第43章
ジョルノ公爵の息子ジェノべは長老の執事シュミットの故郷で共に休暇を楽しんだあと、ナディアの戻る予定日までに宮殿に戻るのでした。
ところがどうしたことかナディアはとっくに戻っていた様子で、宮殿の図書室にこもって慌ただしく調べ物に余念がありませんでした。
その調査内容はシュミットの耳にまだ聞かされてはいませんでしたが、きっと「呪い魔法のダイアリー」に関するパリピメロン家の繋がりについて紐解いているのだろうとシュミットは気づくのでした。
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シュミットが呪われたパリピメロン家の真実についてナディアが探っている内容は、どうやら母親の皇后様の残したダイアリーの中の世界に何かしらの変化が生じたことを示しているのだと、ジェノべに謎解きをし始めるのでしたーーーー
ジェノべ:「シュミット、ナディアが何を調べているのか気になるな。」
シュミット:「ジェノべ殿、おそらく彼女はパリピメロン家の呪われた真実について調べているのではないでしょうか。」
ジェノべ:「なぜそう思うのか?」 シュミット:「皇后様のダイアリーの中で、何かが変わったということです。彼女がそれに注目しているのは明らかです。」
ジェノべ:「母上のダイアリーに変化があったのか?それは一体何だろう?」
シュミット:「そうです。恐らくその変化に何らかの謎が関係しているのでしょう。」
ジェノべ:「では、私たちも調査を進めるべきだな。ナディアに協力を申し出よう。」
シュミット:「了解しました。しかし、慎重に行動する必要があります。パリピメロン家の秘密は深いものです。」
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ナディアは母親であった皇后様からの血筋であり、「呪い魔法のダイアリー」の中の世界で魔法使いの座についているのだろうと、かつて読んだ「No.0666」の内容から回想していた。
そして自分にも呪い魔法のスキルが血筋として備わっているだろうとも思えて。
きっと皇后様はあちらの世界を支配しているだろうことも、血筋からして想定外していた。
しかしナディアはその根拠となるパリピメロン家に古くから伝わる伝記から探ろうと、夕べから図書室に籠もりっきりで調べていたのだった。
執事シュミットはキッチンでお湯を沸かし、アールグレイを図書室まで運んでゆく。
ティーカップを受け取ったナディアが執事シュミットに皇后様の過去の出来事からダイアリーの秘密を聞き出そうとする。
ナディア:「あらシュミット、ありがとう。」
シュミット:「どういたしまして、ところでお嬢様。図書室での調査が進んでいますか?」
ナディア:「はい、進んでいます。でも、まだ何も新しい情報は見つかっていません。」
シュミット:「皇后様の過去に関するダイアリーから何か手がかりは見つかりましたか?」
ナディア:「いいえ、まだです。でも、この家の伝記を読み直してみても、何か見落としている気がします。」
シュミット:「お嬢様、その伝記にはきっと何か重要な情報が隠されているのかもしれません。」
ナディア:「そう思います。母上があの世界でどのように力を行使していたのか、それが鍵です。」
シュミット:「では、私も伝記を手伝ってみましょうか?」
ナディア:「お願いします、シュミット。一緒に母上の過去を解明しましょう。」
するとシュミットが奥の書棚から、赤い革の装丁で設えられた分厚い本を取り出すとナディアに差し出す。
それはナディアのまさに望んでいたパリピメロン家の成り立ちが随所に書かれた書物でした。
ナディアはこの日からこの伝記に誠心誠意向き合ってゆくのでしたーーーー
シュミット:「こちらがお探しの伝記ですかな、お嬢様。」
ナディア:「これは…!」
シュミット:「パリピメロン家の歴史や成り立ちについて詳細に記されています。」
ナディア:「ありがとうございます、シュミット。これで私もより深く理解できるでしょう。」
シュミット:「お手伝いできて光栄です。私もお嬢様の研究をサポートいたします。」
ナディア:「それでは、早速読み始めましょう。母上の秘密がこの中に隠されているかもしれません。」
