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2)うちの決意

 空いてる部屋の一つで、うちは座長と向かい合った。


 散々迷ったことやけど、もう決めた。

「座長、次に王都を出発する時は、うちも一緒に行く」

それが一番正しいねんから仕方ない。


「えぇんか。お前はそれで」

「ええの。決めたから」

散々考えて、うちが決めたことや。

「フィデリア様は、エスメラルダ様のお側にお前をって思って色々教えてくれはったんやろ」

座長の言うとおりや。フィデリア様には申し訳ないけど、でも自分で決めてえぇと言うてくれはった。


「うちは旅芸人や。王妃様になる御方にお仕えするのは貴族の御令嬢やん。うちみたいなんが、秩序は乱したらいかんのよ」

子爵家の令嬢パメラは、本来は王妃になれるはずがなかった人や。王太子プリニオ殿下もわかっていたはずや。皇国の黒真珠の君フロレンティナ様を王太子妃に迎えた以上、皇国の黒真珠の君フロレンティナ様を大切にして、フロレンティナ様が産んだ王子を次の王国の国王にせんといかんかったはずや。


 それが王国と皇国の約束や。両方の国に住む人たち全員の命がかかっとる。それやのに、子爵家の令嬢パメラが幼馴染やからという感傷で、王太子から国王になったプリニオ陛下は約束を反故にした。


 先代の国王陛下がご逝去されたから、好き勝手にしたんやろう。唯一止められるかもしれんかった、お母様である王妃陛下はフロレンティナ様が亡くなられてから間を置かずご逝去された。


 皇国との約束を王国の若い国王が破ったんや。許されるわけがない。何らかの功績があったわけでもない子爵家を伯爵家にしたことも、王国の中では問題視されとる。王族という身分や血筋に支えられとる人が、身分という垣根を壊したんよ。えぇわけがない。


「お前、拾ったあれはどうするねん。懐いとるぞ」

うちは旅芸人や。貴族だけやなくて平民からも蔑まれる流浪の民や。

「ライのことは大切やけど、ライは王弟殿下になるお人や。うちなんかが、傍におったらいかんのよ。そもそも会うはずのない人やし」

皇国の黒真珠の君に愛を捧げる座長やないけど。思ってる分には自由やけど、それ以上はいかん。


「コンスタンサ。お前最初にあいつをどこで見つけたか覚えとるか」

座長の言葉にうちは笑った。随分前のような気がする。

「うち、手が落ちとると思ってびっくりしたんよ」

ライが、手を引っ込めとったら気づかんかったやろう。あの穴蔵で死体になっていたはずや。誰にも看取られんと。本当にそうならんで良かったと思う。


「大地母神様の神殿やったな」

「裏庭やね」

「俺は、大地母神様がお前をあいつに引き合わせたんやと思っとる」

「座長、お芝居やないんやから。夢想家みたいなことを言わんといて」

「俺はお前がここに残るべきやと思う」

座長の言葉は優しいけど、残酷や。


「座長はうちに愛人になれって言うん」

「そやない」

座長は否定したけど、ここに残ったらうちにはその道しか無い。

「王弟ライムンド殿下は、いずれどこぞの姫君とご結婚なさるでしょう。先の王妃である義母パメラとその派閥による殺人と、それを許した先の国王実父プリニオのせいで弱った国を支えるために」

芝居の語りをうちは真似た。王国のためにはそれが正しいことや。

「うちは、それを見たくない」

泣きたくないのに涙が出てくる。


「あいつを一人残して行ってえぇんか。相変わらずの甘えたやろうに」

今も添い寝しとるよ。本当ほんまにうちがおらん間は一人で寝とったはずやのに。すぐちっちゃい子みたいになってしまったわ。


「あかんけど、いやや」

「お前に愛人になれとは言いたくないけどな。傍におれるで。侍女でもええやんか」

座長は優しいけど残酷や。


「嫌や。ライの奥さんなんて見たくない」

ライは優しい。ライが奥さんと愛人とか侍女のうちの両方に優しくしてくれても、うちは奥さんには優しくなんて出来へん。うちはライほど優しくはない。

「ライは奥さんに優しくせんといかん。うちはそんなライを見たくない」

「そっか」

血筋はうちにはどうしようもない。


「そやったら、しゃあないなぁ」

座長の深い溜息の続きの言葉をうちは待った。


「あいつには言うたんか」

「言うてない」

「フィデリア様は」

「これからや」

教えて下さったご恩はあるけど、エスメラルダ様にお仕えする侍女にって言うて沢山のことを教えてくれはったけど、それやったらライに会うから嫌や。


「どうするかはお前が決めることやけど。相手にきちんと言わんといかんな」

座長がそういうのはわかっとった。

「わかっとるけど」

ライには言いたくない。泣いてしまいそうや。


「フィデリア様とあいつと、あとはあれやなぁ。宰相様か。そのくらいの人には言うとけ」

「ライも言わんと駄目? 」

「突然お前がおらんくなったら心配するやろ。あいつはお前がおらんくなったからって心配してホイホイ探しに出かけられる体でもないし、立場でもないわ。言うとけ。可哀想や」


 座長がまた溜息を吐いた。

「しかしまぁ、なんでお前まで」

トニアも恋人は出来たことがあるけど、結局は独り身や。クレト爺ちゃんは若い頃に奥さんと死に分かれてはるし。

「知らんよ」

黒真珠の君フロレンティナ様に永遠のかなわぬ想いを捧げる座長が率いる一座や。

「仕方ないんよ」

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