4)うちの心配
夢物語を売るのは吟遊詩人だけやない。うちら旅芸人も同じや。
夢物語を演じるのが芝居や。悲劇の美女って芝居うけするんよ。黒真珠の君フロレンティナ様の芝居が人気やったのと同じや。どこぞの旅の空におる座長が喜んで飛びついとる気がする。座長は、王妃パメラ陛下のことは大嫌いや。黒真珠の君は永遠の心の姫君やし。ライのことも最初から気に入っとったし。
座長が、王妃パメラ陛下の悪事を世に知らしめたるって張り切りそうや。どういう台本を書くかと思うと恐ろしいわ。
芝居は芝居、本当のことではありませんよ、嘘を物語として芝居で演じているだけです。というのが、芝居をするうちら旅芸人の建前や。王妃パメラ陛下の悪事を芝居にするなら、関係する人の名前を適当に変えて、王妃様には関係ありませんという常套句で誤魔化すのが旅芸人やけど。
『絶世の美女、侍女エスメルダの悲劇になっているだろうね』
ライはそう言って笑うけどね。
『エスメラルダが問題ならば、エマでもエミリアでもいろいろある』
うちが心配しとるのがわかるんか、ライは色々いうてくれるけど。
「問題はそこやないねん。座長は、王妃パメラ陛下が元から大嫌いやから。噂だけでも、相当な悪人にするやろうし。それに、うちらしか知らんことがあるでしょう。なんで教えてくれへんかったんかって言われるかもしれへんし」
色々と自分でも矛盾しとるけど、座長は座長やねんよ。
『今、彼に教えるのは無理だ。旅の空の下、風の向くまま気の向くままだろう』
懐かしい座長の口癖や。
「知ったら知ったで、座長がどういう台本書くか、わかったもんやないから怖いねん。普段は睨まれることをせん座長やけど」
うちはフィデリア様と観劇をした日、黒真珠の君を演じとったあの芝居小屋の熱気が忘れられへん。
「ライのお兄さんが行方不明になったあの事件から、座長は王国で黒真珠の君の芝居を止めてん。皇国では続けとったけどね。王都で黒真珠の君を演じたのは、本当に本当に久しぶりやってん」
ライは静かにうちの話を聞いてくれている。
「座長が何を考えとるのかわからへんけど。黒真珠の君の芝居のあと、それこそ、ライが言うとるような芝居までしたら、一座がどうなるか、心配や」
『彼のことだから、そこは賢く立ち回るだろう』
「何かあるかも知れへんやん」
ライは座長を信用しとるみたいやけど。
「座長は、黒真珠の君に心を捧げとって、王妃パメラ陛下が大嫌いで、ついでに国王プリニオ陛下も大嫌いやで、時々頑固やから、何するかわからんのよ」
『彼も大人だ。無謀なことはしないだろう』
座長は時々意固地で我儘になる。クレト爺ちゃんですら、手に負えへんくらいや。
「黒真珠の君の忘れ形見の悲劇になりかけとった誰かさんやねんから、もうちょっと慎重になってよ」
うちはおもわず口走ってしまった。思い出させたらいかんのは、分かっとったのに。うちが謝るよりも先やった。
『あの日、君が通りがかってくれなかったら、そうなってたわけだ』
「他人事やないでしょう」
軽口でうちの反省をぶち壊したライに、おもわずうちは追い打ちをかけてしもうた。ライの顔が強張った。




