第32章
ターシャに先天的に備わっている魔法の力の威力に脅威を覚えていたメチル女王。
彼女が娘であるターシャを祈祷師ジュズッピに依頼し、ダイアリーの中の世界に封印したという過去の事を始めて聞かされた今、ベルリーナの心境は複雑であった。
アーサーお兄様を巡っての恋敵である妹ターシャの存在は確かに目障りであるものの、腹違いの妹の置かれた立場の事を考えればメチル女王こそが悪役令嬢に思えて仕方なかった。
そこでメチルの旧友ザマンサにこの状況について相談する事にする。
ザマンサ:「そうだったの、原因はメチルだったのね。それにしても自分の娘が信じられなくなったら終わりね。あれでも昔は性格の優しい娘だったのよ。だから私も幼馴染みとして今まで付き合ってこれたのよ。」
ザマンサはしばし驚いた様子でベルリーナと話し込むのだった。
ザマンサはしばし驚いた様子でベルリーナと話し込む中、深いため息をついた後、静かに続けました。
「メチルがあのように変わってしまったのは…」
彼女は声を震わせながらも続けました。
「国王の失踪が原因なのです。彼女は国王をそれ程に溺愛していたのです。」
ベルリーナは驚きを隠せず、ザマンサの言葉に耳を傾けました。
「え、国王であるお父様が失踪したというのですか?」
ザマンサは尚も続けます。
「国王が姿を消したその後、メチルはあらゆる手段を行使し、何度も彼の行方を追い求めようと躍起になっていました。
それまでの温和な彼女の心はすっかり崩れ去り、彼女は祈祷師の魔法の力を暴走させるようになっていったのでした。」
ベルリーナは考え込みながら言葉を綴りました。
「つまり、メチル女王の変貌は愛する者を失った悲しみからきたものだったのですね。」
ザマンサは頷きながら慈愛に満ちた目でベルリーナを見つめました。
「そう、彼女は本当は優しい子でした。でも今の彼女の心の奥深くに有るものは…
私たちの手で、もしくは何らかの方法で彼女を救わなければならないのです。」
ベルリーナは決意を新たにし、ザマンサと共に、メチル女王の心を取り戻すために行動することを誓いましたーーーー
ーーー☆☆☆ー
あくる朝のモーニングの席ではザマンサとベルリーナがメチル女王に直談判するのであったーーーー
メチル女王∶「ええ、ターシャをあちらの世界にやったのは私よ。
それより先日のディナーに現れた、ダイアリーの中の世界から帰還したというあの人魚の姿をした娘は今何処にいるの?ほらケセラとか言ったわね、彼女ならこちらの世界との行き来が自由に出来るようだから、ターシャの様子を見てきて欲しいのよね〜。」
ちっとも心配する様子も無いメチルの態度に呆れる二人。
その場にいたベルリーナの兄、アーサーはその話を小耳に挟むや、メチル女王に噛みつく。
「お母様、一体あなたという人は……仮にも実の娘ですよ!」
その言葉に逆情するメチル。
「いいえ、あの子は国王であるお父様の死に別れた前妻との娘だから、私には無関係よ!」
アーサーはメチルをきっと睨む。
「お母様というお方は……ならば私もそのまた前妻の連れ子でしたので、同様に思われているのでしょうか?」
するとメチルはハッとした様子で
「い、イヤだ、そういう意味じゃないのよ…ただ、ターシャだけは別なのです。
あの子はきっと魔女の娘なのよ!ねぇジュズッピ、貴方もそう言ってたわよね……」
その答えに困ったようにモジモジするジュズッピ。
ー☆☆ー☆ーー
ジュズッピは静かな祈りの中、ダイアリーの世界から人魚のケセラを呼び出すための儀式を行いました。
瑠璃色に光り輝く水の中、幻想的な波紋が広がると、やがて姿を消したかと思えば、ケセラが美しい姿で現れました。
ケセラは優雅に姿を現し、穏やかな声で問いかけました。
「祈祷師よ、何をお望みですか?」
ジュズッピは心を静めながら言葉を選びました。
「ケセラ、メチル女王があなたを欲しています。彼女はターシャの行方を知りたがっています。
彼女の言葉によると、ターシャは魔女の娘だと考えているようですが、それは真実ですか?」
ケセラは微笑みながら答えました。
「メチル女王の心には疑いと恐れが渦巻いていますね。
しかし、ターシャはただの魔女の娘ではありません。
彼女は違った存在です。彼女の力は純粋なものであり、魔法の源ではありますが、それは決して悪意や邪悪なものではありません。」
ジュズッピは深くうなずきました。
「了解しました。ケセラ、彼女の元へ行き、彼女にメッセージを伝えてくれますか?」
ケセラは青い瞳でジュズッピを見つめ、
「あなたの言葉を伝えることは喜んで行います。しかし私の滞在時間は徐々に短くなっており、この世界への干渉は制限されつつあります。私が行けるのもあと数回だけだと思います。」
ジュズッピは了承し、ケセラにメッセージを伝えるように頼みました。
そしてケセラは光の粒子となって消え、ターシャのもとへ向かう旅に出ました。
するとどうしたことでしょうか、ケセラがこの場にいる全員をダイアリーの中の世界に連れ去ろうとしましたーーーー
ケセラが静かな光の粒子となり、部屋中を包み込むように消えていきました。
すると突然、その場にいた全員が眩しい光に包まれ、意識を失ってしまったかのように感じました。
目を開けると彼らは見知らぬ場所に立っていました。
周りは輝くような青い海に囲まれ、透き通るような空気が満ちていました。不思議ながら、彼らはダイアリーの中の世界に連れてこられたのです。
ベルリーナは驚きを隠せず、周囲を見回しました。ザマンサも同様に驚きを隠せない様子で、アーサーは深く息をつきました。
その場にいる全員が動揺し混乱したままでした。
ケセラが姿を現し、微笑みながら近づいてきました。
「皆さん、ようこそダイアリーの世界へ。こちらは特別な場所です。メチル女王の心を解放し、この世界の調和を取り戻すために、皆さんの力が必要です。」
彼らは驚きと困惑に包まれたまま、ケセラの言葉に耳を傾けました。
彼らはこの未知の世界で何が起こるのか、そしてどのようにしてメチル女王の心を救うことができるのかを知るべく、この新たな冒険が始まったのでしたーーーー
///to be continued!!!




