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1)再会

 冬の間、眠っていた庭の草木が目覚めて芽吹き出す。庭に緑が見え始め、春の気配がそこかしこに香る頃。


 うちは懐かしいけど、ちょっと腹立つ人と再会した。

「座長!」

「コンスタンサ、元気やったか!」

「あたり前や」

座長は、うちを馬車と荷馬車の修理代においていってくれたからね。来てくれたのは嬉しいけど、許しとらんよ。


「ほら、美人なお顔を見せて、うちに」

「トニア。トニアも変わらんと美人で嬉しいわ」

トニアも変わらず美人や。


「ほれ、ちっこい母ちゃん、ちゃんと面倒みとったか」

「もう。クレト爺ちゃん。その言い方やめてって言うたやん。忘れたの」

「何を言うとるか。いろいろ忘れるにはまだ早いわ」

クレト爺ちゃんも元気で嬉しい。


「ま、ちょっと来いや」

一座の仲間と再会を喜びあったうちは、思わせぶりな座長に、馬車の中に案内された。


「こっそり、大奥様に伝えてくれんか。お客人や」

頭からすっぽり頭巾を被った男性がおった。

「すまんの。嬢ちゃん。よろしく頼むわ」

低い初老の男性の声は、うちが知っとる声に良く似とった。


「執務室が良さそうですね」

フィデリア様の驚きは一瞬やった。

「はい」


 座長が、一座に紛れ込ませて王国の王都にまで連れてきた御方は、なかなかにとんでもない人やった。


 執務室では、ライが思いがけない人と再会した。

「お前がライムンドか。本当によく似とる。赤ん坊の時以来や。覚えとらんやろうな。よう無事で。大きくなったなぁ」

初老の男性の目には涙が溜まっていた。


 うちは座長をつついた。

「さすがに一番上ちゃうぞ」

囁いた座長に安心した。そやけど、一番上やなくても。あぁ言うことを言わはるってことは、二番目ってことやんねぇ


 頭巾をとった男性は、真っ直ぐな白髪混じりの黒髪をしてはった。どこかライと似た端正な顔立ちで、ライと同じ群青の瞳や。ライの口が動いた。声は無い。

「そうや。儂や。ハビエルや」

ハビエルと名乗った男性は、大きく腕を広げた。ハビエルは、皇国の大神殿の大神官様のお名前や。神官様方の頂点に立つ御方、皇国皇帝ビクトリアノ陛下の弟君。亡くなられた皇国の黒真珠フロレンティナ様の兄君や。

「すまんなぁ。儂はお前を守ってやれんかった」

ハビエル様に抱きしめられたライの肩が震えていた。

「すまんなぁ」

ライが首を振るのが見えた。

「すまんなぁ。すまんかったなぁ」

かすかに混じる嗚咽に、二人の姿が滲んだ。


 ハビエル様は悪くない。悪いのはハビエル様ではない。でも、それを言うのはうちではない。


 うちは、座長の袖を引っ張った。家族の時間や。うちらは居るべきではないやろう。座長も大人しくついてきた。


 うちには、座長に言わんとならん大事なこともあった。


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