第80章
追っ手の魔物と化したマウリシオからようやく逃れることが出来たヒッポ君であったが、メチル女王率いるパリピメロン家の「呪い魔法のダイアリー」回収の旅に同行する羽目になったのは、いささか自分の目的とは違っていることが少しばかり不満であったーーー
僕はただ自由な居場所が欲しかったんだ……誰にも束縛されずに今後の人生について考える、そんな材料集めの旅を目論んでいたのに、なんでまたもや「呪い魔法のダイアリー」につきあわされなければならないのだろう、と。
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ヒッポ君「あのう……皆さんにお知らせしたいことがありまして。先ほど貴方がたのダイアリー探しの旅に同行することについて考えました結果、今回貴方がたに助けられたご恩は一生忘れませんが、やはり初心を貫徹したいので誠に勝手では御座いますが、ダイアリーの中の世界までは同行しますが、その後は解散ということで……」
アーサー王子「へぇ~、ヒッポ君ってそんなに恩知らずだったんだねえ。もう少し辛抱強いと思っていたけど、意外だね。」
ベルリーナ「あら、ヒッポ君らしくないんじゃない?そんなんじゃまたケセラの時のようにフラれちやうわよ!良いのかしらね、お母さんはどう思うの?」
メチル女王「ちょっとアンタ考え直しなさいよ、これじゃあまるでパリピメロン家が見下されたように感じるんだけど。私達の仲間になれば楽しい未来が待ってるんだから協力しなさいよ!」
半ば強引な勧誘をする家族3人に、急に違和感を憶えるヒッポ君。以前会ったときは皆んな上品な立ち居振る舞いだったのに、今は何だか下品で強引なこと言うなぁ、と。そういえば洞窟まで案内してくれた天使が「中には魔物が潜んでいる」って呟いてたけど、てっきり魔物はマウリシオだけかと思い込んでいたが、まさか3人も魔物なのか?いやそんな筈はないだろうーーーならばいっちょ彼らが必ず知っている質問をしてみようか……
ヒッポ君「だめですかねぇ……ターシャやナディアなら賛成してくれると思うんだけどな。」
すると3人はポカンとした表情に変わり何やらヒソヒソと話し合っている。おそらく口裏を合わせたのだろう。
メチル女王「え、ええそうよね……あの親子なら賛成してくれるかもしれないけど、あの人たち性格悪いから気をつけたほうが良いいよ。それよりアタシ達に協力したほうが貴方も幸せになれると思うのに。」
親子?やはり何だか怪しいな。目の前のメチル女王は娘のターシャの事も友達のナディアの事も全く知らないじゃないか。やはりコイツラは魔物なのか?じゃこんな展開ならどうかな?
ヒッポ君「わかりました。でしたら僕から一つだけお願いがあるのですが、もし僕が貴方がたと旅をする場合の条件としまして、一週間に一度は豪勢なディナーをご馳走して欲しいのですがね……」
アーサー王子「な〜んだ、そんな事か。君は我がパリピメロン家の財力を知らないようだが、ディナーなんて毎晩のように贅沢三昧だよ!仔羊の血のシチューでも、血の滴るレアステーキでも何でも御座れ、但しニンニクは抜きでね。」
〜〜〜ほらきた、やはりモンスターはニンニクがお嫌いのようだ。血の滴るようなメニューばかりで何だかドラキュラを思い起こさせるのが不気味だ。しかしどうしよう、コイツラが本当にモンスターだったら……
ベルリーナ「なら我々に同行するって事で決定ね。ならば貴方にもパリピメロン家のしきたりに則ってこれから儀式を行いたいと思いま〜す。」
するとアーサーがヒッポ君に近づくやいきなり羽交い締めにしたかと思うと、今度はメチル女王が覆いかぶさりニコッと不気味に微笑むや、なんと彼女の八重歯がシャキーンと伸び始めたではありませんかッ!ヒッポ君は人間とは思えないほどの凄い力で羽交い締めされているため、動けないばかりか呼吸さえままならない様子。