ナディアとシュミットは一緒に書物を開き、パリピメロン家の伝記に没頭していくのでした。
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執事シュミットにはこの伝記以外にも別に、皇后様がよく愛読されていた物が有ることは知っていましたが、あえてその伝記を出さなかったのには理由がありました。
それは彼の過去の過ちが露呈することを恐れての行動だったのですーーーー
シュミット:「お嬢様、もう一つ伝えねばなりません。皇后様がよく愛読されていたものがあります。」
ナディア:「そうですか?それは何ですか?」
シュミット:「ですが、それは…」
シュミットはためらいながらも、言葉に詰まる。彼の顔には過去の過ちを思い出す苦悩が浮かび上がる。
ナディア:「シュミット、どうかなさったのですか?」
シュミット:「申し訳ありません、お嬢様。私は過去に皇后様の信頼を裏切ったことがあります。そのため、その物をお見せすることはできません。」
ナディア:「過去のことを気にしなくてもいいですよ、シュミット。私は信頼しています。」
シュミット:「ありがとうございます、お嬢様。でも、私はまだ自分を許せていません。」
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そうナディアに告げると彼はその場をあとにします。それはナディアの親切心をありがたく受け取ることよりも、ナディアについて関連する項目もあまりにも多く、今の彼女の心境を察するとまだ見せるのは早いとの決断に至ったからでもありました。
シュミットがジェノべのもとへと赴くと、彼は今から宮殿から続く歩道の散策に向かうところだったので同伴することにしました。
シュミットがジェノべにナディアへの心境について語るのでしたーーーー
シュミット:「ジェノべ殿、失礼いたします。」
ジェノべ:「シュミット、何か用か?」
シュミット:「ナディア殿について、少々お話があります。」
ジェノべ:「何かあったのか?」
シュミット:「ナディア殿は最近、母上の秘密について熱心に調査をしています。」
ジェノべ:「それは興味深いな。」
シュミット:「ただ、私は彼女に関連する項目があまりにも多く、彼女の心境を考慮するとまだそれを見せるのは早いと判断しました。」
ジェノべ:「なるほど。彼女はそれにどう反応した?」
シュミット:「彼女は私の過去の過ちを気にかけず、私を信頼してくれました。しかし、私はまだ自分を許せていません。」
ジェノべ:「シュミット、君は過去のことを乗り越えなければならない。君は信頼されているし、自分を許すことが大切だ。」
シュミット:「ありがとうございます、ジェノべ殿。」
ジェノべ:「さあ、散策に行こう。気分転換になるだろう。そして、ナディアに対する心の準備も整えておくんだ。彼女は君のことを大切に思っている。」
シュミットとジェノべは宮殿を後にし、歩道の散策へと向かうのでした。
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新緑も深まる初夏の小道の石畳を進む道すがら、角を曲がった向こう側から一人の女性が現れる。
彼女が通り過ぎざまにジェノべの耳元で何かを囁いた気がした。
咄嗟に振り向くと彼女はもうそこには居なかった。
するとシュミットが察したようにつぶやき始める。
「あの方はケセラという名の娘でして、ナディアさんの娘なのですが変わった娘で、いつも物思いにふけるような、自分の世界の中で暮らしているとでも申しましょうか、誰ともお話はなさらないのです。」
ジェノべがケセラのことを過去に何処かで会ったような気がしてならないのでしたーーーー
ジェノべ:「ケセラという名前…なんだか聞いたことがあるような気がする。」
シュミット:「それは奇妙な巡り合わせですね。彼女はなかなか他人と交流しないようです。」
ジェノべ:「そうか…」
ジェノべは何か思い出そうとするが、なかなか思い出せない様子だった。
シュミット:「もしかしたら、以前どこかで彼女に会ったことがあるかもしれませんね。」
ジェノべ:「そうだな、でもどこで会ったか思い出せない…」
シュミット:「おそらく彼女は宮殿の中でもあまり姿を見せないので、普段はあまり目にしないかもしれません。」
