第56章
皇后メアリーの乗った馬車がナディアの宮殿に到着する。
「おお!かつての我が屋敷よ、懐かしきかな……」
すると執事シュミットが正面玄関から迎えに出る。
そして場所が横付けられるとシュミットの目の前にメアリーは降り立った。
「まさかこんな事が起こるなんて……貴女はメアリー様なのでしょうか?」
ダイアリーの中の世界へ旅立ってからはや二十年、それはシュミットにとっても長い年月であった。
「ええ、ご無沙汰でしたね、シュミット。あらまあすっかり真っ白になってしまって。
私の娘時代の貴方はスラッとしたとってもハンサムで快活でいらした事を思い出しますわ。」
「ところでこちらの世界にお戻りになったのは、何かしらの探しものでしょうか?」
「あら、察しが宜しいところはお変わりないのですね。
そうです、実はナディアが私のダイアリーの中の世界を乗っ取る為に来たのを察して、自らこちらの世界へと避難して参ったのでした。
しかしナディアがダイアリーの実権を握った未来はケセラにとっても宜しくない事は目に見えております。
彼女は昔から自分勝手な性分でしたから。
もっとも私の育て方が悪かったのも事実、勉学ばかり強要した結果、あのようにひねくれた悪役令嬢となってしまいました。
しかし不思議なことにケセラにはその要素が感じられないのです。
せっかくナディアから逃れてきたあの娘は、ナディアが到着した事をきっと悲しんでいるに違いないのですから。
それに気付いた私は、この宮殿の図書室にある筈の、パリピメロン家の秘伝の魔法取扱説明書を見つけ出し、ナディアと対峙することを決意したのです!」
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メアリーが図書室に籠もり、片っ端から取扱説明書の在り処を探すと、シュミットがそれを隠し持って渡さずにいた。
メアリーは驚きながらも、怒りを抑えて言った。
「シュミット、なぜ私に取扱説明書を渡さないの?それが私たちの唯一の希望だというのに!」
シュミットは深くため息をつき、重い口調で応えた。
「メアリー様、その魔法取扱説明書は強力な力を秘めています。
ナディアがそれを手に入れれば、この世界に大きな混乱をもたらすでしょう。
私はあなたが危険な道に進むことを望みません。」
メアリーはシュミットの言葉を理解したが、彼女の決意は固かった。
「でも、私はナディアを止めなければならない。彼女が支配する未来は誰も望まないものだ。
私はこの取扱説明書を手に入れて、彼女と対峙しなければならない。」
シュミットは考え込んだ表情でメアリーを見つめ、しばらくの間沈黙が続いた。
ー****ーーー
するとメアリーの脳波にケセラからのメッセージが届く。
「メアリーお祖母様、私のことなら心配なさらないで下さい。
ナディアお母様が私に不利な条件を突きつけそうな場合は、先程こちらの世界に戻ってきたシャーマンのジュズッピが助けてくれますし、他の仲間たちも黙ってはいませんから。
お祖母様は決して危険な真似などなさらないようにおねがいします。」
ケセラの言葉を聞いた瞬間、皇后メアリーの気持ちはいくらか和らいでいた。
執事シュミットに話の内容を伝えると、
「作用ですよ、ケセラ様の仰る通りですよ。あのお方ならきっと立派にナディア様をエスコート出来るはずですから。」
そう言い残すとシュミットは図書室を後にする。
メアリーは半ば放心状態で図書室の奥の棚の方へと向かうと、床にポッカリと扉が開いていることに気づいた。
そしてメアリーがまだ少女の頃の記憶が、まるで昨日の事のように一気に蘇るのを感じた。
「あら、この扉って……そうそう、よくあちらの世界に此処から遊びにいってたものね……」
彼女は恐る恐るランタンの光を頼りに階下へと降りてゆくのだったーーー
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床下のパープルに彩られた奇妙な別世界に降りたったメアリーは、そこでかつてのマウリシオ爺さんと再会する。
