリピメロン家にそこまでして忠誠を誓うのですか?」
ターシャのその言葉が意外であったのか彼らは一様に顔を見合わせる。すると再び少年兵が呟く。
少年兵「何だって、かつての英雄、ジュズッピ様の戦いの事をご存知ではないのか?」
///to be continued☆☆☆〜〜〜