ヒッポ君「ギヤーッ!だ、誰か助けてぇ〜っ!」
ベルリーナ「あらどうしたの?貴方が決断したんでしょ?我々パリピメロン家の仲間入りをする以上はこの儀式を受け止めてもらわないとねッ!さあ、お母様、やっておしまい、ほらほらジッとしてなちゃいよぅ、は〜い、チクッとしますよ~っ!」
なんなんだワクチン接種か?と思った次の瞬間、メチル女王がヒッポ君の首を傾けるや、首筋に向かって牙を突き刺そうとするのでした。その途端何処からともなく洞窟内に煙が立ち込めるや、視界を全くなくしてしまいました。そしてヒッポ君の記憶は徐々に薄らいでゆきましたーーー
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ヒッポ君が煙を吸ったせいなのか気を失ってから覚めると、そこは何処かの集落のパオのような建物の中だった。
ヒッポ君「一体、僕はどうしちゃったのだろう!そして此処は……」
ストレンジャー「お、目が覚めたかい?体調はどうだ?もうすぐ朝食が出来上がるから少し待ってろよ。」
快活な口調の真っ黒に焼けたその男はまるで砂漠の遊牧民のようだった。ヒッポ君は起き上がるとパオの表に出る。朝靄から朝陽が昇ると遠くまで広がる草原が露わになってくる。何とも清々しい朝だ。先ほどの快活な男は焚き火で飯盒炊飯をしている。
ヒッポ君「やぁ、君一人なのかい?僕の名はヒッポ君、君は誰?」
ストレンジャー「俺の名はストレンジャー、いつもの一人旅の途中なのでね。」
ヒッポ君「それにしても昨夜はまるで悪夢のようだった。だがあまり思い出せないけど一体何があったの?」
ストレンジャー「大変だったよ、俺があの洞窟にたまたま通りかかったら、君が3人のモンスター達の餌食になりかかって居たのさ。そして咄嗟にモンスター避けとして準備していた煙幕をはって君を助けたんだよ、間一髪だったな。しかし君は何故あんなにわかりやすいモンスター達に近づいたんだい?」
ヒッポ君「わかりやすい?そうかなぁ、だってあいつらよりにもよって僕の知りあいに化けてたんだから間違えて当然だよ。」
ストレンジャー「なるほど、それで理解した。君はきっと催眠効果のある呪い魔法をかけられていたのだろう。君からは知り合いに見えるように操っていたのだろうが、僕から見たら何処から見ても魔物そのものだったからな。ということは、奴らに会う前の段階で誰かにかけられていた、としか考えられないが……心当たりは?」
ヒッポ君「ならば、あの洞窟に入るまで地下世界を一緒に旅していたマウリシオだろうな。だけどアイツも洞窟の中で魔物の正体を露わにしたんだけどね。後は洞窟まで案内をしてくれた天使だけど、彼女はとっても親切だったから僕に催眠魔法をかけるようなことはしないな、マウリシオとは違ってね。」
ストレンジャー「ふ〜ん、そう思う?僕が疑うのは逆に天使のほうなんだがな。もともと天使ってのはイタズラ好きな性分であるから、多分彼女が犯人で、そのマウリシオが君を助けに来てくれたのかもしれないと。」
ヒッポ君「な、なんだって!それじゃあマウリシオはいい奴だったってこと?そんなぁ……だってマウリシオが魔物に見えて散々悪態ついたんだから……」
ストレンジャー「まぁ今や過ぎたことは綺麗さっぱり忘れなよ。それが旅人の流儀だからね!」
爽やかな草原の空気の中で美味しいはずの朝食だが、マウリシオの気持ちを思うと一気にどんより重い空気に包まれて喉も通らない気分になるヒッポ君であったーーー
///to be continued!!!☆☆☆〜〜〜