マウリシオは驚きと喜びを隠せず、メアリーを抱きしめた。
「メアリーや、まさかこんなにも時が経ってから!どうしてこちらへ…」
彼の言葉を遮るように、メアリーは短く息を切らせて説明を始めるのでした。
「ナディアが私の世界を乗っ取ろうとしている。
私は彼女を止めるため、この魔法取扱説明書を手に入れなければならないの。」
少しだけ淋しげな表情となりながら、マウリシオは深くうなずくと、その決意を理解した様子だった。
「分かりました。私も力になりましょう。こちらには、あなたが必要な情報や支援が揃っていますから。」
メアリーはマウリシオに感謝の言葉を述べ、彼と共に床下の世界を探索し始めた。
そこでは、マウリシオを含む多くの住人たちがメアリーの帰還を喜び、彼女に力を貸そうとしていた。
彼らはナディアの野望を阻止するために団結し、メアリーをサポートすることを決意したのだ。
メアリーはマウリシオや奇妙な世界の住人たちと協力しながら、魔法取扱説明書を見つけるために奮闘した。
彼らの努力と団結によって、メアリーは次第に自信を取り戻し、ナディアとの対決に臨む覚悟を固めていったのでしたーーーー
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奇妙なの別世界の住人たちと共に、メアリーは未来を変えるための戦いに挑む決意を新たにしたのだった。
真っ白な長い吊りヒゲの人の良さそうなマウリシオ爺さんはメアリーが少女の頃にやってきた時と同じレシピの奇妙な料理を御馳走しました。
「あ、あの時と同じ味だわ!何だか懐かしい。」
すると改まったかの様な態度でマウリシオ爺さんがメアリーに向かって本音を言う。
「なあメアリー、お前の言うナディアの心配事のこともよく分かる。
しかしそろそろ君も自分の事を大事にしたほうが良いのではないかな?
ナディアの娘ケセラも大人になった事だし、君もこの床下の奇妙な世界で余生をのんびりと過ごす、ってのも悪くないと思うのだが……」
メアリーはこの話を聞くや、かつての少女の瞳が蘇ってくる。
その純粋な心でこの床下の世界を再び見渡してみると、奇妙な世界どころかとても神々しく思えてくるのだった。
マウリシオ爺さんは言う。
「お帰り、この日が来るのを待って居たよ、あの日の少女、メアリー!」
白い吊りヒゲの優しげなマウリシオ爺さんは、さも満足の表情でメアリーを迎え入れるのでしたーーーー
メアリーはマウリシオ爺さんの言葉に心が軽くなるのを感じます。
彼の優しさと床下の世界の温かさに包まれて、かつての闘争心から解放されたようだった。
「マウリシオ爺さん、ありがとう。あなたの言葉で気持ちが整理されたわ。
確かに、ナディアとの闘いだけが私の人生ではないのね。
この床下の奇妙な世界にも、たくさんの素晴らしいことがあるんだから。」
マウリシオ爺さんは微笑みながら頷いた。
「そうだよ、メアリー。 ここには君の新たな冒険や発見が待っている。そして、私たちはいつでも君をサポートするから。」
メアリーは感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、床下の世界に希望を見出すことができた。
すると不思議なことに図書室の入口から続く螺旋階段が静かに消えていくのを感じましたーーーー
「あらどうしましょう、螺旋階段が消えてゆくわ。もう、もとに戻る必要はありませんわね……」
マウリシオ爺さんは笑いながら言った。
「それはこの世界が君を本当に歓迎している証拠さ。ここで君の新たな人生を始める準備が整ったってことなんだよ。」
メアリーは少女のような喜びに満ちた笑顔で、床下の世界に身を委ねる決意を固めた。
彼女は新たな奇妙で素敵な発見を楽しみながら、この不思議な世界での余生を過ごすことを決意したのでしたーーーー
///to be continued!!!☆☆☆




