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3)間諜エステバン

「お祖母様は、この男エステバンが皇国の間諜だったことはご存知だったのですか」

アキレスが私の代わりに聞いてくれた。

「ハビエル殿下は神殿に身をおいておられますが、恐れ多くも皇国皇帝ビクトリアノ陛下の弟君であらせられます。殿下を王国までお連れした人物が、ただの旅芸人のはずがございません。あとは、カンデラリアから、昔の知り合いだとだけ聞いておりましたから」

「昔から、騎士姫様にはかないませんからねぇ」


 間諜だと暴露されたというのに、エステバンは悠長に相槌をうつだけだ。間諜というのは嘘で、やっぱりただの旅芸人の座長なのではと思いたくなる。

「悪事を働くことはないが、無駄に賢いから気をつけろとは言われましたわ」

「騎士姫様らしい」

イサンドロの言葉にも間諜エステバンは余裕の笑みだ。カンデラリアは、反乱を起こした先の皇帝の弟を決闘で倒し、反乱を鎮圧したことで知られている。カンデラリアを昔から知るならば、皇国皇帝一家近くにいたはずだから、やはり本当なのかとも思えてくる。


「間諜とおっしゃいていただいても、旅芸人ですから大したことはしておりませんよ」

エステバンは掴みどころのない笑顔を、私たち兄弟に向けた。


「間諜らしいのは、今回だけちゃうか」

「そやから頑張らしてもらいましたやん」

伯父ハビエル相手に、気安い態度だったエステバンが、兄と私を見た。


「これまでもこれからも、シルベストレ殿下とライムンド殿下のため、誠心誠意尽くさせていただきますよ」

つまりは、今の国王夫妻を追い落とす我々に協力するということだろう。母フロレンティナの恋人だったというならば、エステバンにとっては憎い男の息子ではないのだろうか。


「お前が育てた娘やろ。どないするんや」

エステバンの機微を思いやる気は伯父にはないらしい。


「ハビエル様も、さっき申し上げたやないですか。有象無象がひしめく伏魔殿ふくまでんですよ。平民からもまともに扱われん旅芸人の小娘を、そんなとこにいれたら、どうなるか。フロレンティナ様ですら儚くなられたというのに。本人が無理と思うのも当然です。あれは将来、一座の看板役者になればえぇんです」

皇国皇帝の実弟であり、大神官でもある伯父ハビエルを相手に、エステバンは面倒くさそうな態度を隠そうともしなかった。


 貴婦人のコンスタンサと呼ばれる大役者になると、コンスタンサは空色の瞳を輝かせて夢を語っていた。

「看板役者やいうてもなぁ。長生きせんやろ」

伯父ハビエルの言葉に、エステバンが顔を背けた。旅暮らしは過酷だ。


「身分がと言いますが、忘れましたか。私の夫は、元は私の護衛騎士です。見習い騎士の頃に家は没落していましたから、私と出会った頃は、身分などありませんでした」

大叔母フィデリアの言葉は事実だ。だが、それでも貴族の血だ。

「父のことをあれこれ言うものもいたようですが、皇国からの交易なくしてこの国は成り立ちませんからね。一時のものですよ」

イサンドロの父イノセンシオは、武功で辺境伯家の後継ぎとなった。勇猛果敢な武人を罵るものなどそう居ないはずだ。


「第二王子の命を助け、王妃の不正を暴くきかっけになった娘やろ。適当に功績に応じて身分でも与えとけばえぇやないか。全く。一人引き取るだけで、王弟の嫁の実家になれるんや。大抵の貴族が承諾するやろ。子供一人育てて、王族に嫁がせるのは手間暇かかるからな」

伯父ハビエルは気軽に言うが、コンスタンサはおそらくそれも見越している。


『子爵家の娘が、伯爵家の娘となって嫁いだのと何らかわらないと、コンスタンサは考えるでしょう』


「阿呆か。それくらいはお前が自分で説得せぇ」

伯父ハビエルの一喝が響いた。


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