ジェノべ:「それならなおさら、どこで会ったのかが謎だ。」
ジェノべはケセラのことを考えながら、歩道を進んでいく。彼女の謎めいた姿が、なぜか心に引っかかっていた。
夕暮れまでナディアの宮殿の広い敷地を歩き回って散策から二人が帰りつくと、ナディアは既に食卓でお待ちかねの様子だった。
二人は席につくとナプキンを引っ掛ける。給仕がそれぞれの皿にパンプキンスープを注ぐと、それがケセラであることにジェノべが気づく。
そしてケセラが豪華なグルメを堪能しながらナディアと今日あった出来事を語りあうのでした。
ジェノべ:「あのう、お嬢様。」
ナディア:「ジェノべ、シュミット。お帰りなさい。」
シュミット:「お嬢様、お待たせいたしました。」
給仕がスープを注ぐ間、ジェノべはケセラの存在に気づく。
ジェノべ:「ケセラさん、お久しぶりですね。」
ケセラ:「はい、ジェノべ様、シュミット様。お帰りなさい。」
ナディアは不思議そうな表情を見せながらも、二人の話を聞いていた。
ナディア:「ジェノべ、ケセラと何か関係があるの?」
ジェノべ:「ああ、今日散策中に偶然出会ったんだ。」
ナディア:「そうなんだ。」
ナディアとケセラは微笑み合い、食事を楽しむ。
そしてナディアは今日の出来事をシュミットとジェノべに話し始める。二人は笑顔で彼女の話に耳を傾けながら、夕暮れの穏やかなひとときを過ごします。。
ケセラがこのグルメは自分が作ったことを皆に披露し、メニューや作り方を詳細に説明するのでした。
ケセラ:「実はこのスープ、私が作りましたの。」
ナディア:「本当?それは驚きだわ。」
ジェノべ:「なるほど、美味しいスープだね。」
ケセラ:「ありがとうございます。このパンプキンスープは、秘伝のレシピを使っています。まず、新鮮なカボチャを選び、丁寧に切り分けます。
そして、バターで炒めた玉ねぎやニンニクと一緒にじっくりと煮込んでいくのです。その後、コンソメやスパイスを加え、濃厚な味わいを引き出します。最後に、ハーブを散らして仕上げます。」
シュミット:「なるほど、手の込んだ作り方だね。」
ナディア:「ケセラ、本当に素晴らしいわ。こんなに美味しい料理を作れるなんて、驚きだわ。」
ケセラ:「ありがとうございます、ナディア様。私、料理が大好きなんです。皆様に喜んでいただけて嬉しいです。」
ケセラの料理に感心しながら、皆は楽しいひとときを過ごすのでした。
そして今度はナディアがチョイスしたワインについて説明するのでした。
ナディア:「このワインは、私が最近見つけた素晴らしいものなの。」
ジェノべ:「興味深いね。どんなワインなんだ?」
ナディア:「これはバーロというトスケーニャ地方のワインなの。」
シュミット:「バーロか。あの地域はワインの名産地だ。」
ナディア:「そうなの。このバーロはクッビーというブドウで作られていて、力強くてフルボディな味わいが特徴なのよ。」
ケセラ:「それは素晴らしい選択ですね。」
ナディア:「ありがとうございます。このワインを選んだのは、今日の特別なひとときをより豊かにするためなの。」
ジェノべ:「素晴らしい考えだね。それでは、乾杯しよう。」
皆はナディアのチョイスしたバーロのワインを楽しんで、美味しい料理と共に素晴らしい時間を過ごすのでした。
するとジェノべが以前ケセラと何処かで会ったような気がしてならないことを告げると、どうしたことかケセラが席を後にする。
ジェノべ:「ケセラ、実はなんだか前にどこかで会ったことがあるような気がするんだ。」
ケセラ:「そうですか、ジェノべ様?」
ジェノべ:「ええ、でもどこで会ったか思い出せないんだ。」
ケセラは驚いたような表情を浮かべ、何かを考え込んでいるようだった。
ケセラ:「それは…」
しかし彼女は何か言いかけたようで、その言葉を飲み込んでしまう。
ジェノべ:「ケセラ?」
ケセラは微笑みながら、席を立ちます。
ケセラ:「すみません、私はもう帰ります。」
ナディア:「え?でもまだ食事が残っているじゃない。」
ケセラ:「ごめんなさい、急用ができたので。また今度、お会いしましょう。」
ケセラは急いで宮殿を後にし、何かを隠しているような雰囲気が漂っていたーーーー
///to be continued!!!☆☆☆




