1)コンスタンサの決意
「コンスタンサは、旅芸人として生きていくことを望むそうです」
「そうですか。あの子自身が決めるようにとは伝えていましたが。そう決心してしまいましたか」
座長の言葉を、大叔母フィデリアの深い溜め息が追いかけた。
予想していなかったわけではない。それでもコンスタンサが私から離れていくことを望むという言葉は、私を打ちのめした。
王国と皇国の関係を話し合うために集まっていた。先王の妹である大叔母フィデリアと辺境伯イサンドロ、世俗を離れてはいるが血筋上は皇帝の弟である伯父ハビエルの間に漂っていた緊張感は、突然現れた座長の発言で吹き飛んでしまった。
「ライムンド」
兄シルベストレが気遣わしげに私を見ていた。つい先程まで、次の国王となる兄シルベストレを私が気遣っていたはずなのに。一瞬で逆転してしまった。
イサンドロとアキレスが乱入してきた座長に、出ていくように促そうとしたが、二人を止めたのは意外な人の声だった。
「しかしまぁ、それは困ったこっちゃな。エステバン、お前はもうちょっと儂に早う相談せんかい」
伯父ハビエルだ。
「無茶をおっしゃらんといてください。私も聞いたところです」
エステバンと呼ばれたのは座長だ。
「ライムンド殿下は、これから王弟になるんやから、この国のために、どこかの国の王族か有力な貴族の娘を妻にもらうべきや。王国は皇国の庇護を得られるやろうけど、他の国との関係を考えたら、それが必要や。国王が若いというだけで侮られると、コンスタンサが言うてましたわ」
エステバンと呼ばれた座長が言う、コンスタンサの言葉の通りであることはわかる。
「えぇ子やないか」
「そうでしょう」
「賢いな。エステバン、お前と違って」
「聞こえませんねぇ。何のことやら」
座長は大袈裟に両手で耳を塞ぎ、戯けている。
「育ての親が、生意気なエステバンやというのに、まっすぐ育って、あぁ、そうか。お前が育てたからんやな。そら聞き分けが良すぎて面倒なことになるのも仕方ないわ」
伯父ハビエルの言葉に、繰り返しエステバンと呼ばれた座長が苦笑していた。
「儂はなぁ。あのときは、兄貴の決定は当然やと思っとったし、お前たちの決断は正しいと思っとったけどな。今となっては兄貴も儂も後悔しとる。エステバン、今更やと思うが、今更言うことではないんやが、すまんかった。今更やけどな、それでもな、儂はな、あの時、お前らを駆け落ちさせとけばよかったと思ってしまうわ」
「は? 」
思わず声を発してしまったらしい兄シルベストレを、伯父ハビエルの濃紺の瞳が捉えていた。
「ちょっとやそっと驚いたくらいで、静かにしとれ。まったく」
伯父ハビエルの言葉は、若造が、と続いたのかもしれない。
大地母神に仕える大神官が、駆け落ちなどという世俗そのものの言葉を口にしたのだ。兄シルベストレが驚くのも当然だ。私も驚いたが、声が出ないだけだ。
「それはそれで、旅の暮らしは厳しいもんですよ。今日の宿、明日の食べ物、今の水、全部揃えるだけでも難儀ですわ。風邪からあっというまに弱ってしまって、大地母神様の御許へと旅立つものもおります。随分沢山見送りました。あの御方もそうなってはったかもしれません」
「エステバン、お前がそう言うてくれると助かるが。お前の育ての娘はなんとかならんのか。随分と使えそうな娘やないか。己一人の利益やのうて、全体を考える頭なんてもんは、簡単に育つもんやない。なんとかせんか」
「あれはあれで真面目で頑固ですから」
「要らんところが、お前に似たな」
「そう言わんとって下さい」
二人の会話はどこか気安い。